一
手を開けると、天井が映った。
ごめんなさい、そう思った。何時からか起きるとそう思うようになっていた。
もう一度目を閉じ、もう一度開く。
やはり天井が映った。
しかし何故か不自然に思えた。
何か違う気がした。
きっと何か夢を見たのだろう。
天井が見えるのなんて当たり前だ、床に寝ているのだから。
起き上がって、すぐ横を見ると父がこちらを見た。テレビを見ていたようだ。しかしすぐに私から目線を逸らした。
先程の言葉、撤回しよう。
やはり、父は私の事など見えていない。目の中に入らないのだ。まるで一種の病気のように。いや、病気なのは私なのかもしれないが。
ゴミ袋が高々と積まれた部屋の中で、私はなるべく静かに、音を出さないように着替える。
そんな事はもう当たり前で、当然の如く毎日同じ様な反応を得られる。父に関しても、勿論私に関してもだ。
私の毎日は単調だ。
朝起き、そしてまた寝る。
それだけの繰り返し。
食事は1日1回。
それだけで事足りるのだ。
私の、一般常識にかけた頭ではそれが普通なのかは分からないが。
「おい、うるさい」
「ごめんなさい」
冷たい声で、外出を促された。
あと5分でも家に居ようものなら平手打ちが待っているだろう。
とにかく、私は父に怒鳴られないように外へ出た。
今日は土曜日なので、学校はない。
一応、名目上は学校に通っているがそれはやはり名目上で、勉学に励む為日々通っている訳では無い。
父から、高校にはいかせてやる。なんて言われたので行っているだけで、私は別に高校になんて興味は無かった。
生まれてからこの方、私が何かに関心を持ったことなどあっただろうか。さて、そんな事分からない。
外は生憎の晴れで、強い日差しが私を貫く。
黒い髪に日光が反射し、だんだんと熱がこもってくるのが分かる。
出来るだけ日陰を歩くようにしていたが、しばらくなると面倒臭くなってきて止めた。
10分くらい歩くと、いつもの公園に着いた。
ここが私の、父から怒鳴られない為に外へ出る場所の1つだ。
私はいつものベンチに腰をかける。やはり、日光のせいで腰に温もりを感じる。
もう昼前だと云うのに、人っ子一人いない。
いつもは誰かしらはいる筈なのに。あまりに不自然だ。
まぁ、いい。
誰にも迷惑をかけないのだから、案外良かったのかもしれない。
私はいつも言われる。
迷惑だ、って。
かなりの人数に言われた筈なので、私はかなり迷惑なのだろう。
居るだけで迷惑。
「居るだけで迷惑なら、なんで生きているの、私って」
ぽそりと呟いた。
そんな小さな言葉、風邪が攫ってくれる筈だった。
しかしその瞬間、日光よりも眩しい光が私を包んだ。
それは不自然では無かった。