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第25話

 翌朝から始まった。ツヨシに対する修行という名の暴力の嵐。私は?主に救護班に職を変えた。

 女性である私には一切攻撃が来ない代わりに、ツヨシは毎日毎晩瀕死に陥るまで叩き潰されていた。私がどんなに止めてと泣いて懇願しても聞く耳を持たず、お前の限界は何処だ?と詰めていた。

 時折おじさんが涙を流しながら・・・。あの涙の意味が解らないのは、私が女だからだろうか。

 正真正銘血反吐を吐きながら押し進められる苦行は、凡そ2ヶ月間続いた。唯一休めるのはおじさんが菜園の世話をしている時と、食材を買いに行っている間、食事を作っている間・・・僅かだった。

 「・・・そうだクレネ。近場で下級ポーションを買って来てくれ。盲点だったよ。低級買って作り直せばいいんじゃん・・・」ハハハっと血塗れで笑う彼。2ヶ月間で真面に話が出来たのはこの瞬間くらい。

 「全力で買ってくる。無いと言っても買ってくる。本当に無ければ聖都を潰してでも集めてくるから!どうか、どうかそれまで死なないで!!!」彼はまた死んだように眠りに落ちた。

 後は主に私の膝の上で気絶していた。彼との接触自体もそれくらいだ。正直寂しい以外なかったが、しっかり呼吸や脈の管理をするのに必死だったので気が気ではなかった。

 修行内容?内容と呼べるような代物があったなら語りもしよう。この私の胸が苦しくなるような光景が在ったというだけだ。以外の何ものでもなかった。

 死神がその大鎌を彼の首を落としに掛かった、丁度2ヶ月後に地獄が終わった。高度な重力魔術を駆使して、彼の拳がブラインおじさんの顔に一撃を加えたから。

 おじさんの顔が和らぎ、途方もなく長く感じた苦行が終わりを告げた。

 私はホッと処か、張り詰めていた物を落としたように、その場にヘタリ込んだ。

 「やっと、終わったのね・・・」

 「ああやっと、真面な目になったな。ツヨシ君」

 「はい、師匠。有り難きお言葉痛み入ります。これからこの先で、彼女を悲しませるような醜態は晒さず、叩き潰し、踏み越えて行くと誓いましょう」彼の迷い無き瞳はおじさんを捉えて離さない。おじさんはしっかりと頷いていた。全ては私の為だった?

 彼は立ち直すと、座り込む私の前に歩み寄り手を差し出して来た。どうしよう、胸が張り裂けそう。恥ずかしくて彼の目が見られない。こんな気持ちは生まれて初めてだ。初めてという物は、やはりいつも心躍らせる物だ。勇気を出して、彼の手を取った。

 「ずっと支えてくれて有り難う。クレネが傍に居てくれなかったら、多分初日で逃げていたよ。これからもおれの傍に居て欲しい。いや違うな。例え死んでも離さない。もう別れは諦めてくれ。愛してる」

 私の目から熱い何かが零れて落ちた。

 「私も、愛しています。永久に誓いましょう」彼の胸に飛び込んで一頻り泣いた。きっと彼も泣いていた。何度もしたキスのはずなのに、今日この日、この瞬間だけは違うと感じた。これが本当の・・・。

 「仲良きことは美しいな。旅立つのだろう?今宵の晩餐は豪勢に行こうぞ」

 「はい。明日の朝に出ます。お言葉に甘えて、堪能させて頂きます」

 「ブラインおじさん。その・・・私たちの式には?」

 「是非とも出席したいが、そろそろか?ツヨシ君」

 「そうですね。もうすぐ勇者がここの魔王を倒しに来る頃です」彼は錬成した上級ポーション100本をおじさんに箱で手渡していた。「ご面倒をお掛けします。そして、勇者を頼みます」

 「ねぇ、それって・・・。どうして?ツヨシは自分で魔王を倒さないの?」

 「ああ、それはね。魔王だけは勇者が聖剣で滅ぼさないと復活してしまうからさ。恐らく別の魂と入れ替わって、何度でも。時には人間の魂を使われてしまう危険性もある」自分の事も含むのだろう。

 「そう、だったんだ」彼は魔王を避けていた訳でもなく、逃げていた訳でもなかった。それを聞いて少し嬉しくなった。確かめていたのだと。

 「たぶんだけど。おれが持っている魔剣でも同じ事が出来るかも知れないけど。確証無いまま取り出せないだろ?倒せても何が起きるか解らない。それが魔剣が魔剣足る由縁じゃないかってさ」

 「解った。貴方のやりたい様にやりましょう」私は迷わず付いて行く。

 「結果が望む物でなければ?」

 「踏み躙りますとも!」

 「その意気だ。若者よ」ブラインおじさんは、上機嫌にカラカラと笑い、彼の家へと先に戻った。

 私たちは静けさが増す丘に残って並んで座り、沈み行く夕日を眺めた。ここへ来る前のような穏やかさだった。軽い気持ちで来てしまい、こんな展開になるとは思っても見なかった。来る前も今も同じ気持ちで変わっていないはずなのに。長めのキスは甘く切なく。

 「これ以上は、我慢出来そうにないから」「私は、構わないよ。ここでも・・・」

 「師匠を待たせちゃダメでしょ。それに」「それに?」

 「聞かれちゃうよ、たぶんね」小声で囁く彼に、赤面と無言で返して。私は彼の手を引いた。おじさんの家のほうから美味しそうな匂いが漂って来た。

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