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第2章 第23話 ブラインズ・レポート/魂の双子

 「諸君、集まって貰ったのは他でもない。明日からの修行を慣行する上で、幾つかの注意事項を伝える為だ」

 全員が一同に介した居間で、師匠が静かに語り出す。かなり狭いっす。

 中央上座席に師匠が座り、後ろにセラスさんが立って見守っている。秘書?

 師匠から見て左手に俺、クレネ、ウィート、茜。ゴラちゃん・・・。ゲップスが難しい顔をして腕組みをしているな。南の故郷の事を考えているのだろう。

 右手にグリエール、以下5名・・・。嘘です。ガレー君、ユード、アーレン、メデス、ダリエが末席でガレー君を睨み倒してる。みんな解ってるから、落ち着け。

 口は挟まず、師匠の話を聞こう。今後を左右する重要なお話だ。

 「まず魔王の強さ。皆が居ない間に各地を巡り、調査した結果を言おう」

 一番と言っていい、疑問点。

 「順位付けするなら、前代と変わらない。今回でもペルチェが一番。且つ周辺のダンジョンから、怠惰に抵抗力のある魔物を連れ出し防衛力を増している」

 おいおい、冗談キツいなぁ。

 「二番。ランバルも守りに入り、こちらもダンジョンから選抜して喰らっている。暴食でありながら摂食した上でな。放置すればどうなるかは解るな」

 ダイエットでもしているのか・・・。後回しは出来ない。

 「ツヨシ君の心配の種。シーパス以下一般の村人。あの時の8名に記憶を与えておいた。説得は不要だが、逃げ場所が無いので確保してあげなさい」

 助かります!待ってろシーパス。我が心の友よ。

 「ゴライアイス君。彼女は最初から記憶を持たせてある。しかし記憶があるのを善い事に、人間と仲良くするばかりで、少々弛んでいたので以下配下20名と共に、死の寸前まで八つ裂きにしておいたので安心してくれ給え」

 何処が安心だよ!!ゴラちゃん、魔王を解除しに行くからね。早く会いたいなぁ。

 セラスさんが、師匠の肩をトントンと叩き何かを耳打ちしている。秘書だな。

 「?ふむふむ。ん?。喜べ三番の魔王は死んだらしい」

 「ハァアアア???」これには流石に声を上げてしまった。

 「落ち着き給え。ゴライアイス君が自力で他に魔王を擦り付け、貸与しておいた魔剣で討伐を果たしたそうだ。経緯は不明だが。倒し方が不味かったようで、エルド師に説教を預かっているらしい。彼女に預けておけば問題は無い」

 「母様・・・」

 良かったー。お説教って何?

 「これから戦って貰う、二番カリシウム。こちらは私が調教を重ねておいたので前代の比ではない。更に配下の召喚の許可も出しておいたので思う存分戦って貰いたい」

 余計じゃない?それ絶対余計な事ですよね?その強さを知る人たちが青ざめる。

 「余計な事ではない。各地の魔王はこちらに合わせてそれぞれ強さを増している。代を重ねる程に。ツヨシ君が転移初期に、生存する皆と力を合わせ、魔神まで辿り着いてくれれば、ここまでの事態にはならなかったであろうな」

 「・・・」俺の、せいか・・・。

 「しかしだ。見方を変えればこれ以上に無い絶好期とも言える。魔王はセラスが神命を賭して魔神から力を削ぎ落とした分離体。個々の魔王の力が強ければ強い程に、それを倒し切れば魔神の力がそれだけ弱まる。それが、魔神と魔王の関係性だ」

 そんな絡繰りがあったのか。女神が魔王を倒せと言った意味が漸く解った。

 「ここで一つ、疑問が湧くだろう。どうして、私が魔剣を使って倒さなかったのか。理由はとても簡単だ。そうしてしまうと、私は魔王にも神にもなれる存在となるからだ。これは私の我が儘でもある。私は女神と、セラスと共に人として生きる道を選んだ。批判したければすると良い」

 誰も否定出来る訳ないじゃん。ゴラちゃんが魔王だったってのも含まれているし。

 「念の為。私とセラスはペルチェを倒す頃にアワーグラッセルへと退避する。あの場所は謂わば中立区域。7つ目が確定した後に戻る積もりだ。セラスの真名がもしも戻されれば多少の女神の力も戻るだろうが、そちらは期待するな」

 「今の私は普通の人間です。賢人の加護を受け、寿命は延びてはいますが。身体的には何の力もありません。狭間に退避する分しか残しておりません」

 「何分、異界のツヨシ君が命運を握っている。異界への道は全て閉ざされた。干渉の余地はない。彼が気付いてくれるか。そしてクレネの真名を戻さずに居てくれるか。全ては彼次第」

 「あちらにも神は居ます」

 居るの!?マジかぁ。次元の違う話なのでどうでもいいと言えばどうでもいい。

 「私が女神の真の力と存在を保持していれば、お願いをする事も出来ました。あちらは元々が私よりも遙かに上位存在。禁忌を侵した私の言葉など届けられるはずもなく・・・。後に戻ったアカネさんに託す手もありましたが、あれ以上の干渉は重罪と判定され、私は即刻消滅していたでしょう。今生きていられるのは、ここまでは許されたと言う証。これ以上は」

 危ない橋を渡ったのは、何も俺たちだけじゃないって事だよな。

 「概要は概ね解って貰えたと思う。これからが本題だ。修行の内容について。強力な技は封印しろ。条件を満たさねば今は使えぬ技も多々あるだろう。レクイエムとブレイバーは使わざる終えないが、特にツヨシ君のテレポートとグラビティには注意するんだ。世にある技や術や法。一度でも誰かが具現化してしまえば、世界がそれらを認識し、世界の理の中へと組み込んでしまう。ペルディア王都での大砲が良い例だ。世界は火薬を手に入れてしまった」

 「それも、俺の性なんだな。余計な開発をしてしまったが為に」

 「残念だがその通りだ。幸いにして今現在は、開発された時間軸よりも早い。南の決着を優先した方が良いだろう。人間同士の戦争を遅らせれば後手に回る。必ず阻止の方向で動かなければ水の泡だ」

 「阻止か・・・」ゲップスが呟いた。阻止した後も重要だもんな。

 存命の祖父さん続投ってのが、落とし所だと思うが。王子と王女の意見次第。

 「今言ったように、今後は余程追い込まれた状況でない限り。過剰な使用は控えるようにして欲しい。頭に描き直ぐにでも使えるように、各自で準備を怠らなければそれでいい。ツヨシ君、テレポートだけは封印したほうが良いかも知れん」

 「・・・と言いますと?」

 「もしも魔神が、その力を手にしてみろ。最早、神ですら止められない」

 封印しよう。そうしよう。寧ろ除去しよう。

 「師匠。忘却で消して欲しいんですけど」

 「・・・早計な君が、別の何かを編み出さない保証は?」

 「・・・ないです。このままでお願いします」

 「懸命な判断だ」

 テレポートが使えない。単純な話、移動手段と距離が限られるのと、余計な時間が掛かる。移動手段か・・・。術以外で他の方法を考えないと。いざと言う時の班分けも。

 「他の?私の翼じゃ一人が限界よ。剛か女子限定で。ダリエ君なら特別に許可してもいいけどその他の男は・・・、走って。あと、グリエールちゃんは吐かないこと!」

 「はい・・・。今の私は乗り物酔いが・・・」

 「ゴラちゃんでも、女子2人くらいまでだろ。先行隊編成で、男は走るか馬車か。うーん」

 これ以上は、都度状況と相談で。

 「女神の力が後少しあれば、皆さんに飛行を付与も可能でしたが」

 無理すんなって。切羽詰まったら、ポーションで持久走も出来るし。極力控えたいけど。

 「話を戻すけど。何で6と7は未確定なの?」茜君。良い質問だ。

 「魔神の封印との同時並行でしたので、一度に使える力に限度があり。5つの魔石を造り出す事しか出来ませんでした。後追いで、異界のツヨシさんの持ってきた7つの大罪思想を利用し世界に撒きました。引き剥げなかった魔神の怒りを憤怒と定義した上で」

 どうりで魔王の数が合わない訳だ。

 「あれでしょ。憤怒、傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰。で、これは?」

 茜が指差す先は・・・、俺?なんで?

 「強欲」

 「「「あ!」」」俺と師匠と女神さんの驚いた声。正しいビックリマークの使い方。

 俺自身すっかり忘れてたぜ。自分の事なのに。

 「魔王にはなるなよ」

 アダントの言葉が脳裏に浮かぶ。他にも何か重要な事を・・・。

 「今の話は一先ず置こう。強欲に関しては、要は発現させて拗らせなきゃいいって話だし。それよりも女神様。アダントと俺が分離してたのはなんで?」

 「忘れてしまったのですか?あなたは魔王ブシファーに転移する代わりに、記憶を消してくれと私に条件を出したのですよ」

 おぉそうでした、そうでした。今検索に掛かりましたさ。いやぁ忘れるもんだねぇ。

 「こんな事もあろうかと、記憶だけ擬態化させておいて正解でした。それに加えて交換条件として、あんな事まで」

 ん?待てよ・・・。その先は、非常に、危険な香りが。

 「女神様のお胸を、腰砕けになるまで、それはじっくりとお揉みになったそうですよ」

 ウィート君。なぜここで真実を包み隠さずバラしてしまうんだ・・・。

 「・・・ツヨシ君。今の話は?」

 「つい。試してみたく、なりまして・・・」

 師匠が深呼吸を繰り返している。これは、途轍もなくヤバい。

 「あなた、些細な冗談ですよ。胸を揉まれた如きでは私は怒りませんよ」

 その額の青筋は、なんでしょうね・・・。御夫婦揃って。

 「ぼ、僕も。宜しいでしょうか?」最年少チャレンジャーが、お手々を挙げている!

 止めるんだ!早まるな!死にたいのか!!何時もの空気読める子は何処へ旅に出た!

 残りの男衆が全員目を逸らしている。

 「嫁を4人も迎えておいて」クレネさん?

 「男って・・・」茜さん?

 「お馬鹿さんですね」抽斗開けたのはあなたですよ!俺が悪いんだけども。

 「前代で初めて、そのお話を聞いた時。なぜあそこまでの怒りが湧いたのか。たった今解りました」

 冷徹な笑顔で笑っておられます。左手を聖剣の柄に掛けて・・・。

 「各々想いはあるだろう。この続きはまたにする。君とダリエ君には、前代以上の地獄を見せてあげよう。あれがまだ微温湯だったと思える程度にな。それで、許してやって欲しい」

 それ絶対私情含んでますよね。

 冗談では語れない、勇者の事もある。この腐った根性、今一度矯正して貰おう。

 「謹んで、お受けします」

 師匠に深々とお辞儀でお返しした。

 「ブラインさん。じ、地獄って何ですか・・・」

 手遅れだ、少年よ。共に、地獄の針山を素足で歩もうぞ。

 「解散する前に、後一つだけ聞かせて下さい。女神様」

 「何でしょう。答えられる事であれば」

 「この世界で、死者蘇生は。可能なんですか?」

 「結論から言えば出来ません。神の力を以てしても。出来るのは転移転生まで。輪廻の考え方にも通ずる物です。異界のツヨシさんなら、或はその道の先に至れたのかも知れません。けれど。その道は途絶えました」

 「そう、ですか・・・。そりゃそうですよね」

 「剛。これ以上、この世界を捻じ曲げないで。それは、余りにも無責任。みんな、この世界に生きてる。あんただけの物じゃないんだよ」

 茜に釘を刺された。

 「しないよ。出来るチャンスがあったとしても。それ位は、馬鹿な俺でも解るさ」

 この世界は、この世界に住む人や全ての生物の物。

 しっかりと胸と頭に焼き付け。その日は解散となった。


--〇-、--


 今日だけは我が儘を言った。ガレースとも居たくはなかった。

 ウィートに一緒に居てくれないかと頼むと。

 「喜んで。グリー」

 優しい微笑み。可愛らしい笑顔。私もこんな風に笑えたら。記憶を取り戻してからは、無理だった。心に、抜けない棘が刺さったままで。

 歳の頃も同じ。目鼻立ちも私とそっくり。同じ黒髪。違うのは私が肩口までの直毛。

 彼女が多少癖のある短め。

 似ているのに何処か違う。生まれ?確かに彼女の素性は南国の正統なお姫様。私は何処にでも居る農夫の娘。聞けば彼女も辛い過去を持つ。両親に愛されていた私とは違う。

 御祖父様の死霊と戦った事もあったな。

 あの時、私は躊躇っていた。死霊化した魔王とは言え、親友のお爺様を討つなんてと。

 スケカン殿は見透かし、私に下がれと言った。

 肩の荷が下りた気がした。任された責任を。私がやるべき仕事を、彼に押し付けた。

 初代の時に。最初から彼が私の手を取っていてくれたなら。

 私が彼を見つけていたなら。運命はどれ程変わっていただろう。

 彼女はそんな事を考える私を、ただ黙って抱き締めてくれた。

 自然と涙が溢れた。背中を温かい優しい手で撫でられる。

 暫くして落着くと、彼女は耳元で囁いた。

 「ツヨシ様が、憎いですか?」

 「憎い?よく、解らないの。憎さ、よりも。悔しい、かな」

 「悔しい?どの様な?」

 「弱い私が、どうしようもなく。悔しいの」

 「そう・・・」

 「もっと強くなりたい。守りたい人を守れるように。救いたい人を救えるように。もっと」

 「うん。私もですよ」

 抱き合ったまま語り合う。もっと温もりが欲しいと腕を強く回した。彼女もそれに答えてくれる。

 「前代でずっと疑問だった事が一つあるの」

 「何ですか?」

 「魔剣。エクスキューショナーを自分が持てた理由。ゴラ様が居たからじゃない。ウィートが駄目なのに、私が持てた理由が。とても疑問だった」

 「・・・」

 「必ず。そこに必ず何かの理由がある。魔剣と、深く関わったような」

 それが初代での出来事だったとは、夢にも思わなかった。

 彼女の手は変わらず、私の背中を摩ってくれた。そんな彼女に甘えてしまう。

 「卑怯な事を言ってもいい?」

 「どうしたの?」

 「私は、スケカン殿が・・・。ツヨシさんが好きです。たぶん、初代で一目見たあの瞬間から」

 「うん。知っていました」

 「でも。今はガレースを愛しているの。何よりも、私を一番に考えてくれる。ずっと前から、私の欲しかった物を全部くれる」

 「うん」

 「ガレースは優しい。とても優しい。私には勿体ないくらいに」

 「そんな事はないですよ」

 「でも。時々物足りない。もっと。もっと我が儘を言って欲しい。もっと私を求めて欲しい」

 「そうですね。押しが足りませんね。殿方ならもっと、ガツンと言って欲しいですよね」

 やっと私も笑えるようになった。棘が抜けた。

 ベッドに入り、また抱き合う。恋人同士のように。彼女の体温が心地良い。

 特別な感情は沸かない。これが当たり前であるかのよう。

 彼女の顔が目の前にある。唇が触れても不思議はない距離。どちらでもなく唇を重ねた。

 とても不思議な感覚。友情でも愛情でもない。揺らめきのような。淡い感覚。

 「不思議ですね」彼女も同じ感覚なのが嬉しい。ニッコリと笑う彼女に

 ニッコリと笑う彼女に、私も自然と笑い返した。

 「うん。私も」

 「ずっとこうして居たかったような。ずっと前から、こうであったかのような」

 「不思議と言えば」

 「うん」

 「今世では。今の私は左利きになっているの」

 「私は、右利きのままです」

 これにもきっと、意味があるに違いない。

 重ねた毛布の中で、左手と彼女の右手の指を絡め合う。

 私は額を彼女の柔らかな胸に預け、深い眠りに落ちた。

 ウィートの穏やかな心の音を感じながら。

 「特別ですよ。次は、代わって下さい。グリー」

唐突な回答編でした。回答率は6割といった所。


意味はちゃんとあります。


どうして勇者さんと侍女さんが同じ事を主人公に言ったのか。

どうして一度、胸に刻んだはずの言葉を主人公が

まるで初めての事かのように繰り返しているのか。


時を身体と記憶を持ったまま転送させて越えるには

それなりの代償が必要です。

それが記憶の欠損です。探してみても面白いかも知れませんね。

欠損自体は、一つを除いて大した事ではありません。

溢れ落ちた記憶は、仲間のみんながフォローしてくれています。


それを知る女神は何も言いません。心配はしていないから。

彼はもう独りぼっちではないのだから。


それらを散りばめたお話です。


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