第29話
「長の方はいらっしゃいますかー。クレネを貰いに来ましたー」
黄色の1つが紋の向こう側から歩み出て来た。
「森とわしらを救ってくれた事には感謝はするが、行き成り現れて娘を貰うなどと・・・」老齢の紳士、御父様が来たー。あ、挨拶。ご挨拶をと考えている内にその後ろから美熟女が現れて、紳士の後頭部を拳で叩いていた。今・・・、御父様のお目玉が出・・・。
「馬鹿な事を仰い!クレネが連れて来た人が、頑張って私たちを助けてくれたのに。有り難う、でいいじゃない!」目元がクレネのエルフVerと良く似ている。将来的にあんな悩殺ボディーへと進化するのだろうか・・・。楽しみであり、自分の後頭部がちょっとだけ心配になった。御母様!
2人(内1名悶絶中)の前に出て、片膝を着いて頭を垂れた。
「娘さんを頂きたく、馳せ参じました。スケカン・ロドリゲス・ツヨシという名の人間です」遂に元家名を捨てました。御免なさい、元お父さん、お母さん。
「父様、母様。お久し振りです。今日は私の夫となる人を連れて来ました」一礼するクレネ。の隣で膝を地に着く俺。立とうかな。立ったほうがいいのかな・・・。
「今日はご挨拶に伺おうと近くまで来た所、汚らしい魔王に襲われていると察知しまして。助ける積もりで逆に大切な森を傷付けるような結果となった事を、深くお詫びします」
「いいえぇ。ご丁寧にどうも。見た限り森は大丈夫って、寧ろ前より元気になったような・・・。さあさあ里の玄関で立ち話も何ですから、中へとお入りなさいな」悩殺ヒップが目の前で揺れる。落ち着くんだ俺。頑張れよ俺。嫁が隣で見ているんだぞ!根性を見せやがれ!
「母様!夫を誘惑するのはお止め下さい!」母に噛み付く娘在り。や、止めて~
「少しくらいいいじゃない、ケチ!貴女は昔っから独占欲だけは強いものねぇ」本音と建て前の線引きが不明だ。俺とクレネを引き連れて、里の皆さんと中へと移動中。
「あんた、すげぇな。あの魔術もだが、お、お嬢様を嫁に貰うとは・・・」
「・・・度胸あるな・・・。寧ろ度胸しかないな・・・」
そこかしこから声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には路肩で腹を抱えて蹲っていた。お話・・・詳しくしてみたいんですけど・・・?
自然の風合いを前面に押し出した住居が建ち並ぶ賢人の里。叙情的でもあり、懐かしさを感じる。この世界の田舎ってこんな感じかな。里を分ける小川が流れ、堅牢な水車と小型の風車の姿が目立つ。長閑っすわ。
里の端にあった比較的大きな母屋に招かれ、復帰した紳士御父様が最奥の座敷に座り、その隣は勿論グラマラス御母様が並ぶ。クレネと段下の床に座った。クレネは正座していた!え?マジで正座文化あるの?俺はそっと胡座から正座に組み替えようとした。
「脚は崩してくれ、お客人。先程は失礼した。娘を取られる父の醜態だと許してくれ。先ずは礼を。里を救ってくれて有り難う」解りますよ、娘を嫁がせる時の抵抗感・・・俺まだ子供居ないや・・・
「いえ、こちらこそ。魔王の撃退とご挨拶を混同してしまい、申し訳ありませんでした」
「謝らないでくれ。わしらはあれらの巨大な虫が苦手での。どうやって追い払おうか難儀しておったんじゃ。無傷で森から払ってくれて、重ねて感謝する」
「撃退、と言う事は。倒してはいないのですね?」
「はい。討伐は可能ですが、倒しても次々に沸いて来ますので。今回は東の海へと捨てました。暫く様子を見て、もしもまた現れるなら次は倒しましょう。鱗一枚まで丹念に処理した上で」
「頼もしいわね。貴方本当に人間種なの?勇者とかでは?」答え辛いです。言葉に詰まっているとクレネが助け船を。「彼は転移者であり、元人間です」沈没した!
「ほう、転移者とな・・・。初めて聞いたぞ」知らんかった。良かった。
後ろの聴衆が響めいた。賢人の長でも知らない事象。それが甚く珍しい様子だ。
「要するに、人間でも魔族でもなく、新たな人種と捉えればいいのね」柔軟なお考え恐縮です。俺はそれだと何者なんでしょう?
「彼の力は勇者に匹敵します。しかしながら身体の基本は脆弱な人間のまま。父様?どうか彼の寿命を延ばしたいのですが」クレネの言葉に御父様の眉が動いた。
「そんな所だと思ってはいたが・・・。先程の魔術を見せられてはのぉ。秘薬は本来、とある試練を乗り越えて貰わねばならないのだが・・・」
「彼に執っては造作もないでしょ。あんな物は免除よ免除。さぁさぁサクッと渡す。ほれ」
「まぁ、そうだろうな。今回は特例だぞ。婚礼の儀の前に渡すとしよう」
「父様!有り難う。嬉しい」
「あんな力を見せられては、何時までも反対は出来ぬだろ」御父様との和解が成立した。
「では、婚礼の儀とは、いったい何時にしましょうか?」
「変な事を言うのぉ。この後、直ぐだ」
「直ぐ?と申されますと?」
「宴の準備が出来次第だな」「はて?」急転直下!!!拒否などしないが拒否権無し。前進あるのみ、有り難う。しかしながら心の準備がー。クレネが隣でニッコリ笑っている。よし俺も男だ。腹、括ったるわさ!忘れない内に、御母様への手土産(普通の絹糸:でも庶民には高級品)を渡しておいた。お喜び抱き着く母親を尻目に、クレネの真っ白な目が降り注いだのは言うまでもなく。
厳かを忘れ去った、華やかな宴。ブライン師匠やクレネに聞いていた通り、豪快な宴は翌朝まで続いた。イケメンと美女たちの酒池肉り・・・酒が余り強くなくとも、酔い止めポーションが遺憾なく威力を発揮した。厠が近くなってしまったのは反省点。ああそうだとも!俺はアホの子さ!
途中、酔った御母様が隣に来て枝垂れ掛かり、豊満な胸元を広げ始めた時にはこの世の終わり(嫁、父激怒)が見えた気がしたが、それが二度もあったので重要なイベントであったのだと捉えよう。ちょっとだけ見えて・・・ないよ!クレネよ、旦那を信じなさい!