表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/130

第17話

 「グリエールよ」精強で盛大な白髭を豊かに生やしているはずの僧侶が一人。

 「勇者よ」精強で屈強な黒髭を伸ばし放題の戦士が一人。

 「グリエールさん」一行の中ではグリエールに次いで若手の青年の魔術師が一人。

 「グリエール様」この大陸での従者兼案内人の盗賊(公認の職業)が一人。

 4人の男がゴーグル越しに1人の女を一様に見つめていた。「何かしら?皆どうしたの?」

 彼女はまた一体激しい炎に包まれた魔物を、片手間で屠りながら他の4人を見返した。今のってサラマンダー(火蜥蜴)じゃなかったっけ?もう見慣れてしまった光景だが、戸惑いには慣れぬ物。聖剣は勇者が持っている間は劣化をしない。確かに、そうは聞いていた。聞いてはいたのだが。

 「なんじゃこりゃ・・・」それが4人の目の前の蹂躙劇に対する感想だった。

 このカゼカミグエ大陸中央にある活火山デラウェア。人の身で本山には近付けはしないが、2山手前の洞窟にならばと麓のプールドランスの町を拠点にし入山した。魔王への手掛かりを掴む為という理由でだ。その意図には一切の間違いはない。しかし火山方面へ逃げ込んだ魔王を倒す、という勇者の無謀に成り兼ねるその討伐宣言には、甚だ疑問を覚えた。

 町で防毒マスクを購入し、浄化石を買い漁り、高級ポーション、一撮みの塩と柑橘果汁を混ぜた水を大量に。付属の耐熱ブーツと防具類は文字にすら起こすまでもなく。聖都で受け取った旅の軍資金は初日に底を突いた。

 今は洞窟内であり、全員がマスクとゴーグルなので各自の顔は見えない。見えないが、我らの勇者様だけは元気で溌剌に襲い来る魔物を狩っていた。きっと満面の笑顔なのだろう。

 「無くなったのなら、ここで稼げばいいじゃない」全く以て仰る通りなのだが。

 「一旦聖都か港まで帰る、という選択肢は・・・」

 「無いわ。いつから臆病者になったの?貴男達。ここには運が良ければ原石や貴金属の塊がわんさと出る洞窟があって、出てくる魔物を倒せば高く売れる素材だって取り放題。町の人たちでも倒せない魔物を優先すれば迷惑にはならないし。鉱脈ルートの安全確保にも繋がって一石三鳥ですよ」

 昨夜の町宿での話。彼女の瞳は輝いていた。そう見えたのではなく、完全に輝いていた。小汚い言葉を述べるならば、完全にイッちゃってる。こうなってしまうと、もう彼女を止める術はない。

 航路上、激しい船酔いで暴れる彼女を拘束した魔術鎖でも、今の彼女なら容易く引き千切りそうだ。彼女の実家の家族の誰かがここに居たとしても、同じく彼女を止めるのは難しく感じる。

 勇者の行動の一貫性は突出していた。こうと決めたら梃子だろうが何だろうが折れない。周囲の誰も彼の教皇でさえ、彼女の意思を尊重し帰っても良いのだよ?と何度となく伝えているにも関わらず2年以上、望郷の思いを抱えながら厳しい(自己加算式)訓練に勤しんで来た。

 聖都にて。うっかりミスで彼女の母親からの手紙を半損させた従者が、翌朝全身打撲の痛ましい姿で第三都市内の小川に浮いているのが発見された。それ程までに強い想いを抱えているのに。

 「そこに魔物(金脈)が沸いて居るのに、倒さず逃げるのが勇者一行なのですか?」

 「は、はい・・・仰る通りなのですが・・・」

 「が?そんな生温い事を言っているから魔王に逃げられるのです。今度こそ倒すのです!奴はきっと洞窟の奥で遊んでいるに違いありません!」

 「本山、火口方面だと・・・いえ、行きましょう勇者よ」震える程の冷たい眼差しを向けられていた。納得よりも生存本能を優先した。

 洞窟群の中でも随一歪で強力な魔物が跋扈すると噂の、最奥の洞窟に意気揚々(勇者のみ)と突入を何日かに分けて繰り返した。火蜥蜴、火炎蝋、黒鉛狼、噂に違わぬ魔物たちを次々に撃破して行く。魔王城の魔物のほうが余程生優しいとさえ思える強敵たち。一瞬の逡巡、戸惑いを見せれば我らの命は天へと召される。息つく間も無い。唱え、振り、弾く、穿ち、交え、避ける。己が身体と盡力の限界に挑み続け、体力は洞窟に入った時点から減り続けている。暑い、熱い、魔物たちの壁は尚厚い。ここへ来ていったい何日過ぎただろうか・・・。時間の感覚も麻痺して来た。

 今夜なのか明日なのか解らないが、持ち水が尽き町へ帰ったら勇者を説得して聖都へ戻ろう。仲間たちとはすでに目だけで会話が成り立つ程に、連携はかつてない程に洗練されていた。

 生きて、帰りたい・・・。魔王でも魔神でも何でもいい。どうか我らが勇者を止めてくれ。この場に神は居ない。恩恵も無い。在るのは赤く染まる魔物を笑いながら切り捨てて突き進む、

 狂気の戦場女神フレイル・ヴァルキリー唯一人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ