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第2章 第10話 ある彼の軌跡05、アンビジブル・メモリー

 暮れ無き花は風に揺れ、照り付ける太陽は眩しく。

 サーと打ち繰り返す波音と、噎せ返る異様な臭気で目が覚めた。

 頭が異常に重い。気を失う前の記憶がとても曖昧で。自分がいったい何をしていたのか・・・は朧気に思い出せる。

 俺は復讐心に駆られ、思うがままに人を殺した。誰かの為に。

 「・・・ピエドロ・・・」そうだ・・・それが俺の名前。

 次第に明らかになる周囲の景色を見渡す。

 ここは何処かの海岸線。波打ち際に打ち上げられた多くの材木と、大量の人間の死体。

 波に揉まれて、皮肌が爛れ、崩れ落ち、腐敗が始まっていた。

 人間よりも、その中に紛れた猫の死骸のほうが余程哀れに思えた。

 「可哀想に・・・。俺が、やったんだな・・・」

 鮮明さを取り戻す記憶。不思議な槌を駆使して、水没させた何処かの王都。

 何かを必死に取り戻そうと。振るい続けた。

 何者かに邪魔をされた。白い姿をした、少女の幻に。

 頭の奥がズキリと痛む。その何者かが、俺に何かをした。

 傍らには仲間のような誰かが居た。

 またズキリ。頭を大きな針で刺されるかのよう。

 俺の近くの壁が崩れ、巨大な水桶から流れ出た濁流に飲まれて。

 そこで仲間とははぐれた。

 頭を振って、激しい鈍痛を振り払った。

 身体を確認してみても、手や腕、足にも怪我は無いようだ。

 「肌色・・・」人間らしい皮膚の黄色に、違和感を覚えた。汚い、色だと。

 塩水を飲んだのか、とても喉が渇いていた。水が飲みたい。

 「・・・アイテムBOX」

 頭に浮かんだ言葉を口にすると、目の前に小さな石棺が浮かび上がった。

 重い石の器を手に取り、蓋を外す。

 中には綺麗な水が一杯に入っていた。

 「ありがたい」器の半分くらいまで飲んだ。

 清らかで美味しく、何故かとても切ない味がした。

 虚しさにも似た胸の痛みに戸惑いながら、石の器を戻そうと、ぽっかりと空いた黒い丸口の中を覗き込んだ。奥には器と同じように、細身の長身からすると3本の剣がそれぞれの鞘に入って浮いていた。銀色に、白銀に、茜色の鞘。

 「あ、か、ね・・・」

 極自然に涙が溢れ流れた。止めようと思って拭っても、次から次へと流れ出る。

 「あい、たい」胸の奧底に眠る誰かに。

 男勝りで気が強くて、時々乱雑な言葉も吐くけれど。とても優しくて。

 いつも大好き大好きと、後ろを駆けて付いてくる・・・。

 何だかチグハグなイメージが湧いては消えた。

 「おーい、そこの人。まだ生き残りが居たとは」

 1人の老いた行者が、馬を止めて指台からこちらに向かって手を振っていた。

 俺は多くの遺体に足を取られながらも、岸を上がり馬車まで歩いた。

 「すまない。ここが何処だか解らなくて。近くの町か村まで乗せて貰えないか。金は無いが」

 「なーに遠慮すんなって。おれんとこの村でも、王国の生き残りを何人か預かっててよ。見たとこあんたの仲間じゃないかってな」

 「仲間・・・」

 「なーんも覚えてねぇって顔だなぁ。軽鎧の肩当ての紋様、そりゃゼルゲンの国紋だよ」

 「ゼルゲン・・・」頭の中で何かが掠める。

 「無理もねぇか。おら実際この目で見た訳じゃねぇが、生き残りさんたちから話を聞くと。何でも王都に魔神サ何たらってのと、魔王ブシ何とかが出たとかで。変な魔法?で王城以外は水没したって言うじゃねぇか」

 「魔神・・・、魔法・・・」言葉に引っ掛かりを感じる。

 「まぁ何だ。時間は掛かるかも知れねぇが、その内に思い出すさ。思い出したくもないかもだけどな」

 「ええ・・・、はい」

 曖昧に答え、荷馬車の揺れに合わせて目を閉じた。

 思い出せそうで、思い出せない朧気な記憶。

 俺は、王都を上から眺めていたような。

 「おらたちの村はカルメノって言う、王都とは離れた辺境の村さ。王都とは離れちゃいるが、一応はゼルゲンの属領。王都が潰れた今は、南国に取り込まれること受け合いだが、気が晴れるまでゆっくりしていきな」

 「助かり、ます」

 好意を素直に受け取れない。またも何かが胸に引っ掛かる。

 「詳しくは、他の生き残りさんたちから聞きゃいいんだが、話したがりの爺の世迷いとして聞き流してくれ」

 「はい?」

 「ここから遙か北に行った場所に、名も無いドワーフの村が在ってな」

 「ドワーフ・・・」

 「人のいい奴ばかりでよ。おれたちゃ公平に持ちつ持たれつ、農具や酒やらを取引してたのによぉ。王族の奴らが嗅ぎ付けちまって。そっからは地獄さ。訳の解らねぇ武器を打たされるわ、次々に拉致られるわ。仕舞いにゃ、同族皆殺し。王族の息の掛かった奴らに邪魔されてよ。力ないおれらには、手出しが出来なんだ」

 「・・・」

 「言い訳だなぁ。助けるって覚悟がおれらには無かった。末路は見えてたのによぉ」

 「いったい、何を?」

 「殺されるって解ってて、見過ごした。あんなに、いい奴らを見殺しにしちまった」

 老人の行者が泣いている。後ろから見える彼の背中が震えていた。

 「王都に現れたって言う、その魔神がよ。燃え盛るドワーフの姿だって言うんだよ」

 「・・・」

 「おりゃよ。彼らの報復だって思うんだ。報いなら、仕方ねぇとも思うんだ。でもよ」

 「でも?」

 「王族が殺されるのは仕方ねぇ。でもよ。下のもんにゃ関係ねぇんだ。少なくともスラムの人間にゃ全く・・・、いや、それこそ言い訳だな。どんな御託並べたって、遅ぇんだよ。何もかもが」

 老人はそれ以上を語るのを止めてしまった。

 胸の奥に刺さる違和感は、最後まで止む事はなかった。

 起きてしまってからでは取り戻せない。過ぎてしまったものは戻せないと。


 村に到着してから、馬車を降ろされた俺は王都の生存者たちが集まる宿舎に通された。

 目の合った男に開口一番に言われた言葉。

 「なぁ、騎士さんよ。あんたらが、ちゃんとしてくれれば。家族は死なずに・・・」

 「言っても無駄だよ。こいつらは、おれらよりも馬鹿なんだからさ。王様の犬に何言ったって。誰も帰ってきやしない」

 重く冷たい鎧を脱ぎ捨てて、俺は訳も解らず謝った。謝った所で、燻る怒りに火を注ぐだけなのに。

 罵られ、恨み言を浴びせられ、泣いていた。

 大人の後ろに隠れ物言わぬ子供たちの瞳は、深い憎しみに染まり酷く濁っていた。

 王国の騎士。軍将印も付けてもいない一兵隊員。責任の所在は自分には無くとも、王に逆らわなかった引責は在ると思う。

 この広くない宿舎には、自分の居場所は無かった。

 風呂も入れず、拭い蹴れない潮水の臭いが満たしていた。

 出された少ない配給の馬鈴薯を通りの悪い喉に押し込み、自分だけ外に出てBOXの水を飲んだ。本来なら分けて飲ませてやりたいが、残りの水では宿舎全員の喉は潤せない。

 井戸でもあれば。

 宿舎に戻っても、真面に眠れるとも思えない。夜半だがその足で村長の家を訪ねた。

 「どうした?眠れないのか」

 俺を村まで運んでくれた老人は、このカルメノの村の村長だった。

 「夜分に済まない。暇があれば、幾つか話を聞きたいんだが」

 「明日にして欲しいと言いたい所だがなぁ。生憎今は老いぼれの独り身。暇かと問われればそうだと返すしかないて。薄い茶くらいしか出せんぞ」

 「助かる。俺はピエドロ。家名は無い」

 「家名が無いとは、騎士さんにしちゃ珍しい。おれはカルメノの村長、ビエンタ・ユリシール。家名は飾りだ。無きゃ無いで、他の村長から舐められるでの。気軽にビエとでも呼んでくれ」

 俺の家名は無いと思う。騎士は家名付きが普通なのか。

 「ビエさん。暫く、お願いします」

 「まぁ上がりな。嫁はとっくに病でくたばった。息子も娘も南国に行ったきり帰って来ねぇ。遠慮は要らねぇって」

 居間に通され、出された白湯を飲みながら、ビエを質問責めにした。

 王都に居た記憶しかなく、持っているのは不思議なBOXに上等な剣が数本と、ピエドロと言う名前だけ。話の中で何か引っ掛かればと期待したが、特別深く感ずる話は無かった。

 カルメノの村について。

 村の東側に井戸が3つあり、現状で生きている井戸は1つだけ。大切に使いながら、細々と芋と人参を育てている。

 昔は畜産で牛や豚をやっていたが、餌も与えられなくなり断念。馬車用に古馬が数頭居るのみ。聞くからに寂れた村。

 「この村も、何れは南のサウザンムリブ王国領となるだろう。好戦的な国で有名だ」

 ゼルゲン無き今。近隣に接する南に吸収されるのも時間の問題だと言う。

 ゼルゲンが大陸中西部を締めていた。北西部をノーザングリブ王国。

 北東部がスイーブレン王国。中東部をオルタナ王国。

 南西部のサウザンムリブ。南東部にアケドニア王国がある。

 大きめの木の葉を机の上に並べて、ビエンタは丁寧に説明してくれた。

 中央部がぽっかりと大口を開けている。

 「この真ん中には何が在るんだ?」

 「なんだ?そんな事すら忘れちまったか。しっかり活きてるでっけえ火山だよ。明日天気が良ければ、こっからでも煙の端が見えるかもな。名前はデラウエア。このカゼカミグエ大陸の象徴であり、どの国からも独立した中立域」

 何を聞いても新鮮な感じがする。王都に居る前の記憶が無いのでは。

 「そこは国、なのか?」

 「いやぁ、麓に命知らずが集まる宿場町があるだけさね。噴火の時期を読んで、年中懸命に穴を掘ってるぜ。まさに墓穴だよなぁ」

 ビエンタは豪快に笑っていた。俺に浮かべられるのは苦笑いだけ。何せ解らない。

 「この村が潤えば、独立も出来るのでは?」

 「ハハハッ、馬鹿言うねぇ、騎士さんよ。南に守って貰わなきゃ、おれたちに未来は無い。南東のアケドニアが厄介な連中でな」

 向い左上の葉をトントンと叩いた。

 「アケドニア・・・」

 「ここは別名、盗賊の国と呼ばれてる。人様から金品や若い女子供を攫っては、売って捌いて奴隷としたり無理矢理孕ませたり。やりたい放題さ」

 「・・・酷いな」

 「だろ?これまではゼルゲンに。これからはサウザンにってな。早々に取り込まれないと、逆に危ういのさ。北への足場にでも使ってくれりゃみっけもん。留め金のゼルゲンが消えたとなると、すぐに戦争が始まるだろうねぇ」

 「人事のように聞こえるのは気のせいか?ゼルゲンは、それ程の強国だったのか」

 「それもこれも、全部ドワーフ種たちのお陰だってのに。恩も忘れちまいやがって。全部自分たちでぶち壊してりゃ世話ねぇわ」

 「恩?」

 「ドワーフが打つ武装は特別でよ。ナイフ一本取っても、鉄の重盾も紙くず同然だってよ。それらを何十本もゼルゲンが独占してきた。人には過ぎた武器たちは主に王城に集められてたらしいが、今や大放出状態で大半が放置されてる。アケドニアじゃなくても、それを奪い合うって寸法さ。嫌でも揺れるぞ、カゼカミグエ全体が。末端の寂れた村じゃあ。巨象に踏まれて終い」

 「逃げないのか」

 「逃げる?何処に行こうと変わらない。手に何も持たねぇおれたちの末路なんて知れてる」

 皺だらけの瞼を閉じる。彼の顔は疲れ、先暗い将来を諦めていた。

 机の上に置かれた6つの葉の配置と、中央の火山帯のイメージを頭の中に焼き込んだ。

 「すまない。やはり何も思い出せない。長居をしたな」

 「なぁに、気にするな。腹一杯食わせてやりたてぇが、こちらこそすまん。他の皆には明日にでも説明しよう。南に下っても、武器も持てぬ者は奴隷紛いの扱いを受けるだろうが、死ぬよりかましだと。無責任と言われても仕方ねぇがよ。おれたちにゃ無理なんだ」

 悔しそうに、ゼルゲンの位置に在った葉を握り潰していた。

 「気にするな、ビエさん。色々聞かせてくれて助かった」

 響かぬ慰めを送り、席を立とうとしたその時。

 「ビエさん!村長!来やがった」慌ただしく玄関ドアが叩かれた。

 「早い、早過ぎる。どっちの国だ!」

 「どっちでもねぇ。あれは、オルタナの軍旗だ!」

 「まさか・・・、あの。常に中立を貫くオルタナが・・・」

 駆け込んで来た男の言葉が、ビエンタには信じられなかったようだ。

 「そいつらは、今何処に居るんだ?」

 「東の平原に陣取っているが・・・、あんたはゼルゲンの?」

 「お前さんにゃ関係ない。ゼルゲンの紋印ぶら下げてちゃ、殺して下さいって言ってるも同然だぞ。捕まって拷問されるに決まってる」

 「知らぬ物は出せないさ。数は?」

 軽く笑って両手を広げて見せた。

 「ざっと二千騎の斥候隊ってとこだ。なぁ、あんたどうする気だ」

 「交渉だよ。どっちみち一度は死んだ身。初手は俺に任せろ。捨て石にでも使え」

 「せっかくに生き延びても、それじゃなんも意味がねぇ。この村の事は村のもんに任せて」

 そっとビエンタの肩に手を置いて、大丈夫だとだけ告げた。

 「村の出口まで案内してくれ」

 「あ、あぁ。ビエさん。いいのかい?これで」

 「いいも悪いもねぇ。そいつはもう、覚悟を決めちまった。勝手にな」

 「死のうが拷問されようが、俺の勝手だ。気にするな」

 豪語を吐いたものの、どうするかは決めていない。拙い交渉に応じてくれるような賢者が居てくれる事を祈ろう。

 「こっから裏街道を進んだ先が平原だ。本当に、1人で行く気なのか?」

 「心配か?裏切りが怖いか?」

 「新で、どっちもかな」案内してくれた村人は。

 「正直者だな、お前。お互い生きて朝日を見られたら、名をその時に聞こう」

 「んな大層なもんじゃねぇよ。村のみんなはビエンタさんを慕ってここに居座ってるようなもんだし、死ぬ時は皆一緒でいい。奴隷なんぞ真っ平御免だ」

 奴隷は嫌か・・・。俺がなった記憶も無いので掛ける言葉も無い。

 死なば諸共。言うは易し。村の住人たちも自分たちの将来を憂いている。

 道なりに暫く進んで広がる平野部に出た。

 かがり火で照らし出された陣営のテント群が見えた。小高い丘を陣取っている。

 俺は両腕を広げて、歩み寄る。

 「何だ貴様は!そこで止まれ!」

 簡易囲いの前に立つ兵士は、既に抜刀していて警戒感を露わにした。

 何本も並び立ち、下から照らされ風に揺れる軍旗。

 コイン金貨に突き刺さる十字架をモチーフにしている。

 お世辞にも趣味が良いとは言えないな

 「ゼルゲンの生き残りだ!カルメノに兵は俺1人。将に合わせては貰えないか!」

 離れた場所から叫んだ。近場のテントからぞろぞろと兵士たちが様子見に出て来る。

 「生き残り?信用ならんな。今宵、将は就寝された。翌朝に出直せ」

 「のんびりしてるなぁ。慌てて出て来た割りに、いいのかよ。なら伝言だけ頼む。村に手出しをしないと約束出来るなら、俺が王宮の隠し通路を案内してやってもいいぞ。腰抜けの王族の奴らは持てるだけ持って北に向かったそうだ。こんな場所で道草食ってる場合かとな!」

 何がとは言わない。交渉の常套手段、初歩の初歩。

 「・・・しばしそこで待て」

 見張りが交代して、数人が陣営の奥に駆けて行った。

 間を置かずに、一際大柄の男を連れ立って戻る。焦げ茶色の全身甲冑。ご身分が解り易くて助かる。

 「私はこの隊を預かる、オルタナのセノガ・モルボンと申す。貴殿の名は」

 聞いた事などない。当然に。

 「俺は宝物庫専属の近衛。ピエドロ・バギンズだ。民を盾に切り捨てた王家に、熟々愛想を尽かしてな。宝など、末端の俺には価値はない。村に居る生き残りも一般民。カルメノの民には一泊一糧の恩がある。共に見逃して欲しい。意味は解るな?」

 名乗った家名は思い付き。宝物庫の話も思い付き。嘘も方便。通って欲しいが、どう出てくるのかを待つ。

 「解るが、信用には足らんな」

 半信半疑、といった所だろう。

 「俺はどうでもいいが、オルタナが動いたのが知れたら、サウザンも野蛮なアケドニアも黙っちゃいない。機動力に優れた斥候が、こんな辺境で油売っててもいいのかい?おたくの王も張りぼてらしい。これは傑作。地獄の底で笑ってやろう」

 「言いたい放題言いおって。ノーズの奴らはどう出る、貴殿の答えは?」

 「強欲な猿が、簡単に宝を渡すとも思えない。本営は動かずとも、先遣は幾らか出ている頃合だ。王都に残る宝は早いもん勝ちだって言うのに、まだ御託を並べるのか?」

 「理はあるな。貴殿は、本当に1人なのだな?」

 どうやら話に乗って来た。

 「少なくとも、王族以外で宝の在処を知るのは俺だけだ」

 時間が無いと焦らせる。こっから先は賭け。従者か捕虜か、村を救うにはこれしかない。

 「殺せ!その者も、村の者も全て。我らの宝の秘密が漏れているやも知れぬ」

 我らの宝?ドワーフのだろ。短絡的な見方。こちらは想定していなかった解。

 「ビエさん。アケドニア以外にも、馬鹿が居たよ。残念だ・・・、残念で仕方ない!」

 思わず笑いが込み上げる。

 「笑止!我らの宝、手にするも我ら。オルタナ王に捧げよ」

 「汚い。汚いのは!何時も、欲に塗れた人間のほうだ!!アイテムBOX!」

 空間に両腕を差し込み、黒と銀の留め具を外した。右手で黒を、左で銀の柄を掴み取る。

 面放射の弓矢が到着する前に、BOXの外へと引き抜いた。

 「待て・・・、何だ・・・その剣は。何処から出した!」

 「味方に置けば良いものを!時遅く、端は開かれた。宝を持っていないとは、一言たりとも言ってない。死して詫びろ」それは自分にも当て嵌まる。

 どうしてドワーフの剣を3本も持っているのだろうか。俺も、奪った側の人間なのだと知る。

 2本とも驚く程軽い。長剣なのに、細い木の枝を振っているような感覚に陥った。

 宙を駆ける矢の動きが止まって見えた。

 「あの剣を、うば・・・」

 敵兵の動きも頗る遅い。浮いて止まった矢雨の下を走り、セノガの頭を黒で割り裂いた。

 熟れた果実に包丁の刃を落とす。たったのそれだけ。何も、感じない?いや、ただ哀れと。

 ゆったりとした時の中で、俺は無心で剣を振るい続けた。


 数秒なのか数分なのかの後。陣の中で最後の一兵と対峙した。

 腰を抜かして小便を漏らしている。臭えなぁ。顔を歪めながら剣先を目前に突き付けた。

 「本陣は、何処まで来ている?」

 「3つ、東の丘を越えた所だ・・・です」口だけは流暢に動く。

 「行け!大将に伝えろ。馬鹿な考えは起こすなと」

 「は、はい!!」

 生き残れると悟り、一目散に東へと走って消えた。

 ドロドロに纏わり付いた血油を、近くのテントの布を裂いて拭い取った。

 見渡す限りの屍の山は、目印代わりに放置する。

 これらが身に着けていた武装の殆どは、割れるか砕けるかで使い物にならない。

 使えそうな武器でもあれば、村人たちに・・・。違うな。それだと無駄に死人を増やすだけ。

 武を持つ利点と、持たぬ利点。どちらが正解かは、難しい。

 「あ、あの・・・もし。騎士様」

 片隅のテントに居た、10人の奴隷の少女たちが、重そうな鎖を引き摺り這い出て来た。

 見過ごすか暫く考えた挙句。

 「従軍の奴隷か?」胸くそ悪い。

 「・・・はい。私たちには行き場が無いのです。どうか、助けてはくれませんか」

 泥と屈辱に塗れても尚、毅然とした誇りが立ち上がる姿に栄える。一番の年長者らしい少女が俺に助けを請う。

 「俺が、恐ろしくはないのか?」

 「深い、憎しみと、悲しみしか見えません。恐怖はあります。でも。こんな、人とも呼べない糞虫共に比べれば。貴方様のほうが余程人間らしく感じます」

 少女たちはそれぞれに、近場の屍を踏みつける。

 糞虫とは。そこには全く同感だな。

 「まずは鎖を切ろう。汚物は放って脚を出せ」

 黒の剣はBOX内に戻した。戦いの最中で気付いた事。黒では掠り傷を付けただけでも、悶え苦しみながら絶命してしまう。

 少女たちがここで死ぬ理由は無い。

 銀剣で柔らかく足枷を解いて外して回った。冷たい鉄錠も、硬い鎧も、人骨も。枯れ葉の如く刻めてしまう。それでいて欠片も刃毀れ無く輝き続ける。

 間違いない。これはドワーフが打ち上げた逸品たち。返すべき創造主が見つかるまでは、これらを借り受けようと考えた。

 又は手にした経緯を思い出すまで。

 「俺はピエドロだ。滅びた国の亡霊さ。君の名を聞こう」

 「フレアーレ・デルトと申します。ピエドロ様。貴方様になら、喜んで殺されましょう。永久の忠誠を誓います」

 少女たちは並び、跪き胸の前で手を組んで頭を垂れた。

 「大業なことで。俺はこの武装が無ければ只の平しゃ・・・?」俺は今何を?

 「どうかされました?」

 「いや。只の平民に付いて来ても、善い事なんぞ何も無いぞ」

 「これまでの地獄に比べれば、ピエドロ様の傍は天国でしょう。東も南も行き場無く、北には火山が。西は滅びたと聞けば、これが最良で御座います」

 清々しいまでに言い切るフレアーレ。俺は彼女の剥き出しの肩を軽く叩いた。

 「気負うな。俺も本物の強者と当たれば死ぬだろう。そこまでなら」

 「ご冗談を」

誰と出会い、何処からが起源となるのか。

そんなの誰にも解りませんよねー。


思った以上に長くなりそうなので、

過去編を一旦切り上げします。

嘘です。幾つか別の話を挿し入れます。


膨らまして、さてどうーしましょ。


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