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アシェリィとの決闘

 決戦の舞台に上がるリュートとアシェリィ、それと二人の戦いの審判を務めるパステル・ザラトーラ女史。

 パステルはリュートたちの担任だ。背は初等部の子供ほどしかない。紫陽花色の鮮やかな長髪に、あどけない表情。どこかのお姫様のようだ。しかして、その本性は対人戦大好きのバトルジャンキー。

 ロリ教師は楽しそうに、相互確認を行う。

「では、決闘を始めまーす。両者とも先生をワクワクさせてください」

「パステル先生……ふざけないでよ」

そう注意するアシェリィの声は苛立っていた。

「リュート・オズ。あんたがどんなにあがこうとこの戦いは一瞬で終わるわ」

「興味深い占いだ。なんなら俺も一つ、《オズのオーラ占い》の店主として一言くれてやろう」

 事の元凶に向かって笑みを浮かべるリュート。

「お前のオーラ、濁ってるぜ?」

「……意味わかんないっ!」

 ぷいと顔を逸らす。意味不明な発言を受けて相当にご立腹のようだった。

 そろそろ決闘の時間が差し迫っている。観客席は野次馬でいっぱいだ。

その中にはエリーナ・アルベーヌ・テレンスの心配そうな表情もある。

(幼馴染が争う姿なんて見たくねえよな)

 リュートはため息交じりに尋ねた。

「本当に、やるんだな?」

「ええ、当然よ」

 位置に着いた時点で、パステルが声を上げる。

「ではあ、勝利者の権利の確認をしまーす。アシェリィ・ファノーラ・グレイドさんは「リュート・オズのエリーナ・アルベーヌ・テレンスへの今後一切の接触を禁止する」。リュート・オズは「法の範囲内で何でも言うことを一つ聞いてもらう」でよろしいかなー?」

「問題ありません」

「問題ねえな」

 リュートの要求は抽象的だったが、決闘を申し込まれた側なので問題ない。それだけリスクのある決闘をアシェリィが吹っかけてきたことはほとほと疑問だった。

「両者、構え」

「「……」」

 決闘場の二人が構え、視線で火花を散らし合う。パステルは喜色の含まれた合図で決闘の幕を開く。

「始めえ!」

「炎精集い、敵を穿て」

 速攻を決めたアシェリィが詠唱を始める。魔法の発動に必要な魔法言語を読み上げ、学生服の内に手を伸ばす。

取り出したるは一振りの刃。

(短剣型の魔装具……!)

 魔法は無から有を生み出せない。使うには、触媒となるものが必要だ。アシェリィの場合はそれが魔法科学技術の粋が集められた短剣だった。

「フレアシュート!」

 魔法名を完成させれば、短剣の先から豪炎が飛び出した。

「おいおい、殺す気か!」

 炎系魔法初級、フレアシュート。もともと人間くらいなら飲み込んでしまう威力があるが、それにしても殺意満々に撃たれていた。

 服を焦がしながら回避したリュートは、オーラが不自然に湧き上がっていたのを見逃さない。

(中級魔法の威力に迫るものがあるな。魔力量の込め方が異常だ……!)

「お前、スキルホルダーだな」

「……っ!」

 若干こわばった表情とオーラが、質問に是と応えていた。

「ならどうしたってのよ! 炎精集い、敵を穿て、フレアシュート!」

 アシェリィは隠す気がないのか、続けざまに特大のフレアシュートを放つ。

 対してリュートは指輪型の魔装具に意識を注ぐ。

「いや、それなら俺も遠慮しない。水精集い、敵を穿て」

「は? 同じ初級魔法で私のフレアシュートが打ち消せるとおもってんの?」

 そう、発動するのは何の変哲もない水系魔法初級。

「――アクアシュート」

 そこそこの魔力量が込められた水弾。それは何倍もの質量を持つ炎弾に衝突した。

「ほら……えっ?」

「ところがどっこい、俺には相殺できちまうんだな」

 自信満々に勝ち誇っていた顔が凍り付く。

 消滅させてなおリュートを襲うはずだったフレアシュートは、逆に打ち破られてしまったのだから。

 弱まったアクアシュートが着弾し、乙女の学生服を濡らす。

 少し透けた衣服に観衆が沸き起こった。

「くっ……どういうことなの!?」

「どうもこうも弱点属性の魔法で攻撃したんだ」

「それが出来るはずないから驚いてるんでしょ!?」

 アシェリィは自分の魔法に絶対の自信を持っているのだろう。地団駄を踏んでいる。

 それを、観客を俯瞰する奇術師のような気持ちでリュートは見ていた。


パステル・ザラトーラ。スリーサイズ、年齢は不明。特技は近接魔法戦闘。子供姿で魔法を打ちながら、得意の鎌型魔装具を振り回す女教師である。

パステルは知っていた。

 リュートがスキルホルダーだということを。

 さらに言えば、パステルは《オズのオーラ占い》の数少ない常連客であり、リュートのことは彼女なりに理解している。

(グレイト家のお嬢さんは知らないかな~、リュート君のスキル)

 魔法力が小さいアクアシュートが、弱点属性とはいえ魔法力で格上のフレアシュートを破る。世間一般の魔法師が見たらたまげるどころの話ではない。

(《オーラシー》、自他の総合的なステータスをオーラとして可視化する)

 以前、のほほんと言われたことがある。

「オーラと魔力は密接に結びついているから、攻撃を察知しやすい。オーラの薄いところは、そのまま弱点になる。だから俺と戦う時は気をつけな、センセ」

ちなみにパステルは良いようにあしらわれた。そこからリュートにベタぼれだ……突発的なゲリラ戦闘を吹っ掛けるという意味で。

 リュートが《オーラシー》の魔術師と呼ばれているのを、パステルが知るのは、そのすぐ後だった。


「どうして! どうして、私の魔法が!」

「……種明かしがほしいなら、負けを認めろよ」

「誰が!」

 アシェリィは未だにフレアシュートを打ち続けていた。ここでリュートにも焦りが出始める。

 表には出さない物の、アシェリィの圧倒的な魔力保有量の攻略に難儀していた。小細工が通用しにくいのである。

(魔法の使用回数から考えて、あいつのスキルは魔力を貯めておける系統か……なら魔法の打ち合いは避けるべし)

「四肢に漲れるは力、ブースト」

 無属性に分類される筋力増加の魔法が、躰に反映されていく。

 リュートは縮地を極めた達人の動きで、アシェリィに肉薄する。思考停止したアシェリィの腕を取ると、緩急をつけて足を払い、バランスを崩して投げ飛ばした。強化された投げは、軽い少女を空高く打ち上げた。

「きゃああああああ!?」

「俺はこういう芸当も出来るんだよっ!」

 投げ技を繰り出しながら「ま、我流だけどな」とぼやく。実際、リュートに師と呼べる者はいない。そもそもそんなものは習っていない。

 すべて、今まで戦ってきた戦士や格闘家のオーラの流動を自分の動きに反映しているだけだ。

言わば、コピーのような代物をごちゃごちゃに混ぜたキメラ武術。そんな劣化模造の玉石混合技術でも、学生レベルなら十分すぎるほどに通じた。

空から落ちてくるアシェリィと一足先に届く彼女の悲鳴。

「た、たすけてええええ!」

「あ……? もしかして」

「彼女、高所恐怖症かもね?」

 あっけらかんと審判を勤めるパステルが考察していた。

「風魔法でクッションを!」

「ひいいいいいいい!」

 無理そうだった。

「しかたねえな、後で文句言うなよ!?」

 もはや決闘など無意味だと悟り、急いで落下点に走り出すリュート。

「うおおおおお!」

「アーシェ!」

 決闘場に二人の少女と一人の青年の叫びが木霊した。



(さーて、俺はどうすればいいんだろうか)

 放課後の教室。

視線の先にはつむじがある。

リュートは所在なさげに立ち尽くす。

「もう頭上げろよ」

「今上げたら自分の情けなさで死にそうなのよ」

 頭を下げ続けるアシェリィは、お察しの通り決闘に敗北した。それも敵に助けられるという屈辱的な形で。

「俺が居たたまれないから止めてくれ」

「それは勝者の命令?」

「んなわけねーだろ、それはそれ、これはこれだ」

「ケチ」

「んだとコラ」

 ようやく視線が合ったと思ったら、二人はガンを飛ばし合う。身分の関係性が薄くなる学院内でしか見られない非常に珍しい光景だ。市井でやろうものなら、リュートは牢屋送りにされるだろう。

「はあ……なら、あたしは何をすればいいの? まさか脱げとか……」

「おま、マセてるにもほどがあるだろ!」

 肩を抱きかかえる仕草はやめてほしかった。

「そうだなあ……なんでも聞いてもらうとは言ったけど、それは口実っていうか」

「やっぱり、あたしを襲う口実を」

「そっちの思考から離れろ」

 話をぶり返すな、と忠告を入れると黙った。

 リュートがアシェリィに求めるものは一つだ。

「お前のオーラがさ、濁ってたのが気になったんだよ」

「ああ、何か意味不明なこと言ってわね。何かのジョークかと思った」

「ジョークじゃねえよ。俺には《オーラシー》っていう立派なスキルがあるんだよ」

「ああ、パステル先生が言ってたオーラを見る力……」

 アシェリィは半信半疑のようだ。

「信用できないなら、この場で《オズのオーラ占い》の店主である俺が占ってやろう」

「へえ、何を?」

「もちろん、今日のパンツの色だ。朝飯前だぞ、ああもう夕食時だったか」

 ゴンッと鈍い音と共にげんこつが降った。

「まじめに占いなさいよ」

「……いつつ、へーい」

 こぶをさすりつつ、リュートは燃え盛るようなオーラから膨大な情報を読み取る。

「ふむ……なるほど、分かった」

「嘘よ」

「何を言う、俺には全部お見通しだぜ」

《オーラシー》は何も魔力的な要素だけ読み取るのではない。感情の乱れ、本人の心を構成する土台、もろもろだ。

「ズバリ、お前は俺がエリーナと話しているのがうらやまうがっ!」

「この変態、覗き魔! 誰がそこまで言えって言った!?」

「だからって本投げるなよ!」

 リュートは言論に疲れて、窓際に腰かける。

「ま、嫉妬に狂う女の子のオーラなんて見たかなかったってことかな」

「キモイ」

「……」

 精一杯格好をつけたのに、と窓際で震える。

「ああもうキモくて結構だ。とにかく、俺の命令……っていうか頼みは一つだけだ。エリーナを、支えてやれ」

「なんでエリーが出てくるのよ」

「エリーナが怪我させちまったっていう親友はお前のことだろ? あいつ、そのことをずっと悩んでた。なら、お前にしかエリーナの不安や悩みは取り除けないだろう?」

「……」

「それに自分のお客が、頭を悩ませてるのを見てるのが嫌なんだ」

 我ながら青臭いセリフだった。気に掛ける理由は、自分のお客様であること以上に、エリーナがリュートに友達だと言ってくれたこともあるかもしれない。

「占い師っぽいこと言ってる」

「俺は占い師だって言ってんだろーが」

 アシェリィの頭にチョップを落とす。

「……」

「うう……でも、そんなことでいいなら一生連れ添ってあげようじゃない」

 チョップの撃たれた頭をさすりながら、胸を張るアシェリィ。残念かな、張る胸はない。

「どこ見てんのよ」

「胸」

 チョップし返された。

「人が気にしていることをあんたは……!」

「すまんな、占い師の性だ。ふああああ」

 そこで眠気を感じて欠伸を一つ。

「話は終わりだ。エリーナと仲良くやってくれ」

「あ、ちょっと」

「なんだよ」

 面倒そうに振り返ると、アシェリィがもじもじと何かを渋っていた。

「明日もよろしく、リュート」

 こいつエリーナの《運命力》に俺を巻き込むつもりか、と戦慄する。

(でも、それも悪くない)

「ああ、よろしく、アシェリィ」


 ぷらぷら手を振りながら教室を去るその姿を、廊下の隅から見る影があった。当然、虹色のオーラがチラチラ見えているので、リュートにわからないわけがない。


(幼馴染が心配だったか? 可愛いところがあるじゃねえか)

 リュートの思い込みは半分当たり、半分外れていたが、それを指摘する者はいなかった。



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