表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/130

第2章 第7話 ある彼の軌跡02、想い出の牢獄

 数週間が過ぎたと思う。武具を打つ以外何もしていない。

 看守の男も何かを警戒して無駄話はしなくなった。不味い事でも聞いてしまった感がある。

 久々の来客。小窓から小鳥が舞い込んで来た。

 元世界でも集落でも見た事がない、青い羽根の綺麗な鳥だった。

 雀のような鳴き声。チュンチュン楽しげに、俺の周りを飛んだり撥ねたり。

 会話は出来ないが、久し振りに他の生き物に触れられて気分が良かった。

 今日は良い物が打てそうな気がした。

 「喜べ、やっと許可が降りたぞ。上質な魔鉱石だ。この国の王に認められる良い機会。逃すなよ、ドワーフ」

 いつも配膳してくれる男ではない。何度も聞かされた言葉でウンザリする。

 「認められれば、ここを出られるのか?」

 叶った試しはないが、一応聞いてみる。

 「さぁな。それは上が決める事」案の定な答え。

 魔鉱石?イメージ的には魔物から取れる物。倒すと稀に手に入るとか。

 手に取ると赤紫の淡い光を放つ、不可思議な魔鉱石。まるで、俺に答えているかのよう。

 「見られていると集中出来ない。時が経ったら来るといい」

 これは本当の話で、人間が近くに居ると良い物が打てない。

 「チッ・・・、まぁ精々頑張れよ」なぜに舌打ち?

 係の男の足音が遠退くのを確認してから、炉に火を入れた。

 青い小鳥が小窓の端でこちらを見ていた。人間でないなら大丈夫だろう。

 鉄が打てる温度になった。もう少しだけ上乗せし、炉は頃合い。

 まずは何を打つべきか。何も出来なかったでは、今後の体面に影響してしまう。

 初手は、そうだな。何でも打ち込める、鎚を造ろう。

 魔鉱石を炉に翳して数分、真っ赤な金属反応を見せた。これなら大丈夫そうだ。

 鉄のハンマーで鉄以上の硬度を出す。理には適っていないが、俺は何でも造れるスミス。

 ここまで鍛えた腕に懸け、鍛冶師としての本分を発揮した。

 前々から何かを隠せる場所が欲しかった。

 大きな魔鉱石を砕き、ほんの一部の欠片で適当なナイフを作成した。これの仕上げは後回しでいい。残りの半分でハンマーを仕立てた。

 何物でも打てる鎚。メギョンギルド。

 心を込めて、残りの鉱石で造り上げた物は。

 ロックド・ソール・チェイン・ザ・アイテムボックス。

 魂に直接繋いだ、俺専用の道具箱。これでやっと、造りたい物が造れる。

 形は無く、色も無い。けどそこにBOXは存在した。成功だ。

 試しにナイフや鉄のハンマーを出し入れしてみた。望み通りの出来映えと使用感。

 何でも造れるは嘘ではなかった。

 鉄のハンマーで、ナイフをそれなりに仕上げた。

 人間にくれてやるのはこの程度で充分。悪戯と仕返し。

 「たったのこれだけか?」

 数時間後に取りに来た男が男が青い顔で抜かしていた。

 「初めて扱う石だからな。少し失敗した。残りは灰になってしまってな」

 「何も無いよりはマシか・・・」

 ブツブツ言いながらも、ナイフを抱えて去って行く。

 数日後、2度目の機会がやってきた。前回よりも大粒の石。造れる物が元の大きさに比例するとでも思ったのだろう。馬鹿な奴らだ。

 今日も青い鳥がやって来た。楽しそうに作業を眺めている。今日も良い物が打てそうだ。

 前回よりも少しだけ温度を下げた。大物を打ち上げるのには高温過ぎたから。

 世界を渡り、希望を繋ぐ。ホープアクス。

 並の人間には扱えない程の大きなバトルアクス、黒い戦斧が出来上がった。

 満足満足。最適な温度が見つかった。

 「またこれっぽっち・・・」

 「前よりは上手く行ったぞ。使えるのは芯の部分だけだったな」

 残り僅かで造った、ショートソード(切れ味鋭いペーパーナイフ)擬きをお持ち帰り。

 3度目の機会。今日も小鳥はやって来た。

 今回は最初から2つに割れた魔鉱石。そろそろ、ちょっとは良い物を渡さないと次が無くなってしまいそうだから、ちょっとは頑張ろう。

 石は2つあるので、適度な対の双剣を造った。

 大きく残した石を打つ。

 全てを見通す、道標。ホークアイズメイス。

 棍と持ち手部は出来たが、両者を繋ぐ鎖が難しい。次の課題にしよう。目標が出来た。

 4度目は、前の双剣が大変好評だったらしく。大きな鉱石が3つも貰えた。

 「時間が欲しい。また明日来るといい」

 1つで課題の鎖を試行錯誤の末に作成。後の1つで。

 守るべき者、守る者に従う。ガーディアン。

 上々の出来だ。立派な騎士に相応しい銀色の剣が出来た。

 残り1つで。

 持つ者の生気を奪い、垂れ流す。パージ。

 見た目だけはガーディアンに近い。中身は悪意しかない。誰が持つんだか。

 残った鉱石はBOXに安置した。中のコレクションが増えて行く。それだけが今の楽しみ。

 「恐ろしい剣が出来てしまった。柄は握らないほうがいい」

 パージを引き渡した。ザマァ。喜んでる喜んでる。馬鹿みたいに。まぁ馬鹿なんだけど。

 所詮は人間。

 俺の思いとは裏腹に、パージは王様に超好評だったらしく。

 5度目には、大粒12個と大盤振る舞い。

 「この国の在庫全部だそうだ。前のよりも良い物頼むぞ。出来が良ければ、外に出してやってもいいだとのお達しだ」

 やっと聞こえた新しい変化の言葉。集落に帰りたいな。

 「時間が掛かる。2日後に来るといい」

 流行る気持ちを抑え込んで、頭を冷やして案を練る。

 何事も、何度でも所有者の元に舞い戻る。リバース。

 初めての杖。この世界に魔術や魔法があれば絶対に役に立つ。

 縛られる事も、縛る事もない。チェイン。

 5つの短剣を造ってみた。どう使うかは使用者次第。

 人々の願いを集め、全てを断ち切る刃。アルテマ。

 白銀の長剣。想いに応える剣か・・・。我ながら深いな。

 時を操る橋立。偽り無き魂の元へ。リヴィジョン。

 銀色の長剣。時を操るか。本当に出来たらすげぇよ。

 いつもは大人しい小鳥が何やら騒いでいる。そんな日もあるのだろう。

 終焉を告げる物。集いし3錫。クリアポメロン。

 青白い三つ叉の矛を造ってみた。精強な長槍。すでに人が持つべき物じゃない。

 断罪する雷。揺るがぬ正義の名を借りて。エクスキャリバー。

 アルテマと似ている白銀の長剣。勇者が居たら、きっと世界を救う助けとなるに違いない。

 魂をも喰らう、悪しき牙。ソールイーター。

 おーすげぇの出来た。刀身から全部が黒い。魔王っぽいのが持つ剣だな。

 大鉱石は後3つ。ポメロスに3つも消費してしまった。

 騒いでいた小鳥が、何かを諦めたように大人しくなった。今日の俺は止まらないぜ。

 ソールイーターの鞘でも造ろう。格好いいのがいいねぇ。

 引き延ばしてイーターに被せながら打ち込み開始。芯が強いので苦も無く出来た。

 在りし日の夕焼け。茜色の鞘。

 茜色かぁ。懐かしいな。元世界で元気でやっているだろうか。すっぱり忘れて新しい彼氏でも出来ただろうか。一目でいいから会いたい。謝りたい。絶対に不可能だけど。

 BOX内の在庫の石で、剣の鞘を色にそれぞれ合わせて作成した。

 杖や鎖棍や斧や槍は剥き出しで構わない。剣に鞘が無いと格好悪い。そんな理由で。

 武装ばかりでは芸がないよな。たまには武器以外でも。

 異次元と異世界を繋ぐ架け橋。天使の羽根。

 「え・・・」

 純白の羽根が出来上がった。出来てしまった・・・。

 俺が願ったからなのか?願いながら、打ったから?異世界を、繋ぐ架け橋。

 これを使えば、帰れるのかも知れない。帰れないまでも、一目見るだけでも。

 嬉しくなって持ち上げた。日の光に翳そうと、立ち上がり小窓に近付いた。

 ピィィィという鳴き声と共に、小鳥が目の前を通過して窓から出て行った。

 驚き目を奪われ、手元に目を戻すと白い羽根は何処にも無かった。無くなっていた。

 窓には背は届かない。外の様子も、世界も知らない。

 羽根は小鳥に持ち去られてしまった。小さな友達だと思ってたのに、裏切られた気分。

 仲間の羽根とかと勘違いした?

 まぁいいや。出来るとは思えないが、またゆっくり造ればいいかと思い直し、炉の前の座椅子に腰を下ろした。

 最後の1つを手に取り向い合う。

 そろそろ自分用の武器でも造ろう。戦闘に向いているとも思えないが、パワーだけなら人間よりも優れているはずなので、力任せの武器でいい。

 鎚は鍛冶師の命だから、武器としては使用しない。プライドって奴だな。

 復讐の鉄槌。能力吸収機能搭載。リベンジャー。

 紺色の大槌。いいねいいね。いいの出来たぜ。肌の色とも合っている。

 能力吸収ってのも何だか物騒な気もするが、俺らしいっちゃ俺らしい。

 火を落とし、暫く考えた挙げ句。ポメロス以外をBOXに収納して、人が現れるまで眠る事にした。何だか疲れたし、石は全部使ってしまった。

 この槍で、何とか平和的にここから出してくれないかな・・・。

 久し振りに深く眠り、俺は少しだけ元世界の夢を見た。


 「ピエドロ・・・、本当に彼があの。我が友だと?」

 「そうです。もう、隠す必要は無くなりました」

 「もし、は好きではないが。もしも、私が彼を止めていなければ、世界は」

 「私も含めて、滅びていたでしょう。滅んだ末に、新たな神が生まれていたでしょう」

 「ドワーフか。成る程、だからあそこまで」

 「彼は人間を恨んだ。その切っ掛けも能力も、この私が与えてしまった物。私には責任がありました」

 「それで君は、私と彼に執着したのだな」

 「1つの理由であり、彼に対する謝罪でもある。別の道には彼が本当に望んだ者を用意していたのに、導いてあげられなかった。未熟な世界を生み出した私も、また未熟。白き羽根が危険だと早計して、その後を見届けませんでした。彼が道を踏み外す瞬間に私は、何も」

 「何も?君は良くやったよ。随分な遠回りだったがね」

 「神を、この私を泣かせる気ですか」

 「そうだとも。神であろうと、何者であろうと。愛する妻には代わりない」

 女神は男の胸に縋り、涙を隠すように顔を埋めた。

 「見せましょう。彼の辿る軌跡を」

 「見るとも。友の歩んだ足跡を」

重い話が続きます。


幾つかの理由を解放し、また広げる。


そして、彼女への切符をご用意~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ