第30話
翌朝。ほぼ出席者全員(里の皆様含む)が裸同然となる、恐ろしい(一部目の保養)婚礼の宴が漸く終わりを告げて解散となった。ポーションの防壁を一発で乗り越える程の度数の高い酒の波に、堕とされ掛けたのは何度となく。
アゲアゲまくりのテンション。全身全霊で押さえ込む性への欲望。遂に脱ぎ出す母娘。正気を保って居られたのはポーション様様。土下座して感謝します。
そんなある意味、精神的な修行を終えて放心気味の朝。お薬効果で二日酔いは無いが、重い倦怠感を抱えたまま、広い客間でクレネと2人。マップの確認に勤しんだ。
クレネの実家(生家)、長宅へとお誘いは受けたが丁重にお断りさせて頂いた。もうこれ以上は自分が暴走してしまいそうで怖かったからだ。何が?それ、聞くレベル?
宴の終局での攻防や葛藤の幾つかを乗り越えて、やっと落ち着いてマップを確認する事が出来た。
狙い通りに、魔王は東の海洋のど真ん中を航行中。空か海の中かは不明瞭だが、与えたダメージから推測すると恐らく海の中だろう。奴の固有スキルにあったんだよなぁ・・・超回復と超再生が・・・。
要するに奴は馬鹿みたいに回復再生する、巨大な空飛ぶ蜥蜴の一種ですね。
魔王の消滅は無し。色は赤色のまま。ほんの僅かにピンク色が差し込んでいるようにも・・・きっとお酒で目がぼやけているのだと流した。
距離と回復までの時間を考察。最低でも2日は掛かると概算。
急襲も有り得るが、その点は注視していれば問題なし。
次に魔王が賢人の里を狙った理由が不明な点。長の2人も首を捻っていた。過去にも魔王が直接侵攻して来た事は無いそうで。今回が初めてで間違いないらしい。とっても貴重な秘薬は存在するが、以外の目立った特産物や秘宝類は無いといった状況。魔王の意図が見えない。
秘薬は無事にしっかりキッチリ頂きました。人間が己の寿命を延ばそうと日夜励んでいる、そんな夢物語に等しい秘薬が異とも簡単に。味は尋常じゃなく苦かったけど、その効果を考えればお手軽に美味しい訳がないので、頑張って悶絶しながら飲み下しましたとさ。効果が薄まる危険性がある為、酒やポーションで緩和出来ず、ストレートに一気飲みした。
職種 体現者、拳聖、賢人相当 が追加されていたので完了した物と判断します。にしても、拳聖って・・・改めて考えると凄いよねぇ。某DBさんのような技とか・・・できる・・・かも知れない。次の魔王にでも試してみよう。
魔剣。BOX内に永久追放中。自分では出してやるもんかと固い決意をしているが、今後の展開状況に依っては、出さざる負えない。出すのはどうやら確定。それがいつなんだと言う話。持たされているというのは、詰まりはそういう事である。そんな場面がやって来るのだと。
広い安全そうな場所を見つけて、そろそろ取り出す練習をしておいても良いかも。実際何が起きるのか、見てみない事には始まらない。あの時は・・・魔王の身体であったから、何事も無かったように思えるので、人の身体では何が起きる?まぁある程度の予測は立つけど。だってあの醜悪スキルだよ。持ってても怖くて使えない。勇者さんはどうする気なのだろうか・・・。
魔王ブシファー。憑依と従属のスキルの効果は未だ解っていない。使ってないから。
魔王カリシウム。全状態異常耐性と冷気操作。耐性は是非とも欲しかったが、勇者が移動を開始した為に早々に断念した。
魔竜王ゴライアイス。超再生と超回復。反則級ですよねぇ。
順序はどうであれ、以降の魔王も際物スキルを持つに違いない。未だに魔王ランキングを誰が設定しているのかも、倒す順番なんて解らない。勇者さんは2番目に雪男(兄弟子)を選んじゃったし。俺は実際戦った訳じゃないけど、雪男兄さんも相当強いよ。少しだけ不安が募るが、そこら辺は師匠に丸投げで。
気掛かりが有るとすれば、魔剣や武具の類いをブシファー以外が持っていない点。確かに雪男兄さんやドラゴンに武器を取れ、などとは不自然さの極みだが・・・。暫くの熟考。飽きてしまったクレネの2つの柔らか攻撃を背中に受けつつ、深く考えた。
魔王の動きが活発化している要因。勇者に依ってその一角を堕とされたというのも有るだろう。しかしそれよりも・・・勇者の動きが・・・俺の行動に追従している!同時に魔王もか。全ては魔剣を持っているが為に。何だよ、BOXから出さなくてもバッチリ威力発揮してるじゃん・・・。
「捨てちゃえば?」
「だよなぁ。こんなばっちぃ物捨てるに限るよな」しかしながら捨てる場所が問題となる。完全破壊を目指さないと、この存在だけで他にどんな影響を及ぼすのか。おいそれと中古ショップや闇市に流す訳には行かない。うーむ、溶岩でも溶けないとなると・・・。一度聖都かどっかの鍛冶ギルドに行ってみよう。シュレネーさんの伝手ないかなぁ。
それと忘れてならない、魔剣自体の復活である。魔王が出来るなら、対の魔剣が出来ないはずはない。もし俺が破壊に成功しても、別の魔王の所で復活されたら本末転倒。事は慎重を要する。
暫くして朝食にお呼ばれした。純和風とまでは行かないまでも、歯応えのある麦飯に焼き川魚、野菜のスープ。菜物のお浸し。立派であり美味しくて満足。心の何処かでは真っ白なお米や合せのお味噌汁を求める自分が居たが、それを出すのは失礼と言う物だ。
「お口に合わなかったかしら?」複雑な表情の俺を見て、御母様が声を掛けて来た。
「いいえ。ご馳走で、とても美味しいですよ。ただ少しだけ前の世界の食事を思い出してしまって」正直に気持ちを答えた。
「私も頑張るから。まだ下手くそだけど・・・。上達するまで待っててね」クレネの料理はまだ食べさせて貰っていない。修行中に何度か師匠がクレネ製の手料理を食べていたが・・・言わずもがな。俺の休憩時間が予想外の所で取れたとだけ。ま、真逆毒を盛った・・・訳はないと思うので、これ以上は言わぬが華だろう。
別に自分でも作りたければ作るれるし。料理スキルとかは、この世界には無いらしい。あれは単純に経験や設備だけの問題なので。料理スキルで無双とかは、別の物語でしょう。
世の中には料理工程の序盤で、レシピを踏み越えて独自のインテリジェンスを加えまくって失敗する人が居る。あんな奇想天外な類いは除外に限る。機会があればクレネと一緒に作ればいいさ。
肉系の料理は祭事や婚礼だけの特別なご馳走だそうです。里の皆さんが余り手を付けないので、出された全種制覇は簡単だった。ジビエ(鹿、猪、馬肉など)が主なのでクセは存分にあったが、臭みを抜いたしっかりした味付けで充分に美味しいお摘まみでした。突然の宴で、鶏や豚は用意が出来なかったそうで、料理担当が嘆いていた。いやいや悪いのはこちらですから。
食事中でもしっかりと魔王の動向を目の端で追っていた。徐徐にではあるが、魔王は移動を開始し始めたようだ。こちらの方角へと。魔剣誘導説の濃度が迫り上がる。
「ねぇ、クレネ。ツヨシさんはどうして床をじっと見ているの?」
「母様。あれは人には見えない魔術で、魔王の動きを確認しているのですよ」
「ほう。それはまた不思議な魔術だの」
「どうかお気になさらず。美味しい御飯には感謝しています」新たな家族での楽しい食事。何時までも床を向いていては失礼でした。
それからは自分の中に在る元の世界の文化の話。昔のクレネの思い出話。東の大陸内での世間話。長が持つ知識の話などで華を添えた。その中でも聞き外してならない、クレネのお姉さんの話が出た。姉の消失と人間の王国の崩壊のお話・・・は改めて。