第2章 第5話 救いようがない悪癖
遠くで鳴り響く、爆発音。
遠目で見ても、華々しく燃え盛る火柱。
足は付かないように注意し、悪いお金が満載の倉庫を1つ爆破した。
倉庫の周囲には影響は出していない。一般の方が居なくなった瞬間に起爆した。
巻き込まれたのは真っ赤な悪い人たちだけ。
内包させた白いお薬の元は、警察へのプレゼントとして残してある。
正義を語る程の度胸は無いので、常に覆面をして作業に当たる。
土日に茜の手を借りる時も、覆面をお願いしている。彼女は嫌々ながらも、身バレしては困るのはもっと嫌だと納得してもらった上で。
倉庫が燃えてしまうのはどうでもいい。元からあれは俺の金じゃないし、洗浄も困難で困っていたから丁度良かった。
バイトで得られたお金は、きっちりと申請して税金も漏らさず納めている。
俺も茜もマンション以外、派手な買い物はしていない。
億ションとかではない、一般家庭が頑張れば手に入れられる程度のマンション。
多少のローンは組んである。目立たぬように。
ご近所付き合いも至って普通。挨拶や自治体の活動にも積極的に参加して、敵意や害意から離れた生活を送る。
マンションに住む全住人の繋がりは全て把握済。行動パターンまで詳細に。
504と606の旦那と嫁さんが不倫中だとか、隣の若妻が俺に気があるピンクだとか。
茜には釘を刺されている。「もしも浮気したら、これまでの犯行と殺人歴バラすから。私、向こうでは許したけど、こっちではぜーーーったい浮気は許さない。したらお別れだし、私は脅されて止められなかったって言うから」
茜さん。死んでもしませんて。向こうの片割れがうらやま・・・。話が逸れたな。
そうやって俺たちは、裏家業の痕跡を残さない活動を重ねていた。
序盤は順調だった。嬉し恥ずかし初体験の日を思い返す。
友人の友人の友人が、悪い詐欺グループに親から受けた財産を騙し取られたとの情報を小耳にしたので、試しにグループを潰してみた。
金の操作はしていない。潰してみただけで。
下っ端の通勤経路を見て、通勤電車内でIDカードを抜く。
コンドーム並に薄い手袋で指紋さえ残さずに。
詐欺ビルと周辺の監視カメラを把握し、ビルの警備員行動パターンを読み、いざ決行。
一度目で下っ端IDで何処まで入れるのか試した。ザルだった・・・。
二度目でグループの頭の頭を、背後からゴルフクラブで一殴り。加減が解らず一発で死んでしまわれた。PCを放置して頭が所持していたスマホから、チップだけ頂いて退散。
皆の聖地アキバーでノンシム闇スマホを現金購入。頂いたチップをセットして電話帳ゲット。
スマホは粉々に粉砕後に港に寄って、入水投棄。懐かしい。環境破壊ごめん。
ゲットした電話帳の番号とアドレスから、上層組織を割り出して建屋を巡回訪問。
超有名な歓楽街の一角に在る、大層立派な事務ビルが本拠と判明。
お勤めの職員方の行動を読み漁り、家族関係、構成等を入念にチェック。
人数多し。流石は日本で3本指に食い込む組織。ビルのセキュリティーもザルとは行かず。
お外回りを襲撃しようか悩んだが、どうやらビルの地下室で連日連夜、肉肉しいパーティが行われている様子が窺えたので、ビルもお取り潰し決定。
外回りの大きなお取引情報を得て、先回りして待機。
時間前に下っ端数人が、廃屋に取引品目を納入しに来ていたので品目確認をご一緒。
ハンドガン、ライフル、サブマシンガン、手榴弾、ダイナマイツ、C4。と大量の白い粉。
それセットっすか!?セット物っすか!?
見張りが2人だけになった所で襲撃。2人の重傷患者を備品庫に収めた。
1人のスマホ、サイレンサー付きライフル、C4と白い粉を半分くらい搾取。彼ら御用達お手持ちの鞄に詰め込んで離脱。と見せ掛けて、廃屋の各所にC4をセッティング。
備品庫に落ちていた導線を数珠繋ぎにしただけの簡単設計。最初に起爆させるC4に突き立てた電極が、見晴しの良い小窓から見えるように設置。
1km程度離れた廃ビルの屋上に上り、ライフルで小窓を覗いて暫しの待機。
お約束の時間まで暇を持て余した。拾ったスマホでゲームを降ろして潰した。
自分のスマホ?家ですけど何か?GPS舐めちゃあかんよ。あれはオフしてもオフってないから注意してね。暇潰しで茜と通話なんかしたら痕跡確定じゃん。
時間15分前に電話があったので切ると、ショートが飛んで来た。
「お前はどうしてそんな場所に居る?何か問題でもあったのか?」
ちょっと嫌な汗が出たが、俺はこう打ち返して難を逃れた。
「問題はない。暇だったから、う○こしに来ただけ。相方もどっかで暇潰してくるって言ってたよ」
数度のコールが来たが、全スルー。
「ふざけるな!すぐに持ち場に戻れ」のメッセが来たので。
「今日は歯切れが悪い。時間が掛かる。相方が居るならいいじゃん♡」を返した。
対応が面倒になってきたので、廃ビルの屋上から落ち合わせ場所に向かってスマホを遠投してみた。本日の最新スマホの遠投記録、210m。届かへんな。
線上には人や一般住宅は一切存在しないので特に問題はない。
待ち合わせの時間が来たので、ライフルのスコープで監視。
黒塗りのベンベと商用バンがそれぞれ3台ずつご到着。若手数人が周囲を警戒しながら降り安全確認。安全ではないけどねと念じつつ、到着メンバー詳細を確認。
潰そうとしている組織と商談相手組織の幹部者が一名ずつ。構成員もそれぞれ10人ずつ。
覆面警官や潜入捜査員無し。イケる!
両サイドの半数くらいが廃屋付近に近付いた所で、俺はライフルを撃った。
セーフモードだったのは内緒。
銃火器初体験なので手間取ったが、何とか3発目でC4の電極を捉えた。
1発目で既に異変に気付かれていたが、時すでに遅し。
盛大な爆音と爆炎が夜空を焦がし、爆風がここまで届いた。
こりゃ魔術や魔法も要らんわな。
だから戦争は終わらないのか。
全滅させる気は無かったが、爆発の余波で待機車も無惨に微塵。数人だけ動いているが、緊急車両が来る頃には召されているだろう。
仕事は早いに限る。ライフルを捨ててその場を立ち去った。
爆薬と麻薬を鞄に持った状態で電車に乗るのも、交番の前を通り過ぎるのも絶え間ないスリルを味わった。ポーカーフェイスで乗り切ったぞ。ナンパは止めて!
途中のキードンで目出し帽を購入。その足で歓楽街のビルまで戻って来た。
ビルの裏口前で買ったばかりの目出し帽をセット・・・。タグを取り忘れたから鼻に当たって邪魔臭かった。下の布ごと引き千切ってみると、目出し口出し帽となったがご愛敬。
被害者以外は全滅させる積もりなので、まいっか。目撃者も漏れなくヤク中なので幻とでも記憶して貰えるはずさ。
裏の勝手口から入店。蹴り壊したドアの内側に居た下っ端さんから、ハンドガンを頂戴。頂戴よ!無駄な抵抗は止めなさい!首を捻って落ち着かせた後、地下までのルート案内に従いパーティ会場に乗り込み。
レッツ、パーリーーー。
襲い来る裸の大将たちを撃ち滅ぼし、奥地へ進む。他の異変なぞお構いなしに交わり続ける男女たち。お薬こえぇぇぇ。
ウエイターの顔面をカウンターに強スリスリさせて唸らせた。
カウンター内側に綺麗に並んだ注射器が数十。お薬の元が少々。整理用食塩水のキープボトルが大量に。
上層からお仲間が迫り降りて来ている中。手間を惜しまず、鞄の中の粉と残りの粉&食塩水適量で、白濁の天国切符を作成した。
出来る限りの注射器に混入させて鞄に詰め込む。チュウチュウ詰め詰め。
狂乱状態の女性たちに覆い被さる男たち。無様に上に向けて突き出されたお尻たちに、注射器を突き刺し、こゆい中身を余さずご奉仕して回った。
巡回奉仕を終えて、息つく間もなく上からの増援部隊の対応に追われた。
実に威勢の良い5人の男が、狭いドアを押し合い圧し合い。そんなにコレが欲しいのか?
一番乗りの顎を砕いて、二番煎じに回転手刀を贈る。
「どこの組のもんじゃー」俺はお好み焼きのほうが好きだ。広島もいいけど関西な。
三番手が日本刀を振りながら尋ねて来たので心で答えてあげた。
即席白羽で日本刀を奪取。抜けた顔を浮かべる男の側頭を日本刀の柄で粉砕。
四番手の左足を膝から斬り飛ばし、崩れた所で首を掴み後頭部をカウンターの角と合体させる。そこに五番手がガン射して来た。粘液ではない。硬い弾弾のほうです。
至近距離でも鈍い軌道を辿る弾弾を、この俺が避けられない訳はない。
全弾難無く避けた所で気が付いた。日本刀で弾いたほうが格好良かったなと。
下手に弾いて被害者に当たってもいけないので、これでヨシ!
息のある人たちに、濃い目のアレをご奉仕。服の上から肩肉にお注射を挿入。
後続隊が到着するまで時間が少し出来た。
このビル内には組長さんを含めて、沫吹いたおっさんと被害者除く36名の構成員が居た。
残る実働員は30名。注射器が若干足りない。
応援隊が応援しに来るまでの間に、カウンターの中で追加で濃い目を量産した。
丈夫な鞄、大事だよね。
軽く鼻歌をうた・・・えないので、無言で製造中。ふと被害女性の1人がハイハイして近寄って来ていたので、ルーム奥から清潔なバスタオルを取って来て接客対応した。
「だれ・・・だか知りませ・・・が、助けて・・・れてありとう」呂律が回っていない。酷い状態だ。
「出たら警察を呼びます。上の奴らは潰します。それまでの我慢ですよ、お嬢さん」
「ムビ・・・を・・・け・・・て」
むびお?女性は何かを必死に伝えようと、ベッドの脇のほうを指差していた。震えている。
ムービー!!!俺も戦慄して震えた。
馬鹿か俺は!何を呑気に処方箋を調合しているのか。暇は1秒たりとも無かった。
隠し撮り風のカメラを引き抜き、RECを止めて画面を確認した。
WIFI。恐ろしき4文字を見てしまった・・・。
緊急事態発生。既に納められた本体データは消せばいい。だがしかし!
マップを確認し直すと、一際人が集中する部屋が在った。3Fのサーバールーム。
ルームを潰せば終わりか?いやそうじゃない。この世界はネット社会。
サーバーから他の事務所に送られたら終わりじゃん。
カメラはベッド脇、ブース毎の壁や天井にまでセットされている。非常に不味い。
お注射して回っていた所をバッチリ押さえられている。ほぼ全てのカメラに。
変態仕様の目出し帽のせいで、口元が露わとなっている。痕跡を残してしまうじゃない。
生存者にお注射を施す方針を捨て、階段を駆け上がって3Fの鋼鉄ドアを強制オープン。
弾丸と跳弾が飛び交う雨の中を縫い、1人ずつ急所を仕留めて行く。
日本刀を捨て、ハンドガンで迎撃。残存は心配無い。倒した相手から残りを奪うだけ。
ルームまでに6人を葬った。ルーム内にはまだ6人。
ガラス越しに撃ち込んでみたが、強化ガラスで弾かれた。ここだけ最新かよ!
気合いを入れて、拳で叩き割った。やれば出来る!若干手首が痛いかも。
片割れの師匠。俺には良き友人。硬い甲羅を素手で破る方法を教えてくれて有り難う。
こんな形で役立つとはね。あっちで鋼のシェルを破れたんだ。
こっちの柔らかいガラスが破れない訳が(以下暴論略)
ルームに突入すると、残りのメンバーが腰を抜かしてこちらを見ていた。
実働隊じゃない。表向き用の構成員たちだ。面倒くさ!
「余計な事はするな。今日、生きて家に帰りたければ。データを全部消せ」
銃を向けながら全員に命令した。震えて頷き、素直に従うサーバー要員たち。
PCモニター前に座る彼らの後ろを徘徊しながら作業を見守った。
「救援が来るまでに終わらせろ。ネットで上げた分と監視カメラのもな」
1人目の肩に手を乗せて。
「おーもうすぐ子供が生まれるのか。シングルマザーじゃこの先可哀想だよなぁ」
「ど、どうしてそれを」
隣の男の肩に乗せ替え。
「お前のとこは、3歳になったばかりの娘と2歳の長男。娘が成長した時、パパの仕事はこれでしたって言うの?娘さんグレるよねぇ」
「な、何故!?」
「残りのお前らの素性も知っている。俺は何でも知っているし、各家を訪ねる事だって出来る。死ぬ気でデータを消せ!」
震えながらも目の色が変わり、ペースがUPした。指示してなくても、全員手持ちのスマホを机の上に並べて作業を続行した。
全員何かしらの弱みを握られて、半強制で組み込まれた人たち。
救ってやりたい気もするけど、何処まで出来るかは解らない。
「すみません。メールで飛ばされたデータもあるので、少し時間が」
「取れるならやってくれ。自分たちの分も、下の彼女たちの分も、出来るだけ。その間に俺は上の奴らを殺すか廃人にしてくるから。間違っても逃げるなよ」
「逃げません!逃げても無駄でしょうから」全員の総意のようで安心して部屋を出た。
打たれた薬を除去してやるのは出来ないが、責めてデータだけでも消してあげたい。
このビルは8階建て。大きさの割りに人数が少ないのは、ここへ来る前に所属メンバーの一部を爆殺してしまったからだろう。
組長さんは8Fで停滞していた。逃げる逃げないで揉めているのか、何処から逃げるのかを相談しているのか。
ビル内の残りが7と8に分散して張り付いている。7が多い。俺をそこで止めるらしい。
マップを横目に広域を確認。警察や救急に目立った動きは無い。しかし更に遠方から、同じ組織のメンバーが数隊動き始めていた。
組としてのプライドもあるだろう。間違っても警察に助けは求めない。
稼げた時間は約2時間。お片付けを完了し、逃げ出す序でに警察に地下の人たちを保護して貰わないと。
粉砕された大粒のガラス片を贈答用に、鞄のサイドポケットに認め、廊下で捨てた日本刀を拾い直して、階段を駆け上がった。
途中ゆったりとナイフが飛んで来たので、落とした本人に返してあげた。もう二度と無くしちゃダメだよ。
途中スタンガンを構えた大男が向かって来たので当たってみた。電気風呂並に気持ちが良かった。そういや最近行ってないなぁ。家の近所にスーパー銭湯少ないんだよなぁ。
バッテリーが焼かれる前に、健康を促進してくれそうなマッサージグッズを奪い、彼の健康の為にリミッターを壊して押し当てた。目が白くなる程に気持ち良かったって。良い行いの後にも元気が出る注射を施した。善行尚重ねて良し!
8Fのアクセス階段は7Fを抜けた先に在った。
軽く舌打ちをしながら、狭い廊下でステップを踏んでいると。ズドンと言う大きな警報が聞こえたので振り返る。
弾が散弾していた。ショットガンねぇ。漏れなく日本刀の背で弾き返した。音も威力も範囲も強力ではある。残念ながら、起点近くの位置で捉えてしまえば意外に回避は容易だった。
「こ、こいつ、化けもんかよ」
こないだまで人間止めてましたんで、一概には否定出来ない。
弾き返した散弾が拡散し、撃った本人含めて横に居た人も巻き添えとなってしまった。焼かれるような痛みに耐えかねて気絶した、計3名様に義理薬を贈る。来年のチョコは茜様から貰えれば結構です。
右の壁に刀を深く突き刺して、壁に聞き耳を立てるエロい男を駆除した。
ショットガンを拾い、レールベルトをもぎ取った。もぎたてフレッシュな弾を仕込んで壁と言う壁を撃ちまくった。やべぇ癖になりそう。
7Fの掃除が完了し、同様に弾も尽きてしまったショットを放棄。薬が余る余る。
上の奴らを残して、ダブルであげようと思う。
8Fではまだ組長が右往左往している。その1つ前の部屋に残りのメンバーが構えていた。
逃げも隠れもしないぞと。そんな健気な君たちに贈ろう。
ガラスの礫。
普通の木目扉を蹴破った瞬間に、銃弾の雨が注いだ。お返しに、礫を鷲掴みにしての全力投球。的を絞らず広めに投げた。こちらの手持ちが無くなるまで。
空になる頃に、騒がしい雨も止み、男たちの呻き声が響き残った。
はーい、痛み止めの時間ですよー。怪我に苦しみ藻掻く者に救済を。
只今2倍キャンペーンを実施中。
残り2本は長に納める物だから、欲しがってもあげないぜ。
反応する者無し。
最後の扉を開け放つと、組長さんがデスク前に銃を構えて立っていた。
「おれたちを潰すか・・・。もう逃げも隠れもしないが。1つだけ聞かせてくれ」
渋いねぇ。真っ当に生きてさえいれば、もっと気楽な人生もあったろうに。
「金か、女か、何かの恨みか?」
俺は胸の前に×を腕で作って見せた。
発射された1発目を避け、銃を持つ腕を取り捻り取った。
右手の指先が面白い方向を向いていた。何かの定理が変わってしまう。
強引に腕を引いて股下を広げさせ、中央の頂きを蹴り上げた。彼は二度と子供が出来ないし作れないと思う。
白目を剥きそうになったので、両頬を叩いて起こした。
「頑張れ。そして、受け取れ」
両肩に最後の2本を突き刺し、一気飲みさせた。みんなはヤクハラしちゃだめだよ。
彼のスマホからチップだけを抜き取り、腕を伸ばす組長を振り払い部屋を出る。なかなかの根性だ。それくらいの気概があるなら、人様にご迷惑を掛けてはいけません。
ビル内の構成員で生存者が何人かは居る。お薬の効能の程度は知らないので、果たして正常復帰出来るのは何人だろう。組長さんは良い線行くかもだけど。特濃の白濁を2本も丸飲みして人として戻れるのかは疑問。
3Fまで折り返しサーバールームまで戻った。
全員が青い顔で震えている。何かに怯えているのだろう。温かい毛布でも掛けてやりたいが見当たらないのでスルーしよう。
「出来てる?」予約した商品は。
「上での消去を含めて出来ました。下でのは完全ではないですが・・・貴方は人間ですか?」
「人間だよ、一応ね。切れば血は出るし、針は刺さる。死ねば終わりだし」
「どうやれば・・・至近距離で避けられるんですか!」なぜかお怒りで震えが収まっている。
「まぁいいじゃないの。そんな人も居るって、広い世の中」
「居ませんよ!!」
大合唱になった。彼らは大丈夫そうだな。
「俺の事は忘れろ。で、君たちは自由だ。逃げてもいいけど。組織やお仲間に追われる人生がいいか?お勧めなのは一度警察に捕る、かな」
「これまでの罪を、償えと?」
「それもだけど・・・。内通者の炙り出しがメイン。警察内部にも居るんだろ?中から適当に調べておいてくれ。上層部に居たとしても問題無い。これだけの規模の被害や死傷者を隠せる訳ないし、港の取引会場爆破したのも俺だし。安心してお外の清掃は俺に任せろ」
組長のチップを見せつけて宥めた。
「また・・・何処かで?」
「当然だろ。こんな優秀な人材たちを放置は出来ない。モチ選択は自由だ。強制したり脅したりしたんじゃ、ここの奴らと変わらないからな」
言いたい事は言えたので、部屋を出ようとした。
「ど、どちらへ?」
「下片付けして、逃げるに決まってんじゃん」
「データは遠隔で消してありますが」
「おーナイス!出来る男は違うねぇ。ソフトもいいけどハードもなって?あと、説得」
「説得?」
「下で助けた女の子たちが、何人か。察してやれよ」
「・・・」
無言の返答を見届けて、地下へと走った。
地下室のブレーカーが落ちていた。俺は、間に合わなかった。
最奥の大風呂の中に、4人の女の子たちが浮かんでいた。僅かばかりの自我を取り戻していた子たち。
きっとこの先の人生を悲観したのだろう。
浴槽に張ったぬるま湯に、剥き出しの電気配線が入っている。反対の先はコンセントに刺さっている。ドライヤーか何かのケーブル。彼女たちの決意が窺えた。
残りの女性たちは気絶している。幸か不幸かは・・・知らない。
浴槽の底には血塗れのカメラが数個沈んでいた。頑張ったんだな。
「データ。ちゃんと消してくれたってさ。この責任は、いつか必ず取らせる」
ピリピリと床の水滴から伝わる残留電気。まるで彼女たちの意志の残り香のようにも感じた。
生存者が居なければ、残りのC4で散らしてもよかった。
着ていた衣服と靴を鞄に詰め込み。寝ているおっさんたちの衣類の籠中から、見繕って着替えを済ませた。
財布から紙幣だけを抜き取り、同じく鞄に詰めた。身分証を確認する必要はない。
おっさんの中に1人だけ居た。代議士・・・。児童養護を謳う政党のお偉いさんだ。
「この!クソ野郎がぁぁぁ!!」
脂肪をたっぷりと蓄えた横腹を、力の限り蹴り上げた。何個かのブースの壁を突き破って止まる肉片。救いようがない。救う積もりもなかった。
彼女たちの悲しみを、そのまま置いてビルを出た。
組織のお友達も、警察もまだ来ていなかった。遠方からサイレンが近付いている。
上の誰かが呼んだのだろう。絶妙なタイミング。
出口付近に人影は居ない。このビルの特性上、不用意に近付く迷子は居なかった。
近隣の防犯カメラに注意しながら、俺は家路を急ぐ人の波に潜った。
茜が待つ家に。頼む、今日だけは俺の我が儘を受け止めてくれ。
隣で眠る彼の前髪を弄って遊んだ。
気怠さはあるけどまだ眠くはない。今日は一段と激しかった。
ゴムしてくれなかったし・・・。泣きながら押し倒されたら、断れないじゃん。
結婚前なのに、もう子供みたいだ。
今日は彼の初仕事の日。返り血塗れの衣服を抱えて、無事に帰って来てくれた。
それだけで充分。何も聞かなくても解ってしまう。
衣類は遠方に旅行にでも行って燃やそう。普通ゴミには出せない。
やっぱり剛はいつまで経っても泣き虫さん。
彼の胸に頭を乗せて、天井にマップを開き、彼の成果の一部を確認した。
大勢死んで、救えたのは数人だけ。
余計な責任を背負っちゃうのは、彼の癖なの?
「全部なんて無理なのよ、バカ剛」
ちょっと固めな頰肉をフニフニしてマップを閉じた。
少しくらいなら、持ったげるからさ。私にも、助けさせてよ。私以外、居ないんだから。
この世界に仲間はまだ居ない。これから先も解らない。
香ばしい火薬の匂いと血生臭さの中にある、剛本来の匂いを嗅ぎながら、彼の腕に頭を預けて目を閉じた・・・。閉じ・・・、閉じ・・・!!!
飛び起きて、彼が持ち帰った鞄を開いて臭いを嗅いだ。
「バカ剛!起きろ!」
「・・・ん~、なに?明日も朝からバイトだぞ」
「臭いのよ、あんた」
「?汗?脇?」脇の臭いが気になったのか、腕を上げてクンクンしている。
「違うって!そっちは寧ろ好き。じゃなくて、火薬の臭いだよ!」
「・・・あ・・・ああ!!!」
いつも詰めが甘いのも、彼の悪い癖?
2人して翌朝までシャワーと浴槽に入り浸り、お清めを繰り返した。
「ったく。何処を歩いて来たか詳しく教えて。後日確かめに行くから」
「す、すまん・・・」
なかなか人間成長って出来ません。
硝煙は簡単には消せません。
と言うお話です・・・ありゃ?
職質受けなくて良かったね。