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第11話

 シュレネーの邸宅に招かれ、食事までご馳走になりつつ、断固魚料理と野菜サラダとチップス類だけを求め、高級白ワインを要求した。厚かましいにも程が・・・。シュレネーさんは投資だからと笑ってはいるが、目の奥は鋭いぜ。まぁ見せたポーションの1本はお礼に渡すのは間違いない。

 食後に、広めの商談室に移動した。邸の外観も内観も端的に言えば質素。それは彼の商人としての堅実さを物語っていた。信用足る人柄が窺える。商談室内の奥の壁には、割に大きめの可愛らしい赤いドレス姿の女性の肖像画が飾られていた。「綺麗な方ですね。奥さんですか?」

 「ええ、妻のサラリエです。5年程前に、後遺症で他界しました」

 「それは・・・ご愁傷様です。後遺症?ですか」

 「かれこれ20年になりますかな。私たちの生まれの村が魔物に襲われまして、その時受けた傷の後遺症でして。運良く、とある方に高価なポーションを譲って頂いて、回復はしたのですが。そこまでに蓄積された物は癒やし切れませんでした。しかしながら、回復してからは15年以上元気に共に暮らして来たので。悔いや思い残しは少ないと・・・」無いとは言わない。真に深い愛を感じた。そんな簡単な言葉で彼ら夫婦の何が解る物でもない。俺は言葉を控え商談に移った。

 「そろそろ商談のほうに入りたいのですが、私には後ろ盾が何もありません。友人や知人もおりません。そんな私を信用しろと言うほうが難しいですよね」

 「ご謙遜を。人間、不思議なもので。殺人や強盗を繰り返してカルマ値がマイナス側に傾くと、これまた不思議なことに首周りに刻印のような痕が出るんですよ」「ふぁ?」

 今現在カルマ値がー200オーバーの俺の首には痕が無くまっさらだ。魔王から引き継いだ物が精力とカルマだとは。何度騙せば気が済むんだ!女神様!それを表に出ないようにしてくれた事には感謝するが、それを何処でどう生かすんだよ。要らんだろ

 「兎に角、それで私を信用してくださったと」

 「それと貴方の目、ですかね。良い目をしています。商人魂に火を付けてくれそうな。いや寧ろもう着火していますな」

 「はぁ、何とも。有り難いと言いますか・・・」

 「私共は1週間程の滞在ですが、宿がないならここの空き部屋をお貸ししましょう」目がギラギラしている。彼の目的は明白。

 「そこまでご厚意を受けてしまうと、お渡しを拒否する選択肢がありませんね」

 「そうでしょう、そうでしょう」正直者で非常に解り易い。道具袋からポーションの瓶を取り出して素直に渡した。「旅を生業としていますが、品の相場については無知なので」一言付け加え。

 「中級以上のポーションは私でもなかなか手に出来ぬ一品です。売値は最低でも共通金貨で50枚は下らないです。まずは半値で買い取り、売り手が付けば利益分から1割上乗せでどうでしょうか?この町での滞在費用などは、勿論お任せください。信用取引でも構いませんが、誓約書は後で金貨と共にご用意します」有無など言わせない。もうそれで乗るしか手はないようだ。

 「はい。その条件でお願いします」元がタダなのだから、条件的に申し分ない。欲を出せば切りがないし、まだまだ彼には聞きたい事が山程ある。言わば勉強代として。

 「誓約書を交わしておいて、正当な理由もなく不履行に至った場合。双方のカルマ値に影響が出ます。最悪たった取引1つの失敗で信用を失うのですよ」シュレネーはフンと息巻いた。誓約書は軽い物ではないと彼の表情が物語る。

 「しかとお受けします。そちらの言い値で構いません。その代わりに色々とお聞きしたいのですが」 少し酸味の強い白ワインが、昼間の何かを思い出させる。思い出を奥に追いやり、商人であるシュレネーにこの世界情勢などを聞きまくった。子供でも知っていそうな常識的な事柄から何から何まで。話しの途中途中で、え?そんな事も知らないの?の表情も見えたり見えなかったり。気にしたら負けってよくある話。

 運良く風呂付きの邸宅で、特殊な魔石で適温に暖められた湯を有り難く頂いて、客室用の寝間着をお借りした。甚兵衛のようなパジャマだった。どんなんかって?男の寝間着なんて説明は不要。着心地楽々とだけ。

 夜は少しだけ肌寒い。湯冷めしないように、早めにベッドへ潜り込んだ。上質な毛布に包まり、木造剥き出しの天井を見上げながら、ふと顔を窓の外に向けた。居るんだよなぁ・・・、見晴し台に。ピンクの何かが。こちらに向かって来る気配はなさそうで安心?は出来ないが。

 目線を天井に戻して、シュレネーから聞いた情報を頭の中で整理する。

 当然のように存在した冒険者ギルド(組合)と商人ギルド(組合)。一般の旅人や冒険者(志望含む)登録や身分証の発行手続きは冒険者ギルド。登録者の派遣手続き及び斡旋ハイランカーのみなども。ざっくりとその他は商人ギルドにて。割愛しすぎか。

 商人は素より、神官や僧侶の医療系従事者の登録斡旋は商人ギルドらしい。同時に下級ポーションなど製造、販売、買取りなどを請け負っているそうだ。但し中級以上のポーションは個人売買が推奨されている。高級品を争うより、安心安全堅実にだそうだ。

 数年に一度くらいの周期で王国直属の上位神官が製造した物で、何割かを下へろ卸すのだとか。そんなに欲しけりゃ直で買いに行け、てさ。所詮裕福な貴族辺りが買い占めるのがオチだと思ったがそれも全てではなく、ちゃんとお国も上位の冒険者に渡るように調整するそうで。

 ギルド関連ではもう2つ。傭兵ギルドと奴隷ギルドがある。国の直轄なら鍛冶ギルドもあるらしいが、一般人には縁のない場所なので気にしない気にしない。因みに武具は商店や露店で普通に買えると言っていた。冒険者、傭兵ギルドメンバー以外となると割高になる。カルマが表に出ちゃうような悪人には売らない。悪い人たちは当然闇市で粗悪品を手に入れると。

 明日は商店街を色々覗いてみよう。

 シュレネーが誓約ついでに紹介状も書いてくれるそうなので、朝一に冒険者ギルドで身分証の再発行手続きをする積もりだが、正常にステータスが反映されるかどうか。どちらか掌を翳すだけとか聞いたけど、カルマ値がもしも表示されてしまったら・・・。その点だけは女神様を信じよう。何たって俺にどうしても冒険させたいのだから、行き成り詰む(監獄行き)とかはきっと無いはず。

 冒険者や傭兵に登録すれば、盗賊の討伐も可能で、もし仮に捕縛に失敗して殺してしまってもカルマ値は下がらない。故に昼間の俺のは、単なる殺人でありカルマが下がったと。気が重くなる。

 奴隷ギルド。聞こえは悪いが案外真面なギルドらしく、カルマが振り切れる寸前の人たちの救済所と捉えられている。運良く真面目な貴族に雇われて、誠実に働けば市民階級にも戻れる。便利なシステムだことで。それでも運の無い人は・・・ご想像にお任せで。賃金と労力、需要と供給ですね。

 その他、大陸含めて国々の諸事情。は追々に。魔族や魔物のお話。居る所には居る、とのこと。

 基本的にダンジョンに踏み込まなければ、地上に出てくる魔物は意外に少ないらしい。ときどき魔王クラスの強者が暴れる程度。ブシファーのような例外も居るので楽観は出来ないが、無闇やたらに手を出さなければとかとか。不可侵、不可侵。そりゃラスボス(魔神)が縦横無尽に遊び歩いてたら、世界の終わりだからねぇ。

 勇者。ファンタジー物語を語るなら欠かせぬ存在。聞かなくても解る。魔神の復活と共に神託を受けて降臨する。時にはダンジョン、時には魔王城に挑み力を付けながら、果ては魔神との決戦。待ってくれ・・・俺、やっぱ要らんやん。おうち・・・は無いから天国・・・今のカルマのままでは地獄行き。あぁ何処でもいいから、帰りたい・・・。帰して。お金貯めて戸建て買うかな。嫁いないけど(わr)

 涙が零れそうになったので、首を向けてもう一度外を眺めた。マップで確認。ピンクは微動だにしていない。男だったら嫌だけど、女であっても尚怖い。見晴し台から動かぬ人。その上理解不能なのだが、ピンクの上に重なる緑色。緑色は僅かだが定期的に動いている。これは・・・夜の・・・

 軽く舌打ちして、女神の女神様を思い浮かべて目を閉じた。

 魔王ブシファーは果たして弱かったのか。勇者本人のレベルが低かったのもあるかもだが、持て余す力の使い方が解らなかった俺でさえ、魔王が弱いだなんて思えなかった。魔王ランキングがあるのかさえ疑わしい。それで最弱だからと言われても。勇者さん、慌て過ぎ。もう少し力蓄えて欲しい所。

 今の自分には関わりすら皆無なので、どうしようもない訳だが。

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