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第2章 第24話 エクス・チェンジ

 師匠が腰までの赤マントを翻した。

 「諸君!生きているか」

 新たなキャラが出現。これでベレー帽でも被ろうものなら、立派な独裁者。傲慢が怖い・・・。

 セラスが後ろから、マントの乱れを整えている。

 整え終わると、一歩下がってパチパチと手を叩いていた。何だよこの夫婦。

 皆、クレネと御夫婦以外は全員返事が出来ない状態。

 「返事は?どうしたのかね」

 テープルが叩かれ踊ると、みんなシャキンと立ち上がり。己の生存を誇示していた。

 「元気があるではないか!!では、皆が待ち望んだ休暇は、1日延期しようか」

 絶望。その言葉がよく似合う。

 修行が始まってから一週間。生きている。俺たちは、まだ生きている。

 女子メンは膝から崩れ、涙に暮れて口を抑えている。

 男子メンは床に突っ伏した。俺もな・・・。

 明日が来ないでくれと、こんなに祈った事はない。

 一週間。何があったのか。嫌だ!思い出したくない。描写したくない。許してくれ。と言ったら前回と同じで成長が無い。ちょっとずつ思い出そう。

 だって、修行はまだまだ続くのだから。序盤で挫けてたら何も出来ずに終了だ。

 結論的に、俺たちはカリシウムの取り巻きにすら辿り着いていない。訳は追って解説する。

 「冗談だ。今日は約束したとおりに休暇とする。その前に、少し話をしよう」

 女子メンが3人互いを強く抱いていた。美しい友情だ。

 メデスとアーレン。ユードとゲップス。俺はダリエ君と抱き合っていた。

 キモい?うっせぇよ!大きなお世話だ。生きてる喜びを分かち合って何が悪い。

 ガレー君?昨日、無茶やって寝てるよ・・・。

 昨日、戦闘中にアイテムBOXを再起させた。前代の名残を求めて。前に入れていた何本かのエリクサーを求めて。何も入っていない真っ新な空間を覗いてしまい。

 発狂してしまった。だから、物を持って来れたのは俺だけって何度も言ったのに。

 大魔術を小屋に向けた瞬間。俺とダリエの屍の前に居たはずの師匠が消えた。

 これ以上語る言葉はない。だろ?

 セラスがテーブルの上の、血塗れのティーカップを片して行く。クレネが別の意味の青い顔で片付けを手伝った。「別」については、ご本人に聞いて欲しい。

 お腹の子に障るよ。笑顔を見せてくれ!

 紅茶などと贅沢は言わない。水でいい。普通の水がとても欲しい。

 エリクサー水と全員の武器は初日に没収された。

 武器に頼るな!薬に頼るな!と師匠は断じた。これが魔王配下に手こずっていた理由。

 飛んで逃げようとした茜は翼を折られ、地に潜ったユードは肋を折られて捕まった。

 後方の師匠(鬼)。前方の虎(白い小猿)。逃亡不可能。

 各々、基本となる低威力の術と俺の造った薬は使う許可が降りた。そうしないと誰かが死んでたからな。冗談抜きで。

 6日間。俺の取れた行動を記す。

 朝、起きる。人数分のクリエイション。飯食って修行。

 昼、飯を流し込む。修行しながらのヒーリング。主に自分とダリエのな。

 夕、飯を押し込む。修行しながらの不足分のクリエイション。足りねぇよ。

 夜、何も食わずに夜間戦闘。血みどろのまま川で寒水を被り、交代で就寝。

 暖?外だよ。風邪?通り過ぎたよ。凍傷?薬で一網打尽さ。飯?何食ったか覚えてねぇ。

 仲間?隣に誰が居たかも覚えてねぇ。互いの身体をすり寄せてたけど、ゴツゴツしてたから多分男子メンの誰かだろ。

 愛?芽生えねぇよ。友情?何の足しにもならねぇよ。

 女子?だけは固まってたよ。茜の羽毛に包まって。温かそうだったなぁ。

 性欲?そんなもんは幻想だ。

 レベル?見る気にもなりゃしねぇ。

 小屋?強力な結界張られてて入れなかった・・・。中の3人がとても楽し・・・そうでもない様子だった。

 俺は外のみんなに釜倉の造り方を教えて回っていた。以上、解説を終わる。


 各自、目の前に置かれた水を飲み干した。エリクサーが混入されてるとも知らずに。

 強制回復。心も晴れやか。視界も良好。世界は、こんなにも明るかったんだ。

 「各員。元気になった所で、今日はそれぞれの武器について話そう」

 再起不能だったガレー君も自我を取り戻して、着席していた。良かったな、マジで。

 今日は武器の話か。こいつもとても重要な話だ。聞こう。

 セラス様が、何やら耳打ちをしている。吉報か!吉報なのか!!

 「明後日からの修行では、各自の武器を返却した上で行う」

 明後日?聞き間違い・・・じゃないよな。

 やったぜ休暇が増えた。師匠、愛してるぜ。

 「・・・止め給え。休暇を減らされたいのか」

 思わず口に出てたーーー。自重しますので続きをお願いします。

 「ツヨシ君の魔剣。ゴライアイス君に預けた魔剣。グリエール君の聖剣。前代で使っていたウィーネスト君の聖剣。今はまだ私の手にあるガーディアン。クレネが持っていたノーネイム。メデス君のアクス。アーレン君のチェーンメイス。ユード君のナイフ。ガレストイ君のステッキ。聖都に貯蔵されているパージ。他にも在るが、こられにはとある共通点が存在する」

 とても強力な武器たち。前置きのように話す師匠。共通点?

 「全て、同じ人物が打上げた作品だ。ピエドロと言う名の、我が友。この私と互角の勝負を果たした人間の男だ。私も当時若かったのもあるが、差し引いても彼は強かった」

 ピエドロって・・・。俺の片割れじゃん。あいつすげぇな。

 あの時も、簡単に魔剣の鞘を造ってたっけ。生産職か何かだと思われる。

 生産職で師匠とタメ張れるとは。

 ふと見ると、茜の顔色が優れない。体調不良?大丈夫?

 「大丈夫よ・・・。続けて」

 「うむ。端的に言えば。こららの武器では、魔神は倒せない。何故なら、彼ピエドロが魔神を生み出した者であるからだ」

 まぁ、そうなるわな。

 「この聖剣も、魔神が生み出した剣。だからですか?」

 グリエールが自分の剣を手に取り、鞘の上からそっと撫でていた。

 「率直に言ってそうなるな。しかし案ずるな。必ず手は在る。手については後で話すとして、現況を整理しよう」

 師匠が召喚術から新たな武器を取り出して、机上に追加した。

 長尺の槍と大剣を。

 大剣はメサイヤと出ている。一見すると魔剣の黒に近い灰色。光沢が無く、艶を消した銀色。

 持ち手の意志を反映する。聖にも邪にも。それは持ち手次第。

 「ゲルトロフ君。手に持ってみるといい」

 「ほう。メサイヤね・・・。こいつは、俺に似ている気がする」

 太い柄を持ち上げ、軽々と手首を捻り返して眺める。

 長槍はニルヴァーナ。何処かの山奥に咲く、孤高の白き花の如く。真っ白な刀身を掲げた槍。支えは木材ではなく、刀身から継ぎ目無く連なる金属器。

 変幻自在。迷い無き一撃は、如何なる壁も破るであろう。

 「これはダリエ君に。ガーディアンはまだ渡せないのでな。主装としてくれ」

 「勿体なき言葉。大切に、使わせて頂きます。ガーディアンは、この先もずっとブラインさんの手に在る事を望みます」

 だよな。そんな場面は来て欲しくない。来させちゃいけないんだ。

 「この2本はとある廃国の地下に在った物。ピエドロの先人に当る者たちが打上げた逸品。必ずや君たちの役に立つ」

 片割れの先輩たちか。生きていたら会ってみたかったが、もう居ないんだろうな。

 「今では滅びた種族。地より生まれ出でし者たち。地上の何者よりも強い身体を持ち、何者よりも優しき心を持っていました。人間たちに、醜きドワーフと蔑まれ、利用され、殺されてしまった悲しき種族たちです」

 酷ぇ話だ。散々利用された挙句に殺されたとは。

 片割れは、元はドワーフに転移してたんだな。そしてそれが魔神のベースとなった。人間に対する深い憎しみ。その一端が見えた気がした。

 「だとすると・・・。各地の王国のお抱え鍛冶師がドワーフって噂があるのに。あれは?」

 俺の小さな疑問には、ゲップスが苦い顔で答えてくれた。

 「全部嘘っぱちさ。王家を名乗る奴らの、汚らしくも稚拙な見栄。力を誇示したいんだとよ。偽りの伝承なんぞに縋りやがって、あのクソ爺。あの国の宝剣が、真逆本物だとは思わなかったが、となると。あれもなのか・・・」

 何か別の物を思い浮かべているようだ。その内に話してくれるだろ。

 「ああ、南に行った時にでも。結局、必要になる物だしよ」

 含みは気になるが、話を師匠に戻そう。

 「アカネ君には武器は不要だな。言い換えれば全身凶器であるからな」

 「・・・気にしてる事を、サラズバっと来るわね」

 俺なんかより余程正しい指導を受けた体術もあるし、いざって時の羽根は強力。魔力有る限り幾ら出しても無くならない。魔力も魔石から吸収可能。この中で最凶クラスの一人。

 「今なんか・・・、嫌な響きに聞こえたよ?」

 「気のせいさ~」

 「これで、各自の武器が揃った。明後日からの訓練で充分に身体に馴染ませるんだ」

 遂に修行が訓練になっちまったぜ。

 浮かれる面々の中で、ウィートだけが残される。セラスさんの手がその肩に置かれた。

 「寂しそうな顔をしないで。あの宝剣は、まだ彼に所有権が在ります。彼を救うのなら、この先も移譲される事はありません。ですので別の剣を用意しています。グリエールさん。ツヨシさんと共に、外へ出ましょう」

 祖父さんを救うか。聖剣欲しさに殺して奪ったのでは不埒な強盗と何ら代わりない。

 それよりも俺もって、何だ?

 「宝剣の代わり、でしょうか?」

 「代わり、と言っては剣に対して失礼ですよ」


 菜園から少し離れた場所。前代で丁度、御夫婦のお墓が建てられていた丘の上。

 言い様のない違和感は感じるが、今では御夫婦共にピンピンしてるんだから。本人たちがそれでいいなら、要らぬ世話ってな。

 今朝は良い天気。昨日までの天候が嘘のよう。・・・2人で天候操作してたり・・・。有り得そうで怖いので、敢えてスルーしとこ。

 隣では、しょんぼりモードのウィートの頭を、グリエールが撫でていた。

 他の仲間たちが、丘の袂でこちらを見守っている。心強いね、ホント。

 俺は一人で、何を逃げ回ってたんだか。戦う振りして。

 「ツヨシさん。魔剣を頂けますか?」

 セラスさんが両手を差し出した。

 「普通の身体で、触れても?」

 渡すのは構わない。人の身体が蝕まれるのが心配だ。残り僅かな女神の力を宿しているとは言え、身体は普通の女性。俺たちのように訓練を積んでもいない。

 「お優しいのですね。では。グリエールさん。私の代わりに」

 「私が魔剣を受け取り。この聖剣を、ウィートに渡すのですね」

 おぉ。だからこの4人なのか。すると、自動的に俺は。

 「拳聖ねぇ。おれの武器は、この拳と魔術」何とも贅沢な悩みだこと。

 魔剣を鞘毎、グリエールに差し出した。彼女が受け取ってくれれば、これで漸く俺も、この肩の荷を一つ下ろせる。

 グリエールの手が、伸ばし掛けた所で止まった。

 「グリー。無理をしなくとも、私なら」

 「怖くないと言えば嘘です。前代ではゴラ様が居てくれたから、何も怖くはなかった。でも今は違います。この6日間。先生には、あらゆる地獄を見せて頂きました。これからも続く、あの地獄に比べれば。この様な過去の傷。何を恐れる事がありましょう」

 心の迷いを振り払ったグリエールは、今度は恐れる事なく魔剣の柄を握り締めた。

 腰の留め具を外し、聖剣をウィートに手渡す。

 「今日まで、私の支えとなってくれた事。生涯忘れません。そしてこれからは、私の無二の親友をお守り下さい」

 「力をお借りします。共に、邪を討つ力となりて。みんなを守りましょう」

 「さぁ、ツヨシさん。交換に、相応しき唱えをお願いします」

 これ以上女神様の手を煩わせるのも何だしな。ここは一つ。

 「エクス・チェンジ」等価交換の願いを込めて。

 奇しくも同じ「エクス」の名を冠する2つの剣。武具とは。全て、使い手の使い方次第。聖剣も魔剣も生まれは同じ。同じ人が打上げた。

 その見た目に騙され、これが魔剣だと称したのも。愚かな人間たち。剣は何処まで行っても剣でしかなく。

 髑髏のミニオブジェは・・・。あいつのセンスが悪かったとしておこう。そうしておいてくれ。

 などと考えていると、グリエールが持つ黒剣の形状が変化した。

 本体が変化するのも、あのランバル戦以来久々。

 俺が叩き壊す準備をしていると、それ以上の変化は特に何も起きず。あっそう。

 ただの準備だから!単なる朝の準備体操だからね、これは。

 髑髏に亀裂が入り、砕け散った所で形状変化が終わった。

 柄の長さが勇者の手の大きさに合うサイズとなり、刀身部も聖剣とピッタリ同じになった。鍔と鞘もオマケ程度に合わせられ。

 正しい人が持つとこうなるのか・・・。

 うっせぇよ!最初から捨ててんだ。相性悪くて悪かったな。

 2本共、持ち手が変わった性か、名称と性能が若干変化した。

 白きは、イグナシオ。起点。始まりを告げる希望。

 黒きは、エンディア。終点。終わりを告げる尊望。

 「へぇ・・・。そうなるんだ・・・」

 茜が懐かしそうに呟いた。俺には無い、あいつとの想い出。聞きたいような、聞きたくないような。聞いたら自分に負けたような気が。

 「話してあげてもいいよ。今夜にでも」不適な笑みがちょい怖い。

 茜が師匠の手を取り、丘を上がりセラスの隣に立たせた。そして、深々と頭を下げた。

 「2人とも。剛を戻してくれてありがとう。やっと・・・」

 俺?あいつ?気にはなるけど俺も男だ。ここはググっと黙ります。

 「ええ、やっと。ここまで辿り着けました。ねぇ、あなた」

 「ああ、我が妻よ。しかし全てはここからだとも」

 「・・・全部。全部が終わったら。私、消えちゃうのかな・・・」

 茜が2人を不安そうに見上げていた。

 「いいえ、アカネさん。その様な事はありません」

 「でも・・・、私。あなたに沢山酷い事を」

 「少し位反発されたからと、一々怒りに振れては神など務まりませんよ」

 「でも・・・。生きてていいのかな」

 「何故に私の本体を貴女に与えたと思うのです。意志を持ち、魂を宿し、生きている。その是非を問うは誰も叶わず。魔神だけは除きますが」

 冗談めいて女神が笑う。それで、漸く茜も笑顔になった。

 最後しか解らん領域だったけど、兎に角元気になってくれて良かった。


 「本日はここまでとしよう。明日の夕方までとする。鋭気を養うのも戦士の務め」

 メデスよ・・・。全員、戦士か。完全休暇貰えるだけ、ブラックじゃない。

 「夕方までに間に合わぬ者は、ウィーネスト君の手料理が食べられないと思え」

 「・・・」俺も含めて、黙秘します。

 言われた本人だけが首を傾ける。

 「煮込みほど。簡単なお料理はないと、私は思うのですが」

 味を知る人の歓喜の声が上がった。中でもクレネが一番喜んでいる。

 「料理の道は険しいね」

 君が言うなよ、クレネさん。


 師匠の休めが下った。時間は昼前。早めの昼食、ショッピング、のんびり嫁たちとイチャイチャも捨て難い。

 「たまにはパーッと。羽根伸ばそうよ」

 悩みを解消出来た茜が、自由を謳歌して翼を広げてクルクルと回る。

 町中で伸ばすのはお止め下さい。町人たちの驚きの連鎖が止まらなくなる。

 「スケカン。俺も町へ出たい。理由はよく解らないが、朝に女神様が運んで来てくれた水を口にしてから、身体が異常に熱い。特に、あっち方面が」

 あー、居たわ。この中で一人だけ、お薬に耐性の無い人。

 「ユード。悪いがたの・・・」

 「しょーねぇなぁ。おれが付いてってやるよ。魔王に引っ張られそうになったら、おれが縄でも括って簀の子にしてやる。ダリエも行くだろ」

 「はい!」

 嫌だと言いながら、喜びが表に出てるぞ、ユード君。お相手が居ない、独男なら仕方ないと見逃して欲しい。

 クレネが隣でお腹を摩っている。

 「動いた?早くない?」

 「大きくもなっていないのに・・・。今、何かに反応したような」

 不思議だね。早く会いたいからって、焦っちゃダメだぞ。我らが娘よ。

 後方の枯れ気味の2人は。

 「わしらはカリシウムの手下でも狩ってくるか」

 「発散しないと、可笑しな方向に走りそうだしな」

 大人です。流石ベテラン。発散方法も人それぞれ。

 「さーて解散と行きたいが、外組のみんなはもう少し待ってくれ」

 お外組の全員を一カ所に寄せ集め。

 「プリシット・キュアレスト・オール!」

 高らかに宣言し、11人の全身を浄化した。女の子も含めて、丸6日間お風呂入ってないから色々とね。事実だからな。

 「・・・」茜とグリエールとウィートが泣きそうな顔をしている。髪なんてボッサボサ。

 みんなの生きてる証拠だ。許せ。

 「ウィート。あそことあそこの窪地に露天風呂作成頼む。風呂入って行きたいなら、男も整地手伝えよ」

 丘の上から見えた場所を指差す。小川に面した2カ所の岩場。適度に離して女性用と男性用とに分ける。

 間に小高い木々が立つ。覗こうと思えば覗けるだろうが、そんな些細。共に死線を潜った俺たちなら問題ないさ。無理に女子風呂覗こうものなら、もう一度地獄に逆戻りになるだけ。

 「はい!頑張ります!」何を?ダリエが何かを狙っている。お前・・・、生きて帰れよ。

 生粋の冒険家の少年は、常に危険な事に首を突っ込まないと気が済まないらしい。血筋か!

 「ダリエよ。程々にな。わしらは、どの道汚れるが」

 「戦士も時には身嗜みも大切。手伝おう」

 「町へ行くのに。臭いまんまじゃな・・・」

 そんなハッキリ言わんでも。誰の台詞かは想像にお任せで。誰の?

 「楽しそうね。私も手伝うわ」勿論ですよ、クレネさん。適度にね。

 適当に小言を述べながらも、師匠も含め結局男連中も全員で皆露天作成を手伝っていた。

 

 イメージを膨らませる。エロではない。

 固形石鹸なら、この世界にも流通している。液状はまだ無い。適当な空き瓶を用意して下級ポーションで満たす。作成にレッツトライ。

 「クリエイト・ボディソープ・インアロマ」

 液体石鹸。自然派。環境影響無し。よしっ!良い感じだ。

 男はどうでもいいが、女の子の好みは解らないので香り付けは、バラとラベンダーとジャスミンの3種をご用意。クレネはバラかな。喜んでくれるといいな。

 「クリエイト・シャンプー。クリエイト・リンス。クリエイト・コンディショナー。クリエイト・トリートメント」続けざまに唱える。

 香りは同じだけ。使用量と適正分量は掴めないので豊富に。

 石鹸類の用意が終わった頃には露天が出来ていた。

 茜を呼んで、女子用の瓶の説明を施した。男は俺がするので。

 BOXから、柔らか目の綿布を取り出してのフワフワ感増し増し。

 「至れり尽せりね。あんたお風呂屋さんでも始める気?」

 「それもいいかもな・・・」ふと東の空から何かを感じた。

 「え?あぁ、あっちから」

 「来たな。迎えに、行こうと思ってたのに」

 「もー、また泣いている。泣き虫」

 「嬉し泣きだ。いいじゃん」

 東の空からの高速移動体。近場の新雪群の小山に、小柄な人型の穴が空いて。

 「楽しそうじゃのぉ」

 背中に大きな黒い羽を生やし、綺麗な深紅のドレスを纏った可憐な乙女。腰の魔剣なんて単なる飾りだ。

 「ゴラちゃん。久し振り」

 思わず駆け寄り、抱き締めた。ドレスが硬くて痛かったのは内緒で。

 「久し振りじゃのぉ。ほんに、待たせおって」

 「ごめん。ドレス、綺麗だな」気の利いた台詞が出て来ない

 「そこは本体褒めるべきだと思う」

 後ろの茜が小言を仰る。

 「相変わらず、可愛いな。改めて宜しく。来てくれてありがとう。ゴラちゃん」

 「ぶん殴ってやろうかと考えておったが・・・、気が失せた。今夜は、覚悟せよ」

 「うん。お手柔らかに」ホント、気が利かねぇ。愛の言葉は、夜までお預けさ。


女性陣、露天風呂、--&


 皆で入るお風呂が、こんなにも楽しい物だとは。

 水遁と火遁を頑張っただけはあります。男性用は存じません。

 あちらはツヨシ様とガレストイ様が何とかしてくれているでしょう。

 「ホンに生き返るのぉ」

 器用に羽を畳まれて、浴の中で伸びをされるゴラ様。お元気そうで何よりです。

 こちらの皆様のお身体が洗い終わるまで、術で水を流し続けていたので私も多少は疲れておりましたが。

 「生返りますねぇ」

 「温泉じゃないのが残念だけど。雪景色を眺めながらの露天風呂も、いいもんね」

 アカネ様が男性風呂の方角を見ている。

 女神様とグリーが居らっしゃらなければ、ツヨシ様と混浴でも良かったのですが。今度は5人で入りましょう。

 「ゴラ様はいつ、お記憶を」

 「生まれてから数年後じゃな。最初からではない。不思議な既視感を寄せて集めて。今度は自ら進んで魔王となった。何時ぞやに、クレネが様子を見に魔城前まで来たのには驚いたぞ。どう対処してよいか難儀したものじゃ」

 「会いたいけれど、会ってはいけない」

 「会ってはいけなかったのですか?」

 「余りに前代と懸け離れた行動をすると、ツヨシさんが戻って来れなくなってしまいます」

 「出来る限り、前と同じにせねばとな。出会い直すのに魔王となるとは、私だけ損な役回りじゃの」

 「女神様とは、何処かでお会いに?」

 「会わずとも存在は知っておる。個々の魂の在り様が解るのは、何も神や賢人だけの特権ではないぞよ」

 「流石は竜姫様ですね」

 「照れるのぉ」

 「よっと」

 お姉様が半身を出すように、高い岩に座り直した。賢人のお身体には少々湯が熱かったようです。

 お隣に行きたい。私たちがそれをすると、風邪を引き戻すので止めておきます。

 「うわぁ・・・」グリーの顔が真っ赤に染まる。自分をお姉様と比べては駄目ですよ。

 「賢人は無自覚に自慢をするからのぉ」

 「見たければ見ればいい。ツヨシ以外の目は潰すがな!」

 突然弓を射るお姉様。上がる少年の悲鳴。

 「ダリエ君・・・」欲望にも真っ直ぐなのもどうかと思いますよ。

 「4人は、同じ夫を持ちながら嫉妬とか、しないのですか?」

 「そんなの慣れよ、慣れ。違和感あったのは、主に私だけだけどさ。明確な序列もあるし。一晩乗り切っちゃえば、後はハッピーよ。でさ、女神ちゃん。私たちの序列決めたのって?」

 「ご本人しか居ないでしょう。私もそこまで暇ではありません」

 「やっぱし」

 アカネ様が立ち上がり、小屋の方を指差した。

 「長風呂もいいけど、クレネの身体にも良くないわ。旦那連中も町に出して、たまには女子だけトーク、しない?」


女性陣、居間。--&


 また私のお役目・・・。

 お風呂を上がり、火遁とゴラ様のストーム(微弱)で皆さんの髪も整え完了。

 着替えを済ませて、居間に集まった。

 お茶を淹れて、テーブルへとカップを並べる。こういったお仕事も実に久々で、とても楽しい気分です。

 誰かの為に何かをする。その誰かが笑顔になる。それが何よりも嬉しい。

 お砂糖代わりに上級ポーションを垂らす。

 ウォート卿の邸でのツヨシ様の行動には肝が冷えました。真似てみると、嘘のように美味しく感じ、火照りの残る身体に染み渡る。

 他愛なく夫の悪口を言い合い、一頻り笑い合った後。前代を含めた真面目なお話をした。

 「エルドに、言伝を幾つか頼まれておっての」

 「母様の?」

 「うむ。ツヨシに宛てた物が多い。本人に伝えねばならぬ物もあるのじゃが、それは夜にでも伝えるとしよう。とは別にじゃが、前代の記憶の中で気になる術があった」

 繰り出される術は、どれも強力で決して真似は出来ない物ばかり。

 「クレネが危機に瀕し、私たちが気絶していた場面じゃ。あの時、ツヨシはいったい何を起爆したのじゃ?」

 ゴラ様の目線がお姉様に向かう。

 「激しい、怒り・・・」

 「憤怒。7大罪の一つです。大罪の定義は難しく、知を有する者であれば誰しもが持つ深層意識。魔王ランバルと、ペルチェが特別強力であるのは」

 「魔石と大罪を同時に有している為、ですね」グリーが静かに指摘した。

 「はい。中でも憤怒は個で強力。最強と言って過言ではありません。あれを押さえ込むのに、力の大半を注ぎました。再びは出来ませんので、くれぐれもご注意を」

 「あの時、更に繰り出していた術も寒気がした物じゃ」

 「彼が味方である以上は心配は要りません。仮に魔王側の誰かに奪われた時は計り知れません。魔神討伐前に、世界の命運は尽き果てるでしょう」

 女神様は瞳を深く閉じ、最悪の場面を想定される。重苦しい空気ですが、私はそうは思いません。

 「極論。私たち4人、誰も死ななければ良いのです。その様な場面を作り出さねば良いだけです」

 「本当に極論ですね。それでも懸念は残ります。特に暴食を持つランバル、色欲のアスモーデにはくれぐれも」

 「大丈夫です。ツヨシ様は。私たちの旦那様は、魔王にも魔神にも負けたりはしません。逆に暴走をするのであれば、私たちが叱って差し上げれば良いのです」

 「愛し、愛され。少しだけ、ウィートたちが羨ましい」

 何かを思う、グリーの手をそっと握り絞める。

 「迷いが在るなら、正直に。私たちなら、どんな答えも受け止めます。グリー」

 頷き返し、話し始めるグリー。彼女が抱える胸の内。先日のお話の続きを。

 近くに居れば居る程、強く募る想い。訓練の最中であっても、目で追い見比べてしまう。ツヨシ様と、ガレストイ様の姿を。つい比べてしまう。

 日増しに重く感じる、ガレストイ様の愛。何も返せない自分。

 「夫の忘却で、彼の記憶を消し去る事も出来ますよ。戦力としても終わりとなりますね」

 「・・・そんな、卑怯です」

 「卑怯?それ、どっちの話?彼の想いを勝手に消す事?戦力のほう?」

 「ガレースの、想いを身勝手に消してしまうほうです」

 「答えは出ておるではないかえ」

 「彼に、忘れられたくないんでしょ?」

 「いつものポジティブ勇者は何処行ったの」

 「グリー。今、その悩みを打ち明けるべきは?」

 グリーが私の手を離して立ち上がる。

 「さっさと行かぬか!その内に在る吹溜りを。全てぶちまけてしまえ!」

 「はい!このグリエール。ただ一人の農家の娘として、砕けて参ります」

 そう言い残し、扉を乱暴に開けて出て行ってしまった。どちらにでしょう・・・。

 「ツヨシかの。ガレかの」

 「剛のほうだったら、新たなライバル追加ね」

 「私は、そうはならないと思うよ」

 お姉様のお見立て通りに。この夜、グリーとガレストイ様の愛は成就され、更に深まったそうです。良かったですね。グリー。

 これで私も一安心。両方の意味でですけど、何か?

愛を描くのは難しいです。

何度も言いますが、勇者ルートは絶対にありません。

別に恋愛物を書きたかったワケじゃないんで。


実はピエドロさんが追加作成していた、なんて事はありません。

魔神編の構想と乖離するので、先輩たちが造ったとしています。

師匠は他の武器も見つけていますが、低レベル物は切り捨てています。


お風呂ネタは鉄板天丼なので、私も漏れずに書きました。

竜姫さんを食で釣る案もありましたが、昼間に合流させたかったので

こうしました。


次話、クレネさんのお悩み内容と

仲間となる、かもしれないもう一人のご紹介


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