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第2章 第28話 予感


 ノーザングリブ王国。主な産業は、鉱石産出。

 火山帯の北側を領土としていた。太い鉱脈を独占し、他の国との諍いは絶えなかったと聞く。

 栄華を極めたはずの王都は、今では見る影も無い。

 ゼルゲンとの国境を越えた。

 関所の砦は崩れ、人一人として居なかった。

 小山の頂上から見えた、王都の姿は無惨そのもの。外壁も王城も殆どが崩れ、原型が解らない。各所から登る黒い煙。魔王に蹂躙された爪痕。

 王都を迂回して北側に向かう行商隊が街道に見えた。

 「何か食料を分けて貰おう」

 煮沸消毒をしただけの川の水では腹は満たされない。

 箱の中に入れてきた食料も後数日分。金はあるので買い物は出来る。

 普通の交渉が出来る相手であればの話。

 「もし。行商と見受ける」

 先回りをして呼び止めた。

 「何者だ。怪しい奴らめ」護衛隊の隊長風の男が怒鳴る。

 普通に歩いていただけなんだが。交渉は出来なさそうに見える。

 「何でも無い。先へ行くといい」

 道を空けて、行き過ぎてくれるのを待つ。

 連れの3人も深々とお辞儀した。

 「ほうぉ。これは上玉を3人もお連れとは。貴男様のお連れで?」

 スケベそうな涎を垂らした男が一人。荷台の天幕から顔を出して女を嘗めるように眺める。

 気持ち悪そうに身震いして、視線から逃れるように俺の後ろに隠れた。

 「これらは俺の奴隷だ。一人金貨5万でも足りない。諦めて行くといい」

 「これはこれは。強欲ですなぁ。では、互いに良い旅を」

 「あぁ、互いにな」

 早く行けと、裏手を返して見せた。

 「フンッ。命拾いしたな」最初に怒鳴った男が唾を吐き捨てる。

 隊が見えなくなるまで見送り、俺たちも歩き出した。

 「どちらが、でしょうね」

 「当然、あいつらでしょ」

 「汚物」

 「言ってやるな。小物ほど、話が通じない。何処の世界でもな」

 中隊を連れるだけの商人。期待してみても結果は残念。

 「斬る程の価値もなく。馬や荷を奪う程先を急いでもいない。何処かの町までの辛抱だ。体調は?」

 「ピエドロ様に慰めを頂いてからは」

 「頗る絶好調です」

 「はい。元気です」

 不思議な事もあるものだ。俺も少しは・・・何も変わった気がしない。

 悪くはない。それで、充分だ。

 今日は野ウサギでも探しながら行こう。最近は干し肉ばかりで詰まらない。

 詰まらない。詰まらないのに、更に上乗せしてくる奴ら。

 「ピエドロ様。今回は私がやりましょう。お休み下さい」

 「頑張って、フレア」

 「奴隷隊の中では一番に強いのですから」いつの間に設定されたのだろう。

 巻き布を外し、フレアーレはアルテマを抜刀した。

 「危なくなったら、叫ぶようにな」そんな状況にはならないと、解っていながら。

 「はい、ピエドロ様」


 先行させた商隊が伏兵を構えていた。ただそれだけ。10人程度では、フレアの相手にはならない。

 ゼルゲンの王城での夜を越えてから。彼女たちも急激に強くなった。

 従軍で戦い方は学んでいる。望んで受けた教育ではない。無理矢理に刷り込まれた基礎。

 息も乱さず、何事も無かったように、フレアは拾った布きれで剣に付着した血糊を拭っていた。

 「お疲れさん」

 「お疲れ様です」笑顔は無い。それでいい。

 離れている間に捕まえた野ウサギ2匹を、ザリが器用に捌き血抜きを施す。

 マカスミが火を起こし、肉の部分を焼いて行く。手慣れたもの。

 「面倒です」ザリが珍しく第一声を発した。何時もはフレアからなのに。

 「どうした?」

 「なぜピエドロ様は名乗らないのですか?名乗れば、無用な争いが避けられそうですのに」

 一理はある。

 「ザリの言う言葉は最もだ。俺の名は大陸中に広まっている。名、だけはな」

 「お名前、だけ?」

 「名は知れども風貌までは知らない。一人なのか四人なのかも。風貌まで広まれば、自由な旅が出来なくなるのが堪え難い。君らも二度と縛られたくはないだろ?」

 「・・・はい。ピエドロ様以外の男には、二度と触れられたくもありません」

 付けられた言葉は素直に嬉しい。男性不信は拭い切れていない。旅では今後の懸念。

 「俺は今の自由が好きだ。村を出る時は一人でもいいと思っていたが、こうして共連れが居るのも悪くはないと今では思う。大切な仲間だ。名を聞けば、臆して逃げられる。逆に腕試しと挑み来る輩も現れる。俺たちを利用しようとする商人も。先のあれは頭の悪い類いだろうが、頭が切れる者であれば、厄介事を吹っ掛けられるのが関の山。それこそ面倒、だと思わないか?」

 「失礼しました。誤言をお許しを」

 「気にするな」

 1匹分だけその場で食し、1匹分は綺麗な布に包んで箱に入れた。この箱は不思議だ。ある程度は熱まで保つ。長期放置しても腐りもしない。物は配置した場から一切動かない。自分で置き直さない限りは。大変に便利だが、他の者が使っている所を見た事がない。どうして自分だけがと思わなくはない。これも消えた記憶の中に答えがあると思う。

 食後の一時を置いて、今度はフレアーレが口を開いた。

 「共連れ・・・。仲間、だけでしょうか?」

 「高い望みであると思ってはいます」マカスミも、ハッキリ物を言うようになったな。

 俺も、しっかりと伝えなければ。今の気持ちを。男女である限り、この手の話になるのはある意味で仕方が無い。無責任な行動を取った。しかし悔いてはいない。

 「君らの事は好きだ。大切だと思っている。しかし愛ではない」

 「・・・」

 「交わりは、互いの心の傷を癒やす為の行為。それも愛だと唱える者も居るだろうが、俺は違う。消えてしまった記憶の何処かに。この心の何処かに、確かに居るんだ。君らではない、幻のような面影が。この旅は、記憶と共にその人を探す旅でもある」

 「想い人・・・。その方が、とても羨ましく思います」

 「ですわね」

 「本当に。ですが、今お隣を独占するのは私たち。どうか、その方が見つかるまでは」

 切り捨てやしない。するものか。答えの代わりに3人を抱き締めた。


✕、✕-


 元世界。自宅マンション。

 同じベッドの上で、茜が胸の上に円を指で描いていた。爪を立てて。

 「う、わ、き」

 お許し下さい、茜さん。

 「仕方ないだろ。あの頃は、本当に記憶が無かったんだから」

 「その頃の剛に、会ってみたかったな。人の身体で」

 あちらで茜と再会する前の話。流せずとも流して欲しい。

 「俺が愛してるのは茜だけだって」

 「一言で済ますな。何でも許されると思ってたら大間違いよ」

 バレバレだな。フンと鼻息荒く、俺の右腕に頭を置き直していた。

 「ひょっとして、ウィートちゃんって」

 「それはないな。最後まで、誰とも子供は出来なかった。たぶん、色欲のスキルのせいで」

 無条件で相手の力を奪い、任意に振り分ける。受け取り、返す。自分だけじゃなく仲間の力量も上昇していたのは完全にスキル影響。俺は意図せずやっていたに過ぎない。

 在るのは、同族を直接殺害するか、異性として抱くかの違いだけ

 結果、ソールイーターは全く関係がなかった。

 聖も邪も存在しないスキル。色欲を計算で使う者が現れたら・・・。

 「あれを正しく使えたら、ブラインさえ軽々越える存在になるだろうな」

 敵に回すと厄介だぞ、片割れよ。

 「人の心配よりかさ。私、ずーーーっと、とーーーっても。いやーな予感するんだけど?」

 「奇遇だな。俺もずっとしてる」

 こちらに戻って来てから1年近く経つ。俺は、俺たちは。

 未だ危機に瀕した事がない。ライバルも、俺たちと敵対出来る者も。何も現れない。

 「怖いから。ぜったい口には出さないけど」

 「その時は、その時になってから考えよう。たぶん、その時が女神様の名を戻す時」

 「クレネのほうは戻しちゃダメだよ。そっちのほうが嫌な予感がする」

 女の直感か。茜の勘は良く当る。ここは素直に信じよう。

 どっちも、起きて欲しくないんだけどな。

復名タイミングの設定と、一つの懸念材料の潰し込み。


それでもやっちゃうのが・・・はありません。

異界の主人公よりは、賢く思い遣りのある人設定なので

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