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第2章 第14話 夢物語

 手をしっかりと握り合いながら、町へと到着したのは夕刻になってから。

 町へと連なる入門待ちの列の最後尾に並んだ。

 シュレネーさんが乗っている馬車が見える。

 「シュレネーさんの古い知り合いなのですが、これを渡して貰えますか?お久し振りですと一言添えて」

 「毒?じゃないだろうな」

 用心深いぞ、ゲップス君。またそうでなくては護衛は務まらない。

 「渡せば解ってくれると思います。商品なので、飲まないで欲しいですね」

 手付けの銀貨数枚を渡すと、掌返し。ご機嫌で右足を引きながらも馬車へと走って行った。

 それでいいのか、護衛として。

 隣の美女が魅了を使おうとしていたので、慌てて止めたのは言うまでもない。

 「どえらいべっぴんさんだなぁ。あんたの連れ」

 待ち時間の間に、護衛隊の1人と歓談した。

 「妻のクレネです。私はスケカンと申します」

 「夫婦共々よろしくな」やたら偉そうに語るクレネさん。

 それは演技ですか?素ですか?この時点では、まだティアレスと合流出来てはいないはずだけど。夜にでも確認してみよう。

 「おーい。団長がお呼びだぞ。早く入れ」

 入門待ちの列が減って行く。時間は余り無い。

 2人して天台の中へと入った。

 「お久し振りです。この身体で会うのは初めてですが」

 今回の転移を果たす前に、欠けていたアダントから魔王までの記憶が朧気に戻った。

 記憶を消してくれと願ったのが、自分だとは思いもしなかったが。まったく余計な事ばっかしやがって。俺を殴りたい。

 「妻のクレネと申します。どうか宜しく願いします」仰々しく礼をしていた。

 これは、確認するまでもない気がします!

 あの厄介なダンジョンに行かなくて済むのは有り難い。

 恰幅の良い腹を揺らしながら、震えるばかりで何も語らないシュレネーに更に追い打ちを仕掛ける。

 「サラリエさんはいつ頃他界されたのですか?5年前と言うのは嘘ですよね?」

 「名も無き聖者よ!!」

 涙腺が崩壊したおじさんに抱き着かれても、あんまり嬉しくはないな。にしても、名も無き聖者とは。名乗らなかった俺が悪いんだけどさ。

 「落ち着いて下さい。今はスケカン・ロドリゲス・ツヨシの名があります。生憎私共はこの町への入門証も、身分証も持っていません。出来ればごこのまま一緒したいのですが、構いませんか?」

 「スケカン殿。それは勿論に御座います。宿屋などには泊まらせませんよ。是非とも我が粗末な邸宅へと参りましょう。客室を用意させます。山のようにお聞きしたい事もありますが、今夜はごゆるりとお過ごし下さい」

 「私もお聞きしたい事と願い事がありますし、積もる話は明日の夕時にでも」

 初手としてウィートを仲間に引き入れるのは確定している。お願い事の一つだが。

 「今夜だけは、2人だけで過ごしたい」

 クレネ様からの熱い要望もあり、主立った行動は明日以降にした。


 シュレネー邸。趣は以前と何ら変わらない。

 懐かしく感じたのは、過去にこの場所に来たからなのだろう。

 昔の小屋の面影は微塵も欠片も無い。けれど場所はここで間違いない。

 邸内に入り、出迎えてくれたのはやはりウィート本人だった。

 前回以上の厚遇を受け、久し振りのウィートの食事を頂いた。

 「どうして、お二人とも泣いていらっしゃるのですか?何かお口に合いませんでしたでしょうか」

 思わず泣いてしまっていたのか。クレネまで。ウィートがおろおろとして困っている。

 「いや、美味しいよ。ありがとう」

 「ええ、とっても。何よりも嬉しくて、つい」

 「それでしたら、良かったです。主様からくれぐれも粗相の無いよう賜っておりますので。ご満足頂けたようで何よりで御座います」

 他人行儀なのは仕方が無い。それでも言い様のない寂しさは募る。

 隣のクレネも魅了を掛けるのを必死に我慢していた。掛けるタイミングを誤れば、不幸のループは抜けられないから。もう一度、共に旅をしたいからこそ。

 食事を終えて、軽い飲酒の火照りを散らす為、2人切りでお風呂を頂いた。

 「どうして目を逸らすの?」

 「我慢出来そうに・・・。出来ないじゃん」

 「私は構わないよ。ここでも」

 「近くに、ウィートが居るって」

 「あ・・・」

 侍女さんのお仕事って大変ですね。休む暇あるのかね。寝る時以外に。

 日常の殆どの雑務をウィートに押し付けてしまっていた。今後はそれも改善して行こう。

 背中を合せて湯船に浸かる。これだけでも充分に興奮材料。考えない・・・、考えない・・・、無理です!

 「ねぇ、ツヨシ。私たちの子供の名前、まだ決めてなかったよね」

 「あぁ、それな。幾つか候補は考えてたけど。今それを口にするのは止めよう。誰かさんの邪魔が絶対入りそうだし」

 「ツヨシの片割れ?結局私は会ってないから。ねぇ、どんな人だった?」

 「どんなって・・・。おれのようであり、おれではない。そっくりなんだけど、別人みたいな?」

 「複雑。私たちの考えで言うと、普通魂は別れないよ。ツヨシの元の世界では当たり前なの?」

 「んな訳ないじゃん。多重人格者ってのは稀に居るらしいけど。本人が分裂するなんて話は聞いた事もない」

 「だよね。私がティアレスと分離していた時だって、私はとても不安定になっていたし」

 「ティアレスの魂は回収したの?してたの?」

 「あのダンジョン。一人ではどうやっても無理だったから、ブラインおじさんに頼み込んで連れてって貰ったの」

 成る程!その手があったか。

 「それだと、ウィートに渡るはずのスキルは」

 「私が渡せば問題ないでしょ?」

 ご尤もなご意見、真にありがとう御座います。アダントのスピードスターはどうしよう。単独で潜るか、みんなで行くか。クレネには二度手間となるが、スキルは欲しい。

 「そろそろ出ようか。上せそうだし」

 「ええ」

 背中の温もりは名残惜しいが、俺好みの湯温でもクレネには熱かろう。

 湯から上がり、控えていたウィートから着替えを受け取った。

 客室前で別れる前に。

 「防音設備は整っております。ごゆっくりお寛ぎ下さい」

 何その気遣い!?凄いなお金の暴力。何処に力入れてんだか。商人には必須の設備かもだけど。客室にまで投入するとは、シュレネーさん恐るべし。

 ベッドの端に座って、美味しそうに俺の水筒で喉を潤すクレネ。ロングガウンから伸びる、組まれた素脚がとってもセクシーで・・・。

 「待った!それエリクサー入ってるって」

 「え?・・・あ、もう手遅れ?」聞かれましても答えられません!

 その夜、激しく深く、深ーーーく朝まで愛し合ったのですが。途中で燃え尽きたのは、レベルが低い俺のほうです。大事だ、レベル。明日からゴリゴリ上げ捲ろう。


 翌朝。抜け殻となった俺のステータスに、スピードスターが付与されていた。

 これは、あれか。嫌みですかね?

 目覚めのコーヒーと朝食を頂きながら、暫しの放心。

 クレネさん経由でスキル貰えたらしい。あのダンジョンに行きべき理由を失った。

 誰もいないだろうけど、修行を兼ねて行くのもいいだろう。中央大陸には未踏ダンジョンが数多くあるのだし。

 何にしろ怠惰を撃破する策は必要となる。戦えるだけのレベリングも。

 「何を考えてるの?」

 「早いとこ、レベル上げなきゃなってさ」

 「なら、早く冒険者ギルドへ行きましょう」

 「だな。ウィートネスさん。シュレネーさんに頼んでおいた紹介状は出来てる?」

 食堂の隅で控えていたウィートに声を掛けた。

 「はい。こちらに預かっております。ですが・・・」

 「ですが?」

 「冒険者になられるのでしたら、この証文を私から奪うのも容易かと存じます」

 そう言い残して、ウィートは食堂から消え去った。取れるもんなら取ってみなと。

 突然始まった鬼ごっこ。命の遣り取りでない分、気楽は気楽。

 ムッとして後を追い掛けようとしたクレネを止める。

 「いいって。今回はおれがやる。あの時だって、試されていたのはおれのほうだし。手出しは無用だよ」

 「頑張って捕まえてね。ギルド行ってから、お買い物も行きたいし。出来ればウィートと一緒がいいな」

 「了解した」

 金ならシュレネーから前金の金貨1000枚を受け取っている。これだけの金があれば、普通は危険な冒険者になろうとする者は居ない。そこをウィートに怪しまれた。

 心配性だねぇ。誰に似たんだか。このお人好し。ゲップスかな。

 初期の頃は、ウィートのほうがレベル的に高かった。手加減は不要。寧ろ楽しみ。

 「スピードスター!」

 身体中が軋み出した。ベースレベルがスキルに追い付いていない。盡力も大技には堪えられない。

 端から短時間勝負。ウィートは既に裏の勝手口付近に居た。町中に出られると厄介だ。

 町を知っていてマップもあるが、10年近くもここに住んでいるウィートの地の利にはどうしたって負ける。

 痛み出す身体に鞭を入れて、裏手の門まで先回りした。

 ウィートの目前に割って入り、目を見開いて驚く彼女の左腕を後ろに取って膝裏を叩き、膝を地に着かせた。

 膝ちょっと怪我させてしまったな。

 「どう?認めてくれる?」

 「参りました。素早さだけなら、兄様以上だと、自負していたのですが。こうも易々と出し抜かれるとは」

 「ちょっと膝見せて」

 「ほんの掠り傷ですので、お構いなく」

 「まぁそう言わずに」

 掠り傷でも消毒薬か、適切な処置をしないと感染症にも繋がる。

 ロングスカートの裾を膝上まで上げさせる。頬を染めたウィートが可愛い。

 「レクスド・ヒール」初歩的なイメージで。

 結構ばっくりいっていた傷が跡形無く消え去った。

 「無詠唱?治癒系の才がお有りなのですね。僧職か神官職を目指されるのですか?」

 「いやー。まだ何とも方向性が決まってなくてね」

 目指す所は治癒と真逆と言うか、掠りもしないと言うか。答え辛いな。

 「なーにデレデレしてるの、ツヨシ」クレネが見かねて助けてくれた。

 「デレデレなんて・・・、少しだけだよ」

 「そんな。そこまで正直に仰らなくても」

 苦笑いを浮かべるウィートから、書状を受け取る。

 「あなたも罰として、私たちと一緒に来ること。それと、面倒だからこれからあなたをウィートって呼んでいいかしら?」

 「あ、序でにおれも」

 「・・・構いませんが。私がご一緒しても、お二人のお邪魔になるのでは?」

 「「気は遣わなくていい」」

 遣ってくれないほうが、おれ達は嬉しいぞ。

 反則技の魅了を使用せずに仲良くなれた。この影響が後々にどう出るかは未知。

 自分の道を自分で決める。そんな当たり前の幸せを見つけて欲しい。この先で道が別れたとしても、きっとおれとクレネは笑って送り出せる。出せる、かなぁ。

 出来れば南を解放した後も、共に戦ってくれる事を願う。


 町に降り、冒険者ギルドで登録と身分証の発行手続きを済ませ、アッテネート名物の烏賊焼きを3人で仲良く頬張った。

 初期では会えなかったはずのギルマス、プランとも面会出来て、流れでウィートの登録も強引にさせた。

 「不思議です。以前から長くにお二人と行動を共にしていたような・・・。違和感を、全く感じません」

 「不思議だな」

 「不思議ね」

 クレネが囓った所を、ウィートの口に突っ込んでいた。

 そいつでスキルを譲渡するのもどうかと思う。出来るの?出来たの?

 「それに、私はまだ主人様へのご恩返しが終わっておりませんので・・・」

 「ウィートはどうしたいの?これから先もずっと侍女のままで終える積もりなの?」

 「冒険者の身分証があっても、必ずしも戦わなくてもいい。気になっているのは、シュレネーさんよりも、ゲップスの事だろ?」

 「兄の事はとても大きいです。主人様と同じ位の恩がありますし、愛してもいます。本音を言えば、お仕事を辞めて世界を旅したいと思った事は何度もあります。ですが、足の不自由な兄を置いて、私だけ自由になるなど」

 「いいんじゃないか?素直になっても。おれがゲップスの足を治す。その代価として君をおれ達の専属侍女として暫くの期間雇いたい。今日の今日で決めてくれとは言わない」

 「随分と昔に切られた腱を、どうやって治すと言うのですか?」

 「ここに1週間程度滞在し、レベルを上げる。盡力が上がれば出来る事も術も増える。行く行くは欠損した身体だって治せるようになる。腱や血管繋ぐ位は今日にだって可能だ。信じられないなら、今夜にでもやって見せるよ」

 「・・・卑怯にも聞こえると思いますが、兄の足が治った後で私がお誘いをお断りは」

 「それはウィートの自由よ。どちらを選択しようとも、私たちは旅立つ。とても大きな目標があるから。危険な旅なのは間違いない。無理強いはしないわ」

 「旅の、目標。立ち入った事を、お聞きしても構いませんか?」

 目標。目的。言ってしまえば簡単だ。魔神を倒す。それだけでは済まないだけで。今のウィートには関係が無く、前だって巻き込まれたに過ぎない。間違えれば、女王復帰の道さえ押し付けられる始末。行かない選択も自由だし、この町に留まって生涯を終えたほうが幸せなのかも知れない。

 「簡単に言えば。神々を滅ぼし、奪い取られた娘を救い出す」

 飲み込みかけたイカの欠片たちを盛大に吹いた。いやいやクレネさん。話のスケールデカくない?近いようで遠いよ!

 「のは冗談。やがて生まれて来る私たちの子に、平和な世界を見せてあげたい。その為の努力をするの。人種も種族も関係ない。皆が笑って手を繋ぎ合える、そんな世界を夢見て」

 夢か幻か現実か。境目こそ曖昧。言葉で表わすならば、クレネの言う通りだ。それに近い事をやって退けなければ為らないのだから。

 「・・・素晴らしい夢だと思います。お二人のお力に成れる自信はありません。暫く考えさせて下さい。旅立ちの日が決まったら、それまでには必ずお答えします」

 ウィートは一足先に、夕飯の支度があるからと邸に帰った。

 「態々嘘付かなくてもいいのに」

 「答えに躊躇った事?」

 「違う。今日の炊事場の係。ウィートじゃないの」

 「そっちか。おれらに気を遣ったんだよ」

 「切ないね。胸の内の想いを素直に伝えられないのは」

 クレネがそう言って自分の唇を、そっと指先でなぞっていた。相思相愛だった頃の記憶を持つのは俺とクレネだけ。世界に取り残された気分にもなる。

 「あの場所、行ってみない?」

 クレネの手を取って駆け抜ける。

 想い出の噴水広場。

 夕日が陰行く町の真ん中で、残り僅かな日の光を淡く反射して輝いて見えた。

 「綺麗だね」

 「ああ、とても。あの頃は景色を見てる余裕も無くて」

 あの時の俺は見ているようで、何も見えてはいなかった。

 「もしも私が、前と同じように記憶を何も持ってなかったら。ツヨシはどうしていたの?」

 「前と同じように、何もかもぶちまけて泣いて懇願してただろうな。助けて欲しいって」

 あの日のようにベンチに座る。

 どちらからでもなく引き合い、額をクレネの胸に押し付けた。

 「大丈夫。まだ私が、ここに居ます。この先もずっと」

 その付け加えは狡いよ。泣きそう。でも今回の俺は泣かないぜ。少しは成長を見せないと。

 今回俺が遡ったのは高々2年。クレネのやり直しはその何十倍。もう一度俺に出会う為だけに時代を超えたんだ。俺だけ泣いてりゃ世話ねぇわ。

 初級者ダンジョンへ潜るのは明日から。

 今日は帰り掛けに薬屋で下級ポーションを買い漁った。

 リビルドの練習用と、ゲップスに使用するエリクサーの隠蔽用。

 お察しの通り、今夜頑張るのは俺の治癒術ではなく、エリクサー様なので。

 湿布薬として貼り。約束通り、明日の朝には足の再建は終わっている事だろう。

 ウィートに最愛の兄を討たせると言う悲劇は絶対に起こさせない。

 それを回避する為の第一段階。ウィートが共に行かなくても、先手で南の魔王ランバルを滅ぼしてやる。そちらのリミットは決まっている。

 東西2国間の戦争が勃発する前まで。それがリミット。

 シーパスたち一般下級魔族を説得出来るかが肝となる。

 東大陸へ駆け抜けて、ゴラちゃんの足止め兼ナンパ。

 茜が居る小屋は一時的にスルーする。女神と片割れの加護があるのだから、間を置いても問題はないはずだ。迎えに行くタイミングも重要。

 賢人の里とブライン師匠宅への訪問をどうするか。どちらも外せないし、秘薬を飲まなくては何も始められない。レベルキャップ突破も必須。突破無しではランバルもペルチェも自力討伐は困難。無謀に等しい。

 「早めにグリエールたちと合流するのはどう?」

 夜通し相談する中で、クレネが提案してくれた。その発想はなかった!凄いぞ我が嫁。

 問題点があるとすれば、以前のように動いてくれるのかだ。

 前は俺の動きに追従するような動きを見せていた。

 女神の導きが無い今回、グリエールちゃんはどう出るのかが注意点。クレネの助言通りに序盤で合流してしまうのも良策とも思える。

 勇者を支え続ける下僕ルート・・・。思わず笑ってしまった。

 「どうしたの?頭回らないなら寝たほうがいいよ」

 「まだ大丈夫。女神のヒントの出し方が、滅茶苦茶下手くそだなって思い返しただけ」

 下僕ルートは、ガレー君。

 ぼっちルートは、ダリエ君。

 魔王ルートは、豚さん。

 ニート極みルートは、アスモーデ。

 秘密のエトセトラルートは・・・、誰に当たるのだろうか。俺?片割れ?師匠?どれも誰もしっくりとは嵌らない。

 考えるのを止めて、素直に寝ることにした。

 「エトセトラ・・・。娘の事かもね」

 「可能性はありそうだけど、流石の女神様も。そこまで予見出来たのかなぁ。取り敢えず今日はお休み、クレネ」

 「お休み、ツヨシ」

 明日からのダンジョン。俺が全滅させる勢いで取り組まないと・・・。


---


 「エトセトラ・・・、それたぶん私だよ!おバカ夫婦め」

 自分がそこに将来的に加わるのかと思うと、遣る瀬ない気持ちになった。

 隣で豚が笑っている。このクソ!と蹴りたくても、まだまだ足は出せない。

 半漁が豚に喰われる前に、私が乗り移ったろかな。

 でも男の人だしな。下半身のアレが見えちゃってるし。

 異種間BL・・・。新しい!じゃない!!女の子がいい(涙)

 悲しくたって、涙も出ない。だって、未知の金属だもん。


--


 お二人と別れ、我が主の邸に戻る前に少しだけ寄り道をして、兄が寝泊まりしている別邸の宿舎に立ち寄った。

 「兄様。スケカン様が、足を治して下さるそうです」

 「本当か!今度は何を要求された?金か、身体か、奴隷契約か」

 これまで出来もしない甘言で、何度騙されて来たことか。今回もかと思えば。

 「そのどれでもありません。旅の従者です。あれ程お美しいクレネ様がいらっしゃるのに、身体を求められても冗談にしか聞こえません。奴隷に近いかも知れませんが、兄様の足が治ったのを見てから決めて欲しいと言われました」

 「脅しみたいなもんだろ?証文は書いたのか?」

 「まだ何も書いてはいません。治して頂いた後で、話を断るのも自由だそうです」

 「信用出来んな。他に何か言われたか?」

 「夢を。途方もない夢のお話を」

 「どんな?」

 「世界平和です。多種多様な人々が笑って暮らせる世の中を作りたいのだとか」

 兄様は薄く笑うだけ。兄でなくとも誰しも笑い飛ばすでしょう。

 「でも私は、あのお二人なら出来るのではないかと思ってしまいました。二人の真剣な眼差しは、迷い言を語るだけの目ではないと。そこに私も含まれているような。お二人に包まれているような気さえ」

 「ただで治してくれるってのなら治して貰おうじゃないか。その後でおれが見極めさせて貰う。夢を語るだけの道化か否かを」

 「万全の兄様は確かに強い。それでも、お二人には届かない」

 「どちらにも?」

 今度は大声で笑っていた。

 「どっちにも負けたなら、おれが口出しは出来ないな。ウィートの好きにするといい。何度も言ってきた言葉だが、お前はもう自由さ。ここに骨を埋めるのは、おれだけで充分だ」

 何時もの笑顔に戻ったのを見て、私は心底安心した。

 翌日の夜。近くのダンジョンを半日足らずで、2つも踏破して帰還された夫妻と兄は模擬戦を行いました。

 万全の状態の兄と、消耗されたお二人。結果は見えていたかと思えば。

 兄は、意図もあっさりと打ち負かされてしまい。母屋の陰で少しだけ泣いていました。

 私は自由。旅に出るのも自由。

 何度言われても、聞かされても実感は少しも沸きませんでした。

 でも今回は。今回だけは。お二人の旅に付いて行きたいと、行くべきだと唱える自分が、閉ざしていた胸内の扉を開けてしまったように思います。

 スケカン様とクレネ様の、私に笑い掛ける笑顔に引き寄せられて。

段分けのバーの数は、あの数と合わせています。

視点切り替えも行間空けのみの棲み分け。

読み辛いなぁと。今更!?


今回の主人公は、前よりは少しだけ慎重派。

上手く伝わると嬉しいです。

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