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第14話

アッテネートの町中を練り歩き、露天や商店、雑貨などを見て回った。買えるけど、どうしても欲しい訳でもなく。便利そうだとは思うがそれ以上の感覚が湧くような出会いはなかった。

 冒険者への登録は受付嬢さんの引き攣り笑顔の鬼対応で、初期的な物を全てカッ飛ばして物の数十分で完了してしまった。ちょっと心配だった俺のステータスを不用意に晒す・・・イベントも無く。他に並んでいる人結構居たのに。シュレネーさんの紹介状の威力が凄すぎた。単なる裕福グルメデ・・・ではない。間違いない!

 出来たての身分証と大陸の簡易地図を手に、うきうき散策ついでにシュレネーさんたちが出立後の宿を予約して、出店で買ったデーモンフィッシュ(イカ)姿焼きを噴水脇のベンチで頬張った。豆醤油ではない溜り醤油味。あーお米、どっかに無いかなぁ・・・でもあっても玄米だろうなぁ。

 マップと地図を見比べながら、差異は無いと確認が出来た。一段落して何処のルートからも見上げられる町の象徴へ目をやった。ピンクは相変わらず付かず離れず。下には下りているようだ。現在のマップ上には緑色が沸いていた。画面一杯の緑緑緑。

 ほぼ確定だが、おれが認識しようとすればするほど増えて行く。出会った人、すれ違った人は勿論、その知人や友人親類に至るまで。なぜ血縁まで解るのか?そりゃマップ上で鑑定スキルが発現したからです!これは何?これは誰?といった感じでスマホ操作のタップやフリックを各色に対して指動作させると・・・出るわ出るわ。圧倒的な日本語での情報量。こんなに情報見せたら、俺面倒な奴から逃げ回るよ?大丈夫?「あっ!」

 全部マップ上から消えてしまった!嘘です、冗談ですよ、女神様!!おぉ戻った。アブねぇ、折角貰えた便利機能が消えるとこだった・・・。旗から見られていると、虚空に指で絵を描いている痛い人に見えているだろうが、そんな奴も居るって広い世の中。他人の視線は無視をしよう。

 被ストーキングされるようなイケメン経験は今も昔も皆無だが、いい加減にピンクを何とかしないと気持ちが悪い。なので、今度はこちらから攻めることにした。お手元のイカ焼きが無くなって暇になったから、だけじゃない。ピンクの方向を凝視した。

 「な!?」目が合うとハニカミ笑顔の美女がそこにそわそわ立っていた。敵でないことを祈らずには居られない!と、取り敢えずお知り合いに!

 「昨日から、ずっと近くに居ますよね?おれに何か用?」接近を試みた瞬間、あらゆるスキルと魔術を駆使して、誰の目にも止まらない速度で彼女の麻布コートの上から腰辺りに腕を回した。絶対に逃さない。逃してはいけないのだ!耳に息が掛かる距離で、先程の言葉を優しく囁いた。

 「お、隠密スキルが、通じてないの?と、取り敢えず一度離れてくれまいか?」透き通る白い肌。マジ赤髪。整い過ぎた目鼻立ち。元世界のSモデルが下等生物に思える。ピンクに染まる頬、向かい合い潤んだ瞳で、不意打ちキスまで後数cm。もう、次の瞬間地獄へ行くのだとしても微塵も後悔しないだろう。そして何より溢れる爽やかなバラ?ぽい香りが鼻孔を擽る。

 キスしてしまおうか、いや待て俺今お前の口は何で満たされていると思っているんだ!

 イカ臭いのは最低だぁぁぁ。

 「これは失礼した。おれはスケカン・ロドリゲス」ヤロウ?え?捨てたよ。少しだけ押し付けた腰を彼女から離して自己紹介をした。俺は紳士だが、今は腕だけは放さない。今や俺が彼女のストーカーに切り替わった。

 「私はクレネ・D・ファーマス」実はマップで存じております。隠しのDも何もかも。「昨日の昼に街道で盗賊を撃退されているのを見て、一度お話をと思って・・・何も考えず後を付けて来ましたが、実際お見掛けしても、何と声を掛ければ良いものかと・・・」声まで可愛い。大好きな音色だ。マジ天使。マジエルフ!赤髪から覗く耳先が普通の人間の形で、紙切れ程度には残念だった。

 「あんな・・・情けない醜態を見られていたなんてお恥ずかしい。おれの使った魔術が気になりましたか?」別に隠そうとは思っていなかったし、物事はストレートが大好きだ。

 「ええ、そう。あんな魔術は見たことがなくて、われ・・・私たちの部族は特別で魔法まで使えますがそれでも尚見たことが無くて・・・、もう逃げませんので、どうか離れてお話を」強力な拒絶ではなく、やんわりと俺の腕に手を添えて来た。うわぁ手指も綺麗だ。放し難いが離さないと話が出来ないとは、これ如何に。

 渋々巻き付けた腕を外して、代わりに彼女の綺麗な手を取って近くの軽食店を指差した。

 「昼過ぎなので少し混んでますけど、軽く何かを食べながら・・・動物性の肉類が苦手とか?」

 「え!?どうしてそれを・・・?大量には苦手ですけど、別段食べてはいけないとかの習慣はありません。牛のミルクやチーズとかお魚料理は大好きです」

 「丁度、あそこのテラス席が空いてますね。ではあちらへ」俺、こんな積極的な奴だっけか?お手々繋いでも意外に平気だ。男としての高揚感が己の全てをねじ伏せている気が・・・。

 超絶美女とフツメンが向かい合って談笑している様は、ごく自然に周囲の注目を浴びたが、彼女の隠密スキルが有効になっているのか不思議と会話内容までは聞かれていない様子。隣席で聞き耳を立てている男連中が頭の上に?を濫立していたが、気にしてなるものか!主に笑っているのは俺だけで、彼女は微笑むだけだった。今なら彼女の笑顔を見ているだけで鼻血が出せそうだ。

 「ところで、クレネさんは彼氏とか想い人とかいますか?」

 「居ませんね。それってそんなに重要なのですか?」

 「重要ですとも。人には親密度によって話せることや話せないこととか変わるんで」

 「そ、それはスケカン様の彼女とか、伴侶のような立場になれば、秘密の事柄も聞かせて貰えるのですか?」

 「はんりょ?あぁ、伴侶!それは、夫婦に秘密は必要ないでしょうね」

 「な、なります。私、彼女になります。いえ、して下さい!」急に俺の手を取り、鼻息を荒くするクレネさん。でも美しい。ありがとう、女神様。俺、この子に会う為にここへ来たに違いない。え?違う?

 「いえ、いや有り難うクレネさん。でも急過ぎるし、お互いもっと時間を掛けて・・・」どの口が垂れたんだ!あ、俺の口だった!!!

 「人間は油断するとすぐ死にますよ。時間何て悠長な事を言っていてはいけません」超長寿命なエルフさんが言うと妙な説得力が絶大。確かにと俺は頷き返した。お肉が嫌いな肉食獣と化した彼女を何とか宥め、軽い食事とお茶を済ませて店を後にし、人気の少ない場所へと移動した。

 「こ、このような場所で。い、営みを・・・」どこの段階ぶっ飛ばした!こちらの理性も吹き飛びそうだが。「ち、違うって。こんな昼間から・・・いや夜でも外では・・・って違うから!」少し離れた通行人が向ける奇異の目が痛い。

 「と、兎に角、あそこに座りましょう」「はい・・・」

 人気の少ない開けた広場のベンチに並んですわ・・・ぴったりと寄り添って座り、ようやく話の本筋を取り戻した。小声でも充二分に聞こえる距離。完全にカップルやん。幸せで泣きそうやん。全てを偽りなく素直に全部話そうと。

 話しながら気が付いた事が1つ。俺、誰かに聞いて欲しかったんだ。

 短いながらも大変に濃い、濃密な数日間を。元の世界のことを。戻れる可能性があることを。知り合いも誰も居ない、まっさらな世界。これが転生であったなら、何の不自然さもなく自然に受け入れ、世界の一部に溶け込み、人間であれ魔族であれ魔王であれ、魔物であったとしても極々自然にそれぞれに己の為すべきことを全う出来たはずなんだと。

 今現在持っている能力に至るまで、全てを吐き出すように話終える。彼女が長寿のエルフであることも知っていて、自分が普通の人間ではないことも何もかも。クレネの反応を待つ。

 「これがおれの全てです。何も持ってはいないんです。これは存在自体がズルなんで。普通に生まれていたら重ねるはずの苦労も何も。それぞれにあるはずの過去の思い出も。家族も居ない、親友と呼べるような友もいない。無い無い尽しで生きている意味さえ解らない。がっかりしたでしょう」

 クレネがスッと身体を僅かに離した。

 やっぱりダメか・・・と、心で彼女を諦めた次の瞬間。俺はクレネに抱きしめられていた。頭が彼女の胸に押し当てられて。子供のように髪を撫でられて。

 「どうか泣かないで。ここに、まだ私が居ます」俺は泣いていたのか。

 それ以上はない言葉。誰かに言って欲しいとどっかで願っていた言葉。一番聞きたかった、優しい言葉。俺は周りに居るであろう他人の目も気にせず、大声で泣いていた。

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