第12話
朝。太陽が眩しく差し込み、目を開けるのに抵抗がある。それでも無理矢理伸びをしてベッドを這い出て着替えを済ました。存分に清々しい朝だった。窓を開けると肌寒い。清涼感のある早朝の空気で肺を満たした。
展開しっぱなしのマップを確認すると、ピンクは見晴し台に留まったまま。ふぅと溜まった空気を吐き出して、一晩過ごした部屋を出た。
「おはよう御座います。スケカン様」部屋の外には本物のメイド服を着た侍女が頭を下げて出迎えてくれた。リアルメイドは日本のあれではなく、清潔感としっかりとした規律を感じる。
「おはよう。シュレネーさんは?」
「主人様は朝の会合に出掛けられて不在です。その他議会、報告会、打ち合わせ等々。スケカン様の朝食の準備は整っておりますので、どうぞこちらへ。食べ終える頃には主人様の紹介状をお渡し出来ます」
「挨拶したかったけど。少し寝坊しちゃったね」出来る男の朝は早い。そして出来る侍女さんの嫌みを含まない笑顔もまたいい。かなりの癒やしだ。さながら高級ホテルってこんな感じ?泊まったこと何てないけど。メイド付きのホテル・・・ないかも。連れられるままに食堂へ向かった。
「長旅でお疲れでしたのでしょう。ごゆっくりおくつろぎ下さいとのことです」形式的な挨拶+。確認してみると今は午前10時くらいらしい。普通に寝坊だ。マップに目を送ると、何の前触れもなく右上辺りにデジタル時計が表示された。え?どんどんゲームっぽく進化するの?つい癖で自分の尻を探ってしまった。当然、スマホもポケットも何もないが。「ベッドが合いませんでしたか?」侍女が心配そうに見てきた。「いやいや、これは癖でして。風呂もベッドも最高でしたよ」寝坊したくらい何だから。侍女はホッとした顔で前に向き直った。お持て成しをするのが彼女のお仕事。
侍女さんの後を付いて歩く。ピンとした背筋から降りるヒップラインが素晴らしい。何かしらの武芸を嗜んでいると見た。決してエロ目線・・・、だけじゃない。兎角カルマがカルマがと騒がれるこの世界。口説くだけなら未だしも、勝手に触ろうものなら内(カルマ値)からも外(平手打ちカウンター)からも思わぬ痛手を喰らうだろう。うん、痴漢やセクハラは犯罪だもん。どっかで鑑定スキル取れないかなぁ。魔王の誰かが持ってたりして。当たり前だが他人のステータスは見られないので。
あれば便利だよね、レベルの話だが。気になるあの人の好みとか、レベルとか、3Sとか。溶岩でも溶けない魔剣のぶち折り方とかも!鍛冶ギルドに知り合い作って、勝手に炉にぶち込むとか。我ながら名案だ。素晴らしい。
朝食はパンとサラダとコーヒーセット。どれも美味しくて、日本の純喫茶にも引けを取らない。香りも素晴らしく楽しみながら、後ろに控える侍女に満足目線を送った。「どれもお高いんでしょう?」と。
「痛み入ります。主人様もさぞお喜びになるかと」リアル痛み入りが来た。踊る程ではないけど。
「シュレネーさんはとてもグルメのようですね。何処かの地方で米とか手に入れられたりしませんかね?」
「コメ?ですか。私如きでは聞き及びません。申し訳ありません」深々と頭を下げる侍女。「いやいやいいですよ。私の死んだ友人が昔に食べていたもので、あるのかな?とちょっとした疑問です」
存在の有無だけの確認だったが、知らない事が不服そうで。聞いた相手が不味かったかな。
「話は変わりますが、侍女さんは何か武芸を習得していたりしますか?あまりに身の熟しが洗練されているなと感じまして」
「多くの侍女や執事に携わる従者であれば、大抵護身術や武術系を最低1つは習得しております。世が世ですので女の身では何かと・・・」成るほど。うっかり触らなくて良かったぁ・・・
「やはりですか。この後お時間あるようなら、一手手合わせ願えませんかね?私の武は我流の物が多くて。盗賊相手でも1対なら問題ないのですが、集団戦とかは不得手。これまで試す機会もないままにここまで来てしまって」集団を地獄送りにした俺が言う。
「それでしたら、にぃさ・・・。失礼、兄上のゲップスにお相手をさせましょう」おぉ兄妹でしたか。
「兄は脚を痛めて王国騎士を下り、傭兵くずれと為りましたが然り剣術槍術の流派は正当です故」
「それは是非にもお願いしたい。シュレネーさんたちはいつ頃お戻りで?」冒険者になる前に型くらいは整えないと。流石にアクション映画の受け売りだとかでは笑われてしまう。
「帰着の予定は夕刻のご予定で御座います」
「私も丁度、いろいろ町中を巡り歩こうと考えていましたので良かった良かった」
軽く身支度をし、道具袋の中身のほとんどを預けて出掛けた。ほぼ受け取った紹介状だけしか入っていないので何とも身軽。足取りも軽く町中へと出た。