第20話
魔王城。数週間前に一時的に背を向けた、その場所に私たちは戻って来た。火山で足りなかった鍛錬を積み上げ、仲間たち共々練度を増した。魔王復活の確信めいた予感に従い舞い戻った。それなのに・・・。「ここ、魔王城でしたよね?」
後ろの仲間たちに問うも、明確な答えは無かった。あるはずもない。だってそこには中央の玉塔が辛うじて姿を残した、瓦礫の山が在ったのだから。「場所、間違えたかな?」
「いいえ。この場所は間違いなく魔王城」精悍な僧侶がそう断言した。仲間と共に、足下に注意しながら瓦礫の山を進んだ。まるで巨石が突然降ったかのうような大きな陥没がそこかしこに見られた。まるで何か噴出した火にでも焼かれた、炭消しになった多くの残骸。高貴な宝飾品であった物。強靱な体躯を誇っていたであろう魔物の死骸。それらを残しながらも、攻撃の要因たる異物は幻だったかのように見当たらなかった。瓦礫と仲良く埋まる死骸の数々。その先に、剥き出しの玉座が見えた。
「待っていたぞ。勇者よ・・・」畏怖堂々と絢爛な玉座に座る、魔王(馬鹿)が居た。ありとあらゆる疑問が雪崩の如き勢いで押し寄せた。私は仲間と共に、魔王に問うた。「何があった!!!」
「・・・知らんよ・・・」その醜悪な目の端に、涙のような物が見えた。それからすると、この惨状は奴が自分でやったのではない事だけは薄く解った。しかし、同情の余地は微塵も無い。これ以上の問答は不要だとばかりに、魔王は立ち上がり、その手に禍々しい魔剣が・・・無かった。
「我が魔剣よ・・・なぜ、戻らない・・・」それが魔王、ブシファーの最後の言葉になった。皆の頼れる盾たる僧侶、アーレンが太い腕でメイスを高く振り上げて、歩み出た。魔王が放つ高位の闇の魔法が、難なく弾かれる。「生温い!」
一団の冷静な頭脳。戦士メデスが脇を歩む。「遅いぞ!」振り抜いた斬撃が、魔王の胴を裂く。
様々な罠を安全な物へと変える、盗賊ユードが対の短剣で周囲に沸いたアンデットたちを屠る。
「なんだ、ここは天国か!」
若い魔術師ガレストイが使い込まれた杖を頭上に、短い速詠唱を終えた。「消えなさい!」
膝を地に着き、苦しみに歪む猪顔に私は聖剣を突き付けた。
「永久に眠れ、悪しき魂。ファルナイト・レクイエム!」聖なる光を帯びた聖剣が、脆弱な魔王を両断した。
その日、一つ目の魔王が勇者に依って倒された。その報は瞬く間に大陸中を駆け抜けた。未だ1つ目でしかない。然れど、どんな形であれ魔王を倒したのは勇者の一行。2週間後に聖都で催された凱旋パレードでも、全力で固めた作り笑顔を振り撒き、観衆に応えた一行の内心は。
「物足りない・・・」新たな絆で結ばれた勇者と仲間たちは、その後、伝説を塗り替える程の偉業を成す。これが細やかな、勇者グリエールの第一歩。
教皇が跪く勇者を前に言う。「よくぞやってくれた。勇者グリエールよ。数日でもゆっくりと休息を」
「必要ありません。次は何処の魔王(馬鹿)でしょうか?」「・・・」
聖院歴698年、5の月。勇者の代わりに教皇が倒れて寝込む、という珍事が起きた。しかしそれは長い歴史の中には記されることはなく。
おー、見えるようになったよ。勇者のステータス。魔王に阻害されていたと見た!
グリエール・*** 何これ、未定なの?
職種 勇者、魔を滅ぼす者 以外の選択肢はないのか・・・
レベル ***
スキル *** まだまだシークレットって事だな。魔王を倒して行くと、少しずつオープンになってくのかなぁ。
3S B:80 W:52 H:79 AGE:19 好きな食べ物:おにぎり キターーーー。クレネさん、次の行き先中央大陸でいい?え?ダメ?北が先なの?マストで?残念だが却下されたので、今は諦めよう。楽しみは後に取って置くぞ。早く腹一杯食いたいなぁ・・・
さてさて。俺はどの位上がったのかなと。
スケカン・ロドリ・ゲス・ヤロウ(元、童蒙剛) 名前は変わらないけど、魔王が消えたぜ。
職種 体現者 変化なし
レベル 100 腕力 138 体力 154 盡力 171 胆力 143 素早さ 218
精神力 242 精力 201(集中力向上有) カルマ +21
スキル 錬成(回復薬) 鍛錬あるのみ。いつか生成に・・・ならんかな?
伸びは悪いが切りが良い。魔王城の破壊がそのまま経験値になった模様。たぶんレベルキャップですと?だから先に里に行くの?なるほ・・・緊張するなぁ・・・ご挨拶。そして祝、カルマ+側。
愛する愛しのクレネさんは、と。うん、温かくてとても幸せだけど・・・何も見えないってば。
クレネ・ドルイド・ファーマス
レベル 135 腕力 431 体力 343 盡力 419 胆力 375 素早さ 386
精神力 416 精力 284(ベース 83) カルマ +160
その他、スキル等に目立った変化はない。ある意味完成系なのだろう。しかしながら、いくらハイスペックであっても、それを使いこなせなければ意味はなく。伴う動きが出来なければ、直ぐに限界は露呈する。クレネと俺との差は、額面や種族もあるが絶対的な経験値の差。結局おれは半端なんだ。今はまだ誰にも届いていないと思う。文字通りに死力を尽くした経験がまだないから・・・。
2人で踏破したダンジョン。階層がそれ程まで深くなく、魔物自体のレベルも低かった。ここまで言えば解るかもしれないが、クレネが1人で制覇したような物。俺は安全な後ろでコソコソと削っていたに過ぎない。余りにも不甲斐なく、誰かに語れる武勇に至らない。いつかだとか、次はなどと甘い戯れ言は本当の意味での死闘、殺し合いを前には露と消え去る。堕天使とクレネが戦っていた時が良い例だ。俺はただ怯えて震えていた。強烈な殺意を向けられて。
「今はまだ焦らなくていい。私が殺させないと言っただろ。いい加減に信じてくれ」甘美な蜜のようなクレネの言葉。甘えてしまいたいと思う、自分が確実に居た。言うに納得の、軟弱者だった。何事も成せないクズは、愛する者にさえ何も返せなかった。「クズだよな、本当におれは」
最近になって時間的に余裕が出来れば出来る程、ネガティブな思考に襲われる。どうして自分なのか。どうして普通に死ねなかったのか。転生など転移などのこの幻想を何故俺に見せるのか。俺はまだ深い泥沼の迷いの中に居た。クレネはきっと・・・嫌確実に、女神が与えてくれたプレゼント。俺がまた勝手に自殺しない為の・・・。
「それは違う。私は自分自身の意思と、本能に従い、貴方を選んだ。そして貴方は私を選んでくれた。だが、出会って行き成り、抱き着かれた時は・・・正直、ちょっと引いたぞ」
「も、申し訳ありません・・・」