表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/130

第23話

 「うーん。あの裁縫具にはそんな理由があったのか。母様の好きな物については・・・なんだろ」

 「頼むよ。思い出せたら教えて。今の所は服飾系で何かだな。で、さておき。もう1つの質問は、この大陸の魔王についてご存じでしたら教えて下さい。噂ではここの魔王は他に比べて驚く程大人しいとか?耳にしましたが。それ、本当に魔王なの?って感じの」

 「ふむ。それは恐らくだが、私がここに居るからだろう」「ほわっつ?」

 「だから、私がここに居るからだ」「ブラインさんが、魔王であると?」

 「面白い冗談を言う奴だな、君は」「で、ですよねぇ」

 「私が何度か魔王を半殺しにしているからだよ」

 「なんですと!!!」俺とクレネは声を揃えて驚いた。2人の様子にブラインは楽しそうにカラカラと笑っていた。冗談、なのか?

 「いやいや、殺してはいないから大丈夫だ」イミフ~大丈夫bじゃない。「あいつらは殺してしまうと別の者が次から次へと沸いて来るのでな。とても面倒なので生かさず殺さず、が丁度良い」左様で御座いますか殿。俺の思考では付いて行けない。斜め上ではなく、すでに大気圏外に居た。

 「半殺しとは、具体的に?」

 「そうだな、説明不足だった。時期は曖昧なので飛ばそう。一度目は私たち夫婦が育てていた菜園を荒らしに来たので、確か両足を粉々にへし折ってやった」「はぁ」

 「二度目はセラスを攫われそうになったので、温厚な私も流石にキレた。確か肢体を全部もぎってから、丁寧に妻には手を出すなと解ってくれるまで叩いていたな」「はぁ」

 「三度目は、そうだ丁度6年程前だ。妻を亡くしてから暇を持て余すようになった私に、北部山脈の何処何処に来いとのお誘いがあったので、行ってみると決闘だと襲い掛かって来たので、意識を奪い取った後に大規模な雪崩を起こして生き埋めにしておいた」

 「はぁ」俺だけハァハァ言うとるわ!クレネの瞳が輝いている。どっちもこえぇぇぇ。

 俺は考えるのを止めて、淹れて頂いたハーブティーを口へと運んだ。ジャスミンのような清涼感が俺の脳みそを癒やした。窓の外では木々の枝で小鳥が囀っていた。ここは、平和である。

 「ツヨシ、聞かないでどうする!ブラインおじさんの貴重な武勇だぞ」

 「うん聞いているよ。ブラインさんが超絶強いのは良ーく解ったよ」苦笑いを浮かべるしか出来ない。 「ブラインさん。魔王って大概取り巻きが居ると思うんですが?それって」

 「ん?あの魔王と取り囲む雑魚共か。あれ位なら撫でてやるだけで消えるからな。途中から、魔王は己の魔力が消えて行くのを悟って、二度と出さなくなったぞ」オーマイガッ・・・女神?

 ブラインおじさんに話して頂いた貴重な体験談は、俺には大大刺激が強くて。軽く目眩を覚えた。賢人さんたちの強さのインフレが止まらない。もうぶっちゃけ勇者すら要らない・・・。

 「おぉ、珍しい。どうやら別の来客が来たようだ」ブラインの言葉に、マップを確認すると・・・白色のマーカーがこちらに急速接近していた。新色の白色って何だ?

 「お知り合いですか?」

 「いやはや、噂をすれば何とやら・・・だよ」俺はクレネと顔を見合わせ、即座に武装を装備しようとしたが、ブラインさんに止められた。

 「お客人の手を煩わせるまでもない。いつものように私が出る」ブラインが席を立った直後。

 「頼もー、頼もー」嗄れたダミ声が周辺一帯に轟いた。魔王らしい何者かが、道場破りに来た!

 3人揃って表へ出ると、真っ白で毛むくじゃらな巨大な魔物・・・魔王、カリシウムが直立不動で立っていた。魔王はマップではなく、自分の目で視認しないと何も表示してくれない。でも、ル!

 「来客中だ。明日また来るといい」

 「へぇい・・・じゃあ明日また・・・って、いくらの師匠の言とは言え、そうですかって帰れる訳がないでしょう。いつものように決闘だ!」ユーモラス魔王は、今、ブラインさんを師匠って言わなかった?

 「仕方が無い。場所を変えるぞ。我が家を壊されたら正気を保てそうにないからな」

 「解りました、師匠」言ったな。聞き間違いじゃない!魔王が小躍りしながら、こちらに背を向けた。瞬間・・・ブラインさんの姿が消えた。「ぎゃーーー」強制逆くの字の姿勢で、迷わず離れた岩場に突撃して行った。通過したと思しき場所の岩場が抉れている。

 「敵に背を向けるとは何事だ!何度言えば解る?」ブラインさんがご立腹。

 「すいやせん師匠。最近目が覚めたばかりで、油断していやした」

 「言い訳をするな!私が本気だったら貴様は死んでいたぞ!私が冷静であるから生きていられると思え」何だろう・・・相手が魔王でなければ非常に格好いい言葉なんだが。

 「なぁ、クレネ。あの人の何を参考にしろと?」

 「の、ノーコメントで・・・」そうそう元々クレネの断っての希望で此所へ来た序でに、とっても強いブラインさんに稽古付けなり技を盗むなり・・・と非常に軽いノリで提案された上でノコノコとやって来た訳だが。重ね重ね言おう。確かに聞いてはいた。

 ブラインさんはとっても強くて格好良いと。

 だがしかしだ、転移者のチートが霞んで消える・・・非常識。哀れ魔神サタヲが、この世界の何処かのダンジョン奥地で震えながら泣いている姿が過ぎった。

 魔王の強さ株が暴落して行く、と同時に始まる頂上決戦・・・ならぬ、ブラインさんの一方的な暴力。&お説教と言えば聞こえがいい、調教タイムが幕を開ける。それは他ならぬ拳。それはただ落ちていた木の太い枝。それはただ置いてあった巨石。それは単なる肉弾戦。

 魔王は応戦しようと苦しみながら何かを吐き出した。それは己の肉体の一部。それは出したかったはずの凍て付く吐息。それは砕きたかったはずの爪。それは弾きたかったはずの膝。それは師匠に応えたかったはずの肉弾戦。

 2人の観客が見守る前で繰り広げられたのは、タダのドツキ愛。師匠の弛まぬ愛により、ただ只管に強く硬くなって行く魔王。勇者よ・・・まだ君には早過ぎる・・・両者に幸あ・・・ったらいかんがな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ