第15話
シュレネー邸。歴史ある洋館の佇まいでありながら、日本の古き良き木造の暖かみを併せ持つ妙に懐かしく思える宿舎屋。派手な装飾で飾らずに、自然に出る風合い。落ち着く~
「で、スケカン殿。そちらの絶世の美女は?」唐突に連れて来た美女アタックに、流石のシュレネーさんやゲップス、ウィートネス(妹侍女)さん、他従者の面々が口をパックリ開けていた。
「賊に襲われた時に、生き別れになっていた嫁のクレネです。夫婦共々、もう一晩お部屋を貸して貰えませんか?厚かましいとは思いましたが、安心して休める場所がなくて・・・」
「つ、妻のクレネだ。よ、善きに計らえ・・・」え!!!どちら様キャラなの!?魔王級に尊大な態度に俺を含めてその場の全員が更に口をパックリ開けた。
「ど・・・、どうやら逃げる途中で頭を強く打ったらしく。彼女の言動は勘弁してやって下さい」
「この私が一夜の宿を所望する。泣いて喜べ。当然これと同部屋だぞ」クレネさーーーーん。
「はぁ・・・、まぁ・・・元よりスケカン殿には泊まって頂く予定でしたので特に問題ありませんが」
なぜかシュレネーがウィートネスさんに目を向けた。ウィーさんが眉をへの字に首を小さく横に振っているのが見えた。それにホッとした表情のシュレネーが俺に小声で耳打ちして来た。
「ご結婚されているなら先に言って欲しかったですなぁ。危うくウィートに夜の相手をさせる所でしたよ。危ない所でした」
「えっ?」その言葉の真の意味を理解すると、とても残念無念な気持ちに・・・。後々にクレネから聞いた話の中で、昨夜はずっとウィートネスが隣室で待機していたらしい。時折部屋に入っては様子を見る姿を遠目から見て、見晴し台の下でアクロバティックに弓を構えていたらしい。怖いから止めてと懇願しておいた。意外な幸運も転がっていたが、意外な危険も同様に転がっていたようだ。この世界は色々な面まで物騒である。そもそもウィーさん関係ないから!未遂の前に無実だから!ん?エルフに人間の法なぞ関係ない??マジっすかクレネさん。取りも取りなし取り敢えず、俺の言う事だけは聞いてくれるらしいので、ほんの少しだけ安心した。もうほんの少しだけ。
昨晩に続き、用意されていた豪華な魚料理に舌鼓を打ちまくり、今後の俺の人生の女遊び終了のお知らせを受け取る熱い夜が展開されるまでの間に、ウィーさんと約束していたゲップスとの講習会が開かれた。なぜだか講習会には邸内に待機中の護衛仲間も参加していた。今日は遅いので簡易的に座学からとなった。
だがしかし、だがしかしだ。当然でしょ?の顔で俺の膝の上に座るクレネ。先生、前が全く見えないんですけど~。映画のスクリーン(黒板)が前の人の頭で見えないんですけど~な状況に、ゲップスが「やる気あんのか、ごらぁぁぁ」激キレした後、クレネに弓を向けられてホールドアップしていた。それ、どこから出したの?アイテムBOX持ってるの?え?召喚術?クレネさんに聞きたい色々な事が降り積もってエベレストを越えそう。
翌日も翌々日もとゲップスの空いた時間に、剣と槍の基本的な型を教わった。
構えから脚裁き、体幹や腰の入れ方、全身の動きの流れ。盾を使った実践訓練。盾をロスした時の防御。ある意味それは実に形式張った型の数々だったが、余計な物を含めない洗練された講義内容。彼の教え方はとても上手かった。超短期で教えるだけしか出来ないからと、小規模団体戦までしか教えられないのが残念だと最終日には言っていた。ゲップス曰く、俺の筋は大変に良いらしい。
クレネさんのレベル?教えることなんて何も無いレベル、だってさ。模擬戦をやって、俺含め護衛団の全員一度に相手をしてボロ雑巾に変えていた(俺以外を)位なので。突然ウィーさんが割り込みを仕掛けて、背後を瞬間取り掛けたが敢えなく弾き飛ばされていた。ロングなスカートの中の純白が見えてしまったが、男共は残像を胸に何も見なかったことにした。
ゲップスが軽く気絶していた間の小さな出来事として。
他にも色々と、言いたいことや言いたくないこと(俺のしょぼさ加減とか)が沢山あった1週間。何とか型だけは物にした。そう思い込むことにした。魔術やスキルはどうしたか?そんなの使ったら単なる猾じゃない。基礎は真面目にやってこその基礎。詰まらないとか言っちゃいけないぜ。
「それでは、近い内に何処かの町で。ポーションの販売完了の知らせは冒険者ギルド経由で届けさせますので」特に心配はしていないが。まだBOXにあるし。
「暫くはこちらの町で過ごし、近くのダンジョンにでも出向く積もりですから。うっかり死んでなければまたお会いしましょう、シュレネーさん。ゲップスさんたちもお元気で」
「ああ、お互い元気でな。まぁお前の嫁さんがいりゃ、魔王レベルでも出て来ないと死なねぇよ。近くのダンジョンレベルは低いとは言っても未踏の区域や階層も多くある。油断するなよ」冗談半分と本気の忠告半分。いい人だよ本当に。お名前だけが今一なんだけど。
「この町で何かのトラブルがあったなら、遠慮なくウィートに伝えてください。動けずとも信用出来る人材を送りましょう」
「何から何まで、本当にお世話になりました」心からの礼を返した。本気で人に頭を下げるのって正直言うと今の今まで無かったかも知れない。
「美味い飯を食わせてくれた事には感謝するぞ」クレネさんが人間の顔で笑っていた。人間の顔と言ったのは、夜2人きりの時は違ったから。美人度は甲乙付け難い。そのお耳が尖り、全体的な雰囲気が野生的に色気が増した感じ。セクシーさにエロを足した感じ。どんなんや。
「貴方の話してくれた話の内容は、到底全てを理解し受け入れるのは難しいです。未だ、ですけどね。でも、正直に嘘偽りなく語ってくれたとは確信しています。だからお返しではありませんが、今ある私の全てをお見せします」衣服を脱ぎ脱ぎ、昨夜のクレネの言葉。
全てがとは言えない。それでも俺は幸運に恵まれた。3度目の人生をやり直せるのだから。急激で劇的な変化なクレネの存在は大きい。言動は驚きの連続ではあるが。せめて途中で愛想を尽かされない程度には頑張ろう。
元の世界で出会った人たちを思い浮かべる。家族、茜、友達。こんな自分にしてくれた人たちに感謝する。恩には礼をと。もしも帰れたなら、どんな形に成るかは解らないが何かを返せたならと思う。先ずは一歩。このアッテネートからのスタート(再開)だ。まだこの大陸に留まる勇者一行とも一度は会わなければ。
後1つ。俺のステータスに変化があった。
レベル 22 腕力 51 体力 60 盡力 85 胆力 64 素早さ 72 精神力 106
精力 154(集中力向上有) カルマ -176
スキル 基本戦闘術、剣術(我流+、中段)、棒術(我流+、中段)、志向投影(鑑定機能添付)・・・あぁ、これがマップの事でしたか!因みに人だけでなくアイテムの詳細も目の前に持ってくると見えたりする。とても便利だ。魔剣は絶対に出してやらんぞ。BOXから取り出した時点で何かが起こりそうな予感がするから。きっと勇者さん辺りが寄って来る。ホイホイと。
レベルがゲップス師匠の講習会だけで上がっていた。1日につき1レベル換算。基本ステの上げ幅は不明瞭だが精力が上がり、カルマも上がった所は・・・クレネさんのお陰か!ありがとうー色々と
楽しくなってきたので、他の人のステータスを。(なぜ?そりゃマップでしょ)
クレネ・ドルイド・ファーマス 我が愛しの・・・もういいって?
職種 森の賢人、スケカンの嫁 ご、ご丁寧にどうも・・・
レベル 119 腕力 385 体力 301 盡力 382 胆力 335 素早さ 345
精神力 371 精力 228(ベース 74) カルマ +104
エルフさんって人間よりも上位存在なのね~。他の人間に見せる尊大さも納得の仕上がり。ベースの精力値に俺の値が加算されている・・・のか?カルマが他と比べて低い。逆に俺が吸い取っている可能性も否めないので、今後も注意して見て行こう。え?心配要らないって?そういうもんっすか。遠慮は要らない?自重なんてする積もり無かったけど・・・ちょっとは我慢?無理!(断言!)
3S B:86 W:56 H:89 AGE ××× ナイスでーす。?クレネさん、年齢の所で目を塞がれると見えないんですが・・・、か、掻き消された!
スキル 隠蔽、隠密、幻術、譲渡、集中力向上、剣術(賢霊流、上段)、棒術(賢霊流、上段)、
弓術(賢霊流、越段)、召喚術、魅了、魔法(中位)、魔術(高位)、瞬歩、長距離走+
言語理解(適時)、野営術(賢人流)、拘束、独占
嫁の目立ったスキルはこんな感じ。クレネの尖ったお耳がパタパタしている。すごい!動くんだ!どうしてマップが見えているかって?只今俺の背中に張り付き、首の後ろから同じように見ているからである。説明不足?そこは愛の力でってことで何とか。
お試しお試し。クレネが背後で少しムスッとしている。良い子だから怒らない怒らない。
ウィートネス・アレ・デルト
職種 侍女、非常用戦闘員 ウィーさんのお仕事がそのまま反映されている。随時更新されているだろうね。多分。
レベル 48 腕力 81 体力 78 盡力 66 胆力 76 素早さ 190
精神力 138 精力 53 カルマ +45
やっぱり俺よりハイレベル。ステ上げが少ない印象なのは、男女の体格差に起因する物と推測。スキル群は・・・忍者っぽいとだけ。クレネへの奇襲が成功し掛けた素早さは伊達ではない。
3S B:78 W:54 H:81 AGE 20 クレネさんが後ろでフフッと鼻で笑っている。項がくすぐったいぜ。
その他、お知り合いのステ・・・は要らんね。取り敢えずお名前を羅列。
シュレイズ・オバ・ネイカーズ(シュレネーさん) おい、名前今すぐ俺のと取り替えてくれよ!
ゲップス・アレ・デルト(ゲップス師匠) フルだと何かが出ちゃいそうな・・・ウィーさんが可哀想。
ノルドメス って誰やねん!ん?火山の町で会った人?
グリエール 勇者さんの名前だが、ステが見えない。隠蔽か、それとも今現在の単純な距離が離れているからなのかは未だ謎。まぁいずれは会う積もりだし。暫しのお預け。
上記以外にも各員の趣味趣向が見れちゃったりするけれど、他人に自分の趣味がバレる程の恐怖と恥ずかしさと言ったら・・・自分が嫌な事は人にやってはいけません。封印!だが女の子の好きな食べ物の表示だけは残す!真のジェントルメンは女の子を食べ物でつ・・・
ウィーさんの好物の所に、コメ?が表示された。いかんな。ずっと気になっているようだ。今後手に入るようならお土産に持って行こう。余りに手に入り辛い物なら渡さない。後が辛いもん
コメってなーに?とクレネが聞いて来た。「小さくて白くて粒粒、ふっくらもちもちで、大概の料理とも合うほぼ万能食材。おれの好物で主食と言っても過言ではない」
「湯で麦のことかな?」
「おぉ、あるね麦飯。たしかにあれは遠くない親戚だ。ちょっと硬くてごわごわだけど。普通にパンが売ってるなら、当然麦もある。作り方が違うらしいけど、これなら米も期待が持てるな」ちらりと広域版マップに小さな青色が点々と現れたが、全部別の大陸だった。我が米への道のりは険しい。これが米ではないとすると、まだ見ぬ仲間・・・とか?ピンク色がクレネとウィーさんで、青は男かも。ふむ
腰に巻き付くクレネの腕に、尋常ならざる力が入った。「だ、大丈夫だって。浮気はしないから!ちょっとクレネさん?そんな短剣持って何処行くの~」鼻息荒く立ち上がって、全裸で部屋を出ようとしたクレネを羽交い締めにして止めた。強いよ!ちょっとだけ怖いよ!「落ち着くんだ!」
今後、紳士を語る上で女子への対応には、最大限の注意を払おうと心に誓った。因みにクレネの好物は完熟リンゴ(青)だそうです。見つけたらマストで買いましょう。