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謀略

 エリーナは、アシェリィの置かれた状況を聞き、血の気の引いた顔をしていた。

「それは、なんとまあ……」

「俺としても苦肉の策なんだけどな」

 一時間、パステルに付き合うことを対価にお願いごとをしたわけだが、今も後悔の波が襲っている。

アシェリィ対してではなく、パステルに頼んでしまったことにだ。

きっとまともな精神状態ではいられないだろう。

「かわいそうに。アーシェ、強く生きろよ」

「それを望んだ本人が何か言ってますね……」

「はは、気のせいだ、オーラだけに」

 ネタをパクったところで、怪物と遭遇。

 骨身の戦士、スケルトンのご登場だ。その身は竜の牙を材料に召喚されると耳にしたことがある。しかし、こうしてダンジョンに沸いているのを見ると信憑性も怪しいものだ。

 人骨らしからぬ刺々しく、角張った骨身からは邪悪な黒いオーラが湧いている。

「奴に魔法は効きにくい、俺がやろう」

「分かりました、でも危険そうだったら援護します」

 リュートは身体強化魔法をその身に宿す。

 相手のスケルトンは皆、丸盾とブロードソードを装備する兵士だが、リュートは拳打で挑む。

「カタタ」

「フッ」

 生身が骨を砕く鈍い音。

 頭を粉砕されたスケルトンが脆く崩れ去る。

「ま、」

 リュートは回し蹴りでもう一体のスケルトンの体をバラバラに吹き飛ばした。続けざま、着地と共に一歩踏み込んでもう一打、反対側にいた骸骨戦士に対応した。

 一仕事終えて息を吐く。

「近中遠のバランスの取れたパーティならこの通りだな」

「私の知ってるブースト使いの格闘家さんと違うんですけど……」

「み、皆こんなもんだろー?」

 秘密の一部であるオーラ操作技術を怪しまれ、冷汗が頬を伝う。

 貴族の護衛として雇っている剣士や格闘家でも、リュートほどの身体強化魔法の技術は持っていない。もっと魔力が均一的に使われているとでもいうのだろうか。とにかく一般には、身体を万遍なく魔力で覆うのが身体強化魔法であるはずなのだ。

 だが。

 オーラを見ることが出来るからこそ、身体強化で使う魔力を精密に扱える。例えば、筋力を使ったり、拳がインパクトしたり、攻撃を防御したりする瞬間、そこに魔力を集中させる。

 人が無意識におろそかにしている箇所を、意識的に行っているのがリュートだ。

(だからこそ、俺しか使ってないオーラ操作技術を模倣したパステル先生はバケモンだと思うけど……)

 日常生活から人間的な性格にかけて欠陥があり、ダメ人間の烙印を押されるような人物。それでも戦闘関連の才能において、パステルの右に出る者はいないだろうと思っている。

 裏を返すと、それだけパステルという人間がダンジョン攻略と人材の育成の両面で重要なファクトを担っていることを表す。

 だから、リュートとしても学院側に強く出にくいわけで。

「しかし、占い中に後ろから奇襲するのはやめてほしいもんだ……」

「何か言いましたか?」

「いいや、なんでも」

 すでにリュートの中でのパステルの見切りはついていた。一生かけてもあの人格は強制できまい。

「それにしても二人でもなんとかなるもんだな。あ、左通路からリザードマン。エリー、氷系魔法をよろしく」

「あ、はい!」

 さらっとオーラで判断するリュートから、絶対の安心感を貰っていることをエリーナは知らない。薄暗い洞穴で、接敵を前もって知り、先制の一撃を放てるアドバンテージがどれほど凄まじいことか。

 後手に回ることのない《オーラシー》の真価を、エリーナが本当の意味で理解するのは、まだまだ先のことである。

 氷魔法で動きの鈍ったトカゲの戦士を手刀で切り裂いた後、リュートはカバーナックルを確かめながら鋭く言い放つ。

「そろそろ出てきてもいいんじゃないのか? なんだっけ、タラシ副会長?」

「タラシじゃない、ダラスだ。二度と間違えるな学院生の恥さらしが」

 つけてきていたのは副会長のダラスだった。

 その気になれば撒けないことも無かったが、監視役の可能性を排しきれず黙っていた。

 その推測も、憎悪と嫉妬のオーラをまき散らすダラスには無縁に感じられるが。

(一応のこと、覗いておこうか)

「そうそう」

 オーラの深層から情報を読み取ろうと集中を始めてから、ダラスはにやけ面を曝した。

「私は頑張るお前たちに、プレゼントを教えに来たんだ」

「プレゼント?」

「よせエリー、話を聞くな」

 緑と黒の混相から読み取れるのは――殺意。

そして、読み取れる思考は。

(ククク、このまま《カオスネスト》第二層の試練の関門まで直行だ)

 考えうる限りの最悪だった。

 相手のオーラに変化がなかったので、リュートは隙を突かれてしまう。

「学院会副会長の権限において《カオスネスト》に命ずる、この者たちを試練の間へと導き給え」

「な……!」

 職権をなんだと思ってやがる、と叫ぶ間も無い。

 リュートたちを支えていたはずのダンジョンの床は、敷物のようにめくり上がり――二人を拉致した。

「お、お前たちが悪いんだ、お前たちが、ケケケ」

 もしリュートが罠に嵌らなかったなら気づいただろう。ダンジョンの壁から、ダラスにどす黒いオーラが纏わりつくのを。

そこには、狂人のようにケタケタと笑うダラスだけが残った。


「ふう」

「ぷはっ」

 リュートたちは息苦しさから解放され、《カオスネスト》の岩肌を再び目にした。

「直接殺しに来なかっただけましだな」

「あ、ああああ、リュートさん……」

 平静を失わないリュートと怯えたように後ろに回るエリーナ。

「っち、関門もきっちり閉じられてやがる。さあて、どうしてくれるかあの副会長……その前に、お前もか」

「カ、カカ。生者、生者」


《カオスネスト》第二階層、試練の関門、スケルトンを統治する白き巨骨の支配者。


「不死の王、デッドリーワイト……やるっきゃねえみたいだな」

 さきほどから第一階層の紋章を起動させているが、効果が発揮されない。そもそも第二階層でこの紋章は使えないのだろう。

逃げ場はない。

「私の……私のスキルのせいで、こんな場所に飛ばされてしまったんですね」

 エリーナは《運命力》が作用したのではないかと酷く気にしていた。

さもありなん。

しかし、リュートは。彼女を責めたりしなかった。

「なに言ってんだ。だったらむしろ好都合じゃねえか」

「なんでですか! たった二人ですよ! 二人で階層主と戦うなんて、それも逃げられないんですよ!」

「上等だよ。なあ、エリー。こいつはくだらねえ運命様……そう思ってみろ、腹立たねえか?」

「…………ません」

「んー? 聞こえないなあ」

 リュートはわざとらしく訊き返した。

 その言葉にカチンときたのはまず虹色のオーラ。

「私は、運命になんて負けませんし、そもそも信じてませんから!」

「はははっ、その意気だ!」

 無属性、身体強化魔法ブーストの詠唱を終わらせ、戦闘態勢に入る。

 エリーも落ち着きを取り戻し、錫杖を掲げていた。

「にしても、エリーの《運命力》も手加減してくれないもんかね?」

「だから私は運命なんて信じません!」

「はいはい」

 こんな状況でも腹を立てるだけの余裕はあるらしい。

 頼もしいことだ。

リュートはクスリと笑みを浮かべつつ、デッドリーワイトに《オーラシー》の瞳を向ける。

「ダラスもそうだが、お前ら俺を舐めてんのか?」

 温厚な性格であると自負しているリュートも、イラつくことはある。それが普段の学院生活の怠慢から来ているとしても、苛立ちはぬぐえるものじゃない。

「テメエにも骨の髄まで《オーラシー》の魔術師って奴を教えてやるぜ、骨野郎!」

「私だってこんなところで終わりたくありません!」

 撤退不可のダンジョン攻略が幕を開けた。

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