第2章 第20話 リメンバー
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「が、我慢じゃ・・・」
4人の幸せオーラが流れ込み始めた。楽しそうにしおって。
どれ程待っただろう。ざっと4百年は経過した気がする。
時々冬眠してみたり、心を無にして瞑想に耽ってみたり。
時々賢人の里の上空を通り過ぎ、エルドとバチバチやってみたり。
配下の20人と怒突き合いしてみたり。
前代のように、魔神に呼ばれて魔石を植え付けられたり。どう言う訳か、今回は声すら聞こえなかった。強大な存在は変わらず感じたが・・・。
地上の魔王は5体。それも変わらず。確定出来るのは5体までで、6つ以降は未確定部なのだと解った。
魔王に成るのは回避出来たのではじゃと?そこはホレ、余りに前代と流れを変えてしまうと出会える人間との流れが変わってしまうと困るしの。
特にツヨシが現れるまでは変えたくはなかった。他にも懸念があったりと。
クレネに子が宿ったじゃと・・・。私よりも早いとは!
一度掴んだ者は絶対に離さない。賢人の執念のような物を感じる。
待っておれ。直ぐに私も・・・。すぐに・・・。
「早く!早く、来てたもれ!ツヨシ・・・」
尻尾をバンバンと床に打ち付ける。イライラ感が身体を支配する。
暴れたい。会いたい。抱き締めて欲しい。蟹のお鍋食べてみたい。
「落着いて下さい、姫様。折角造った魔城が崩壊してしまいます」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!これでも我慢しておるのじゃ」
「いったい何を?時々口にする、ツヨシとやらが関係しておいでで?」
「グォォォ。その名を私に聞かせるな!」
「ご自分で・・・。いえ、何でもありません」
人間の姿に擬態する。幾分落着いた。落着いたと言い聞かせ、胸に手を当てる。
当然裸ん坊である。特に恥ずかしさは感じない。周りに人間が居る訳ではないからな。
「ゴラちゃん。頼むから。その姿で外を出歩く時は、何か服を着てくれ」
人間の着替えは面倒じゃ。何時もツヨシが居れば、BOXから出してくれる。
あの時のウェ何たらのドレスとパー何たらのドレスは綺麗だった。
胸の奥に埋め込まれた魔石が邪魔くさい。こんな物がなければ、今直ぐにでもツヨシたちの下へと飛んで行けるのに。飛んで、行けるのに・・・?
ふと床を見る。そこには黒い、2本目の魔剣が突き立っていた。朱色の鞘に収まって。
ここにアカネの魂は宿ってはおらん。今はツヨシと共に居るのだから何ら不思議はない。
しかし気に入らない。どうして自分だけが我慢せねばならぬ。
魔剣は私が魔王となってから数年後に、賢人のブラインがふらりと魔城に現れて置いて行った物。事の序でと。
「序でと言っては何だが、この私が少しばかり稽古を付けてやろう。我ら賢人の恐ろしさを、その身に刻むと良かろう」
頼んでもいない。エルフの恐ろしさは知っておる。何度やってもエルドには適わなかった。
何を言っても聞いては貰えず、我ら21名は瀕死の重傷を負わされた。
賢人よりも、ブラインの存在が怖い!
この魔石さえ無ければ・・・。ある考えが頭に浮かんだ。
ツヨシは無事に現れた。当時の仲間たちはほぼ集結している。我が子が居ないのは至極無念だが、今後の未来に託そう。
もう、良いのではなかろうか。私の魔王としての役目も、終わりなのでは?
魔剣を手に取り、鞘から剣を引き抜いた。
黒い刀身を逆手に持ち、そのまま胸へズブリと。
「い、痛い!然りとて、陣痛よりは遙かに柔いわっ!」
「な!!!姫様!その様な事をしても、直ぐに再生が・・・」
超再生とは言え、深手にはそれなりの時間が掛かる。その僅かな隙に。
胸に開けた傷口に手を突っ込んで、魔王の源を掴み握った。
「よっ、よいっしょぉぉぉーーー」
勢いじゃ。夥しい鮮血が釣られて飛び出す。虫が湧き出るのも困る故、即座に火を吐き出して傷口と共に全身と床を焼き焦がした。
手にした魔石は手放せない。心臓の鼓動みたくドクンドクンと波振打つ。
離れた魔石が何処へ向かうのかが解らない。私の身体へ戻ろうとするのか、将又別の場所を目指すのか。
この大陸には、強大な存在が3つ。私、賢人の里のエルド、それともう一体。
大陸東部の奥地には、人間が竜の谷と称する巨大な穴が在る。
底が見えぬ程の広い縦穴。天然のダンジョン。人間の愚かな冒険者が何人も降りては、大半を失ってはまた挑む。宝石原石やら鉱石やらを持ち帰らせて、新たな餌を連れて来る撒餌にされているとも気付かずに。
竜の谷の主が3つ目。いったい誰が付けたか、地竜王、ガルバトゥスが名を冠する。
元より魔王の候補者だったのじゃろう。大人しく、地の底で狩られるのを待っておれ。
「よし!東だな!」
向かう先が北でなければそれで良し。東の奴に押し付ける。
ズルリと抜け落ちた魔石が宙に浮く。東の方向へ進路を向けた。
「東・・・。あれらに魔石を渡すのですか?」
そのままガルバに喰わせるのも癪。魔王として増強させるのも後々に厄介極まりない。
「我が手の魔剣よ。あの魔石を削ぎ倒せ!サウザントライツ・エグゾーラ」
グリエールが放った空刃の模倣。
放たれた刃は、飛び立とうしていた魔石の端を捕らえた。石の4分の1を割り落とす。
上出来上出来。残りの芯が飛んで行くのを見送った。
地に落ちた分の魔石も使っておこう。拾い集めて。
「クリエイション・ドレスアーマー・紅!」
天に掲げての一唱一喝。この身を包めるだけの鎧兼衣服を作成した。
魔王の魔石が基ならば、同等の魔王以上でなければ破壊されはしない。深紅に映える艶やかな光沢が眩しい。ツヨシは褒めてくれるかのぉ。妄想するだけで心が躍る。
回復、斬撃、鎧作成。魔力の損失は、ここまでで半分程度。これなら休まずとも北の大陸へと飛べる。
前代のあの時。クレネが消滅を選んだあの時。私は、一方の魔剣の中に居た。
クレネは女神に提示された2つの選択に迫られた。
死して過去からやり直す道。
私を喰らって生き延びる道。私は告げた。
「未来を託せるだけの子は設けた。再び抱けぬのは心残りじゃが。それでお主が生き残れるのなら構わぬ。私を喰らうがよいぞ」
直ぐにクレネは小さく首を振り、前者を選んだ。
早く行こう。今直ぐ行くぞ、ツヨシたちの・・・。
ズンッと強力な振動の波が、地の底から伝わって来た。地震?ではない。
ガルバトゥスが、魔王となったのだ。この私の身代わりとなって。
「姫様・・・。新たな魔王が」
恐怖からか、配下の者共が小刻みに震えていた。
「解っておる」
地竜は竜族から太古に分岐した劣化亜種であり、巨体を運べる程の翼は持たない。地を這うだけの蜥蜴。
狡賢いが、知能は然程高くはない。その凶暴性は我らの上。単純な力だけなら我らが劣る。
魔石を擦り付けた責任は取らねばならぬな。
ガルバトゥス他地竜が地上へと這い出せば、森だけでなく人間の国、我らの集落、大陸全土が食い尽くされてしまう。
今更ながら、我が身の早計を後悔した。
「誰に似たのじゃろうのぉ」一人しか居らぬがな。
鎧の隙間から黒き羽根を出し、北ではなく、東に向かって羽根を広げた。
「姫様!まさか、お一人で?」
「来るのかえ?怖くて震えておるのじゃろ。無理をせずとも私1人で」
「何を言いまするか、姫様。強き者が居るのに、心躍らぬ竜族は居りませぬぞ」
「そうじゃったな。忘れておったわ。・・・死ぬでないぞ。生きて、人間と交われ。無理矢理にではないぞ。望まれた相手とな。その先にこそ、我らの未来は在るのじゃ」
「承知、しました。人間をこよなく愛でる姫様の姿を見ていて。そこに気付かぬ程の低脳ではありませんとも」
20人の雄が一斉に翼を開いて天に向かう。
私が知る人間の文化も、教えてやらんとのぉ・・・。
呑気に構えてられる状況でもないのじゃが。
私も羽根を伸ばし、天に舞い躍り出て彼らの後を追った。
マスフランゼル大陸。東端、ブライン師匠の小屋。
こちらは先行して来ているので、勇者の到着は数日後の見込み。
それまでに師匠と仲良くならなくてはと、何かと思案しながら訪問したが、それは杞憂に終わった。
相変わらずの綺麗な菜園。
大陸東部はもう直ぐ短い夏を迎える。その為の準備もされている。
畑と共に小屋は以前見た時よりも一回り大きく、離れも2つに増えていた。
「クレネ、ここには?」
「一度だけ。姉の回収の手伝いをお願いしに。以来は訪ねないようにしていた。当時は家もこんなにも大きくはなかったのに・・・」
奥さんとの最後の時間を邪魔しない為か。その時に生きていたとしたら。気を遣ったんだね、偉いぞクレネ。撫で撫でしようかと思い、手を伸ばした時。
母屋側の玄関から、懐かしき師匠が農具を持って出て来た。
「待ちくたびれたぞ、ツヨシ君。クレネ、その他も」
「その他って」茜が笑っていた。
「お会いするのは初めてのはずですが」ウィートの疑問は尤も。
「誰だ?このイケメン。俺より王様っぽいぞ」
「何方ですか?こちらの大陸に渡ったのも僕、初めてなんですけど・・・」
後続の2人が知る訳は無い。俺の名を知っているほうが問題だ。
「師匠・・・。すでに記憶が?」
「この身体で会うのは久しいな。2人以外は初めてで合っている。その様な些細は、気にしない事だ。記憶が無くては君の名を知る訳が無いだろう。解り切った事を聞くな」
あぁ、師匠。俺、泣きそうっす。抱き着いちゃおうかなぁ。
「男色の気はないので止めて貰おう。人の身には外は寒かろう。中で妻が茶を入れてくれる。さぁ遠慮せずに入れ」
「生きて、るんですか?奥さん」
「死ぬのが解っていて、止めぬ阿呆が居るものか」
軽く笑いながら、手を振り家の中へと招いてくれた。
渡り廊下を歩き、居間へと入った。立派な暖炉が端にあり、外の寒さも何の其の。隙間風すら入らない頑丈な造り。松ヤニ塗りの裸木材の香りが尊いな。
里の和風造りの家屋を思い出す。
「妻のセラスだ」
席に座り、台所から人数分の茶を盆に乗せて現れたのは・・・。
「ほぼ、初めまして。皆様方」
「め、女神・・・さま?」驚いて居るのは俺だけ。
「へぇ、あれが女神ちゃんの素顔?めっちゃ普通に可愛いじゃん」
茜君。今は口を閉じてくれ。
「光栄です。不細工と罵られたら泣いてしまいそうでした」
「貴方様が、女神様のご本体なのですね」
ウィート含め、男2人は驚きつつ黙っている。空気読んでくれて助かる。
クレネだけは浮かない表情で俯いていた。
「みんなの前に出てた時は、私の身体使ってたからね。私も本体に会うのは久し振り。何で剛にだけ素顔晒してたのかと思ったら」
「こうなる事まで予想の範疇だったのか?女神様」
「想定していただけです。私でさえ、過去に舞い戻るとまでは」
セラスも着席した所で、師匠が静かに切り出した。
「長い話になる。その前に、クレネ。懐妊おめでとう。私たちも頑張ってみたのだがね。実りは叶わなかった」
「嫌ですよ、もう。皆さんが居る前で」
イチャイチャと。全く話が進まない。この世で最も怒らせてはいけない人たちなので、黙って見守るしかないんですがね。
「おじさん。女神様。今一度、お聞きします」
クレネが決意を固めた顔で、2人に向かう。
「何だね?」
「あの選択が正しかったかは別として、本当にあれしか無かったのですか?」
「前代の最期の時ですね。私は、選択として与えたに過ぎません。この選択をしたのはあなたですよ。後悔、しているのですか?」
「いいえ。こうしてツヨシや皆と再び出会えました。後悔ではありません」
「何からお話しましょうか。そうですね、あれから話しましょう」
死の間際、クレネに突付けられた選択肢が2つ。
「己の事だけを考えれば。その選択肢を選べば、確かに生きられた。それでは彼とゴラの子供たちから愛する者と、大切な母を奪ってしまう。私自身、同じ人を愛する友輩として。友を喰ってまであの先で心の底から笑えるだろうかと考え、この道を選びました」
そんな遣り取りがあったとは知らず、俺は呑気に海で遊んでいたのか。
選択肢でありながら、完全に一択しかない。
「クレネ・・・」言うべき言葉が見つからない。そっと彼女の手を握った。その上にウィートと茜の手も添えられる。
「私たちも、他の皆様も。その場に居ました。居なかったのは兄様とツヨシ様だけ。責めているのではありません。それが事実であったからこそお伝えします」
「私は鞘に戻されてたけどね!」
普段なら笑えるのに。
「僕も?僕は、居なかったですよね?」
「いいえ。ダリエ君も居ましたよ」
「・・・」知る訳ない。記憶が無いのだから。
「ややこしいな。ダリエ君、ゲルトロフ君。私の目を見なさい」
話に付いて来れない2人の男の視線を師匠が奪った。
「はい?」
「あんたまで、俺の・・・」
2人とも視線を合わせただけで朦朧とした。忘却でも与えるのだろうか。本家が見られるぞ。
「前代の全てを思い出せ!リ・メンバー」
そっち?どっち?それ、何ですか!師匠が遠い。一生追い付けそうにない。
2人の正気が戻り、驚きの表情で互いに顔を見合わせる。
「「初めまして・・・」」そこだけは初対面だもんな。
「まさか・・・。魔王ランバルが裏で・・・。ウィート、すまなかった。不甲斐ない兄を許せ」
「二度と私に兄様を、殺させないで下さいまし」
「約束する。家族の事は・・・。スケカン。時が来たら手を借りるぞ」
「最初から言ってるだろ。遠慮すんなよ、お兄さん」
「グッ・・・。これはもう認めるしかないのか・・・」
1人で頭を抱えて席を立ってウロウロと徘徊を始めた。そっとしておこう。
「・・・スケカンさん・・・」
「なに?」
「あなたはまた、僕の邪魔をしましたね。どうして・・・」
「す、すまん。新たな恋でも」
「嫌です!僕は何度だってグリエール様を諦めません。打倒ガレストイ様です!僕は目指しますよ。勇者様の第1夫の座を」
「だ、だい、なんて?」
「スケカンさんだけ多妻が認められて、グリエール様が認められない道理はありません!あの後も、何度も何度もグリエール様に第2でいいからとお願いしたのに・・・」
「こ、とわられたんだな」
「今回は前よりも早い。挽回とお許しのチャンスはあると信じます!頑張ります!」
「ポジティブ~。グリエールちゃん並ねぇ」
その心意気。曲がり無き直球の愛。感服です。
「そろそろ話を戻したいが。良いかね」
「はい!」切替えの早さも一級品。
「ああ。俺には解らない話だが。聞かせて貰おう。足手纏いで済まない」
2人が落着きを取り戻した所で、追加のお茶を注がれた。
「他の選択肢は無かったのかの問いでしたね。それを今更聞いてどうしようと?」
「どうしようもないですし、今更変えようとも考えてはいません」
「本当は、もう少し後でお話をすべきと思っていましたが・・・。仕方がありませんね」
あの話をするのか。
「クレネさん。あなたには今とは別の真名が有ったのはご存じで?」
「私の真名?知りません。母様からも何も聞いては」
「現在で、その名の本来の形を知るのは私と母エルドのみ。彼女が何も触れないのは、何かに気が付いたからでしょう。含めて沈黙を守っています。私は別の理由から。聞いても、後悔はしませんね?」
「はい」
クレネが俺たちの手を両手で包み込んで返す。
「私は元々は天空神として生まれました。地上に憧れ、他の神々が造り上げた異界に憧れ。地神の許しを得て、大地に降り立ち今日に至ります。私は新たな世界を造り出し、地上の人々の可能性を信じ、成長と成熟を促す為にある人の魂を異界から呼び寄せます。クレネさんのお腹に宿る子がその魂。
色々と世界の流れに変化を齎せてくれたその子に何か褒美を与えようとします。許し聞いてしまったからには叶えぬ訳には行かず、禁忌を侵し彼女の願いを叶えます。彼女が真に望んだ願い。それが、後に魔神を生み出す切っ掛けとなったツヨシさんの片割れ。彼女の異界での兄だった者の魂を呼び寄せる事に他なりません。対抗手段として異界で分割した側の貴方の魂も呼び寄せます。更にアスモーデの魂まで呼び付け、3度目の禁忌となりました」
セラスは一口茶を飲んで間を開けた。
「禁忌を複数侵した神がどうなるか。簡単な言葉で挙げるなら、神降ろし。通常の手順で神が役を降りる時。次代の神を候補者の中から任意に選出出来ます。私の場合は違います。選定権を禁忌破りで失い、私の次代は有力候補の中より地神が推薦し、他の神々が決定します。その最有力候補が、クレネさんです」
「私が・・・。次代の女神・・・。それは」
「何故かとの問いには答えられません。正統であれば本人の意志も反映されますが、強制では本人の意志は無視されます。選定されればそれまで」
「クレネ。私が幼少期以降。君の強くなりたいと言う願いを一切聞かなかったのはその為。君を次代の候補から外す為だ」
「貴方から真名を奪ったのは、元の世界へと帰ってしまったツヨシさんです。時の狭間。アワーグラッセルには、今はもう誰も居ません。彼に改名を戻すなとも伝えられません。今日、今、明日、未来。いつの日か突然に。彼がうっかりと改名を戻した時。真名に依って本来の力を、母エルドをも越える力を取り戻した時。貴方は、次代に任命されるでしょう」
うっかりか。片割れのあいつが・・・、やらないとは断言出来ないな。
「ツヨシ君。君にも同じ事が出来る。こちらの世界では、最初に付けられた名前が非常に重要でその者の生涯を決めると言って過言ではないのだよ。気を付け給え。安易に改名しようなどと思わぬ事。その子の名も、よくよく考えて付けてあげなさい」
「はい。肝に銘じて」
これまで何度となく、興味本位で変更してみようと思った事が多々ある。自分の名前以外では実行した事はないので助かっていただけ。
「私自身も改名され、神の力を失い。単独では魔神に対抗出来なくなりました。勇者を生み出し、魔神の力を少しでも削ぎ落とせる魔王を各地に配置し、勇者を育ててくれる貴方方を集めました」
「私たちだけじゃ、魔神を倒せなかったってワケ?」
「・・・その機会を何度となく与えたのに、悉くを反転させたのは・・・」
「・・・面目、ありません・・・」
全員の目が突き刺さって痛いです。
「私が封印し、彼のツヨシさんが抑え続けていた魔神が野に放たれるのも時間の問題。対抗為得るのは、女神の力か勇者か異端のツヨシさんか。魔神の力は強大です。そちらも彼が生み出した者でありながら、私が彼から邪悪な部分だけを引き剥がした者。純粋な破壊の衝動。人間に対する強い憎しみ。その塊。神を冠しながら神でなく。地神を凌駕する程の存在」
「こちらが成長しようとしまいと。対抗の手段が有ろうと無かろうと。魔神は時が来れば自力で封印を解くであろう」
「時間が無いのはお解り頂けましたね?・・・と急いて失敗も出来ません」
やり直しは、二度と出来ない。
「クレネの他の候補者って?」茜が痛い所を責める。
「例えばウィートさん。しかし貴方は自分自身に寡欲を掛けてまで拒絶し、その道を降りた。勇者である事も加味すれば充分な条件だったのです」
「自分、で・・・」
「例えばアカネさん。異端であり異界からの訪問者。知らぬ間に地神の加護も受けた人。しかしこの私がその身体を与え、座から降ろしました」
「私?嫌だよ。神様なんて」面倒くさそうと、顔に出てるぞ。
「例えばその名も無き子。同じく異端の魂を有し、賢人と人間との純混血。どの様な判定が下されるのかは未知数です。真名が左右するかも知れませんね」
母も子も候補だなんて。迷惑以外何物でもない。引き金を引いてしまったのは俺たち兄妹であったとしても。
「現在の、最有力者は」
「ここまでのお話で。誰になっているのかお答えの必要がありますか?」
「母様・・・」
「彼女であれば問題はありません。娘の為ならば喜んで受諾してくれるでしょう。問題は危険因子が存在する事です」
「危険因子?」
「筆頭はアスモーデ。異端者であり、色欲を持つ。使い方さえ間違えなければ、彼は誰よりも何処までも強くなれたのに・・・。本来の魂は前代で消え去り、壊れてしまった現在の彼では交渉するのも困難を極めるでしょう。因みに7つ目の魔王筆頭でもあります」
協力可能な存在から、真逆の倒すべき存在にまで堕ちていたのか。特別な感情は持っていなかったが、前代ではガレー君を助けてくれたっけ。それ起因で俺自身も救われた部分もある。感謝が伝えられないのがとても残念だ。
「私は?魔王には成らないの?」
「どうしてですか?幾ら魔石を摂取したからと言っても、貴方の身体は元女神。毒される事はありません。魔神から出た魔石だけは食べないで下さいね」
「よーし。心配の種が消えたわ。バリバリ食べ・・・。でもアレ不味いんだよなぁ」
喜びながら嘆いている。どっちだよ。
「アカネ君。君には特別メニューを用意してある。楽しみにしておきなさい」
修行の片鱗を知っているだけに、見事な絶句を見せている。器用だねぇ。
「私だけが、戦ってはいけないのか・・・」
「後衛で頑張ってくれ。子供が生まれたら、子育てにも忙しくなる。勿論そっち方面も手伝うし、みんなも居る。心配無用さ」
「子育てでしたら前代でも携わりました。同じ子であればコツも掴んでします。お任せを」
「このお話の続きは、グリエールさんたちが到着してからに致しましょう。何度も同じ話をするのも手間ですし」
もっと詳しく聞きたいが、こっちだけ一方的に情報を聞いてしまうのも二度手間。
「記憶もないのに、信じて貰えるのかな」
「無理だろう。話半分も聞いては貰えまい。私が全員の記憶を起こす積もりだが、何か後ろめたい事でもあるのかね?ツヨシ君」
「有ると言えば・・・いえ、有ります。ですが、これ以上私情を挟んでも居られません。覚悟を決めて対処します。ごめんな、茜」
「だからさ、相手が違うって。ハァ・・・、剛あんた彼女を嘗めすぎよ。こっちが信じなきゃ、どうして相手が信じてくれるのよ」
「・・・」記憶を戻してしまったら、後は彼女の判断次第。俺を拒絶するか断罪するかは。
「私たちが、なんで怒ったのか。全然解ってないね」
「旦那様としては減点ですよ。ツヨシ様」
「私は、ツヨシが思っているような事にはならないと思う」
その根拠の一部でもいいから教えて下さい。馬鹿な男ですみません。
何でも人に頼ろうとするから駄目なんだ。これだけは自分で解決しないと。
「グリエール様に、何かされたのですか?」
後頭部に刺さる熱い視線。ダリエ君の目が見れない。
「今日は夕食にして場を開こう。部屋には余裕がある。私たちの寝室以外は好きに使ってくれ給え」
そりゃそうでしょうよ。念押し要らないと思いますよ、師匠。女神のお顔も真っ赤です。
俺とクレネ。ウィートと茜。その他男で部屋を分けて就寝した。
その夜。もしも何時もの癖でマップをワールド表示にしていたら。
東大陸の大きな異変にも気付いていたのかも知れない。
気付いたからって、この時点の俺たちが行った所で、何も出来なかった訳だが。
この時の俺は、グリエールの事で頭が一杯で。全く余裕が無かった。
勇者との邂逅後、彼女たちの旅は終わって居なかったと言う事も全て忘れて。
あの時だけに俺は捕われていた。
説明回です。
バトルフェイズは気長にお待ち下さい。
修行回もありますし。
竜姫も記憶を持ってやり直した1人です。
そうしないと説明ばかり増えるので。