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第28話

 少し気怠い朝だった。隣の美女はまだ静かに寝息を立てていた。その柔らかい頬に指で触れた。小さな反応と指先に残る反動と体温が、これが現実であると証明していた。

 「マップ」すでに日課となった画面を確認した。まだ重たい瞼を擦りながら。

 「これは・・・おい、クレネ。起きてくれ」

 「どうしたの?」力強く伸びをして、起き上がった。俺はクレネが隣に来るのを待ってから、マップの一点を指差した。

 「ここってさ」

 「・・・う、そ・・・」その反応を見て確信した。そこは、賢人たちクレネの故郷が在る場所だった。それが今、大量の赤色に埋め尽くされていた。悪い言葉が頭に浮かぶ、全滅だと。赤色の動きが激しい。今現在交戦中なのかも知れない。

 「今すぐに行くぞ。準備だ」

 「うん。ごめん、昨日の夜に赤色が近くに在ったのは、確認してたのに」俺が寝ていたので伝えそびれたのか。クレネの頭を軽く撫でた。

 「行こう。次からは叩き起こしてくれよな」

 「うん。なんか、最近の私、全然ダメだね・・・」肩を落とすクレネを抱いた。

 「大丈夫だ。今はここにおれが居る。だろ?」

 「そうだね。・・・行こう」気を持ち直したクレネを連れて、町宿を飛び出した。

 俺のマップを見た故の後悔は、自身の後悔ではない。そう出来たかもしれないと言う眉唾な仮定の話である。今持てる全力のドーピングをして、里へと急いだ。レベルアップに依る底上げは正直半端が無く、前なら倍以上掛かった道のりをたった半日足らずで走破出来た。移動の疲れは微少。昨晩しっかり休んだ効果は絶大だった。

 クレネに早速、障壁と封印紋を解いてもら・・・わない!クレネの手を優しく掴んで止めさせた。

 「どうしたの?早くしないと」やはり今のクレネに冷静さは感じられない。故郷を襲われていると焦っているのだろう。当然だ。だが今の俺は冷静そのもの。落ち着いて周囲を伺う。

 「静か過ぎる。激戦区の入り口にしては」気配が僅かに揺らめいた。遙か上空で。木々の並ぶ隙間から、辛うじて視認出来たそれは。

 魔竜王、ゴライアイス。巨大な体躯を誇る深紅の竜だった。居るよな。そりゃファンタジーだもん。居て当然だ。しかし、ド、なのか?イが要らないのか?またしても微妙なお名前で。非常に冷たそうな名前なのに、身体は赤だと言う・・・

 「我を見ても驚きもせぬとは。人間にしては・・・」

 「ウィンドウ・スプラッツ!」相手の話など聞いている暇は無い!速射で風の刃を現出させて魔王以外の取り巻き(未だ隠れていた)をマップを使用して薙ぎ払った。大小様々、色取り取りの竜が2つに割れて、木々の上を汚した。

 「貴様-、よくも仲間を。っ我はま・・・」

 「ウィンドウ・スプラッター!」再び聞いてやる必要は無い!右の掌でスクウェアを描き出し、そのままの勢いで上空に放った。描いた波は容赦無く、巨大な竜の太い両腕両脚、長い尾を深く切り取った。分離した部品が夥しい竜血と共に森を汚した。「ぎゃーーーー!!」

 「ツヨシ。止めてくれ、これ以上は・・・」振り向くとクレネは青い顔で身震いしていた。

 「どうした?何が?」

 「奴らの血は、強力な酸液だ!」そうか、大切な森に被害が出るのか。

 「すまん。キュアレスト・ブルーム!」右手を柔らかそうな地面に突き立てて、浄化の魔術を思い描いた。周辺一帯の木々たちが、その輝きを取り戻した。

 「それと・・・、奴らの血からは・・・毒虫が・・・」クレネが遂に腰を抜かしてしまった。眼前に現れたのは、巨大な芋虫と硬そうな百足。これはぐ、グロイ!

 先程倒した取り巻きとの数にマッチした。2つに割ったから2種類・・・どんな原理だ?

 上空の魔王も気絶しながら、上空に停滞していた・・・そっちもどんな原理だ!?

 芋虫は紫色の粘液(涎)を垂らしながら進み、足下の木や草を枯らしていた。百足は自慢の手足で巨木を踏み荒らしていた。

 確認など要らない。敵を切り倒せば分裂し、その数を増やして行く。そして切れば切る程に酸液を周辺に撒き散らす。浄化効果もそう長くは続かない。詰んだ・・・。

 「んな訳あるかーい!グラヴィティ・ギルティア!!」ブライン師匠から一本取れた術式。右手を頭上にして詠唱を完了すると、重力波が地上の敵全てを上空へと持ち上げ、未だ気絶中の上空の魔王に密着させて集約した。正直見たくもない光景だった。20の芋虫、20の百足、竜王と部品たちが一点に集まっている。臭い物には蓋をしよう。

 「何処へなりとも飛んで行け。フライ・アウェイ!」語呂の良い術式だ。俺は上空に蠢くその塊を、遠く東の空へと投げ(掴んではいない)放った。魔王は何を言いたかったのだろう。僅かばかりその疑問だけが残った。

 未だ震えていたクレネを抱き起こす前に、念の為にもう一度だけ森にキュアレスしておいた。

 「ありがとう・・・本当に、ありがとう・・・」腕の中でクレネが泣いていた。

 「なんのなんの。嫁さんの願いを叶えるのが、旦那の仕事ってもんでしょ?」クレネをよしよししながら、マップで敵影を探ったが特に後続は居ないようだった。周辺や森の各所から、チラチラと黄色が現れた。どうやらこちらの様子を見ている。

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