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学院最強


 第二階層も中盤に指しかかろうというときだった。

「それにしても会長は強いんだね」

「まあ、一応学年主席だし、なにより僕は学院会会長だからね。それに、学院会メンバーなら誰だってこれくらいこなせる。だからこそ、アシェリィちゃんたちにダンジョン攻略をしてもらう必要があったのだし」

 話に聴くと学院会の役員は、全員ダンジョン攻略者らしい。一年生は学期後半から見習いとして入会する規則だったのを、無理に捻じ曲げたのが今回の案件だということ。

「まあ、リュート君なら《カオスネスト》攻略できると僕は確信しているよ」

「ふ~ん、でも会長、全然リュートのこと知らないじゃない」

「そうでもない。なんたって彼は…………アシェリィちゃん、ストップだ」

「はい?」

 急にライラが進行を止めた。その視線は、先の曲がり角に送られている。

「隠れて待つのはやめたらどうだい……ダラス?」

 呼ばれたのは学院会副会長の名だ。

 二人の視線が集中する曲がり角から、にたにた笑うダラスが姿を現す。おぼつかない足取りだが、ダラスの青い瞳はしっかりとライラを捉えていた。

 しかも右手にはレイピアの鞘を握り締めている。魔装具まで持ち出して、随分と好戦的な格好だった。

「……ひっ、ひひ、会長~」

「また気色の悪さに拍車をかけたな、ダラス……会長として嘆かわしいよ」

「えへえ」

 ダラスは容赦ない物言いにもまったく動じない。ライラの知るダラスは、一度突き放すとショックで立ち直れないような人物だったが、なにかが彼をおかしくしているらしい。

 しかし、ダラスの状態がおかしかろうと、訊きたいことは山ほどあるのが実情だ。

「リュート君たちをどこにやった?」

「リュートォ?」

 空ろな瞳で虚空を見つめるダラスは、一変騒ぎ出す。

「あいつなら俺が殺してやりましたっ! 今頃デッドリーワイトの下僕にでもなってますよォ! はははは!」

 まるで躾けられた犬のように、ダラスは褒めて褒めてと言わんばかりだった。

「なんてことしてくれてんのよ、この変態!」

「俺は学院会に……会長にとって正しいことをしたんだ! 外野はすっこんでろォ!」

 今のダラスには、自分の完遂した仕事への充足感だけが感じられているのだろう。典型的な愚か者の姿だ。

 しかしながら、その訴えは肝心な人物には届いていない。

「なるほど、つまり君は彼らを第二階層の試練の関門に飛ばしたわけだ」

 トチ狂った副会長には触れようともしない。ただただ事実を確認する学院会会長としてのライラがそこにいた。

「なら、今すぐにどいてもらおうか」

「ダメッ、ダメですっ!」

 俊敏な動作で細剣を抜き放ち、ダラスは子供のようにわめきだした。思考退行してしまった副会長に口論の余地はない。

「聞き分けのない……部下だっ!」

「おっとぉ!」

 目で追えないほどの速度の鞭先だろうと、ダラスは気持ちの悪いステップで避けてみせた。

「くっ、炎精集い、敵を穿て、フレアシュート!」

「はっはあ、アクアシューット!」

 アシェリィが威力を抑えたフレアシュートは、ただの無詠唱魔法で相殺されてしまう。おそらくはダラスの魔法の技量が高いことも原因の一要素だろう。

 腕と足を揃えて走るダラスに、若干引きつつもライラは前に出る。しなやかな鞭を一動作で巻き取り、腰に取り付ける。

「まったく、仕方のない副会長だなあ……」

 ライラは艶めかしく太腿に手を馳せる。そこに巻きつけられたベルトには、五つの鉄棒が収まっている。どうやらこれも魔導具らしいが、アシェリィには用途がまったく分からなかった。

 一息で五つの鉄棒を抜き取り、連結。五節からなる鉄の杖が、ライラの手元で完成した。

 滑らせるように定位置に構えられた鉄杖が、凛々しくライラを映えさせる。

「かあいちょおおお!」

「まあしかし」

 ライラは無詠唱で身体強化魔法を使い、ダラスの懐に飛び込んだ。

 そして、豪快な一突きを浴びせる。

鉄杖は見事ダラスの鳩尾にめり込む。

突けば槍。

「うげえ……」

「僕も君を甘やかしすぎたよ」

 えずきながら距離を取ったダラスに、追撃で容赦なく右袈裟に薙ぐ。

 鉄杖が左鎖骨を砕いた感触が両手に伝わる。

 払えば薙刀。

「が、がいちょおおお!」

 左半身が右半身の動きにマッチしていないにもかかわらず、ダラスはレイピアを突き出した。

 だが、ライラは狂ったダラスを冷静に対処する。両手でしっかりと中段に構えた鉄杖で、レイピアの先を逸らす。

「一度、頭を冷やすといいよ」

 ダラスは勢いのままライラの横を駆け抜けていく。そして、ライラは身を反転させ、無防備な背中に一太刀。

持たば太刀、杖はかくにも外れざりけり。

雷撃のように鋭い一撃は、ダラスを昏倒にまで追い込んだ。

千変万化の顔を見せる杖の攻撃軌道は、たとえダラスが正気だったとしても見切れまい。

使い手のライラの技術をもってすれば、いかようにでも相手を騙し、虚実の織り交ざった攻撃繰り出すことが出来るのだ。

「お、あ……」

「流石はダラスだね、まだ意識があるか」

「う、がああああ!」

 最後の悪あがきで滅茶苦茶にレイピアを振るうダラス。

 だが、ライラは冷徹に対処する。

「ふむ……」

 鉄杖はライラの魔力に呼応し、各節から鎖が伸び鎖状棍となる。ちょうどヌンチャクのような形か。

「はっ!」

「がっ……」

 棍の頭節の一撃で頬を殴られ、節目を繋ぐ鎖で刃を絡めとり、尾節でレイピア型の魔装具を根元から叩き折る。

 あらゆる武装、多種多様の魔法を使いこなし、遠中近の戦闘術のスペシャリスト。それが、ライラ・トゥルー・アトレーが学年主席とされる所以。

 武装を繰る手が止まらない。

 一撃一撃は的確に急所を捉え、着実に相手のココロとカラダを折りにいく。ライラの気の済むまで、五節の棍でいたぶられたダラスはどこか幸せそうに気絶するのだった。

「おやすみ、ダラス」

 空中で分解された鉄杖は、再び太腿のホルスターにしまわれる。その姿は十代後半の齢にして、色香を纏うには十分で、ダラスがライラに心酔してしまうのも頷けるくらいだった。

「会長、すごい……」

 アシェリィは目で追い切れず、興奮冷めやらぬといったふうだ。そしてやられっぱなしだったのに、幸せそうに失神しているダラスに引いていた。

「おまたせ。邪魔な副会長は仕置いたから、あとはアシェリィちゃん一人で行くんだ」

「へ?」

 ライラは失神中のダラスを手持ちの鞭で縛りつつ、あっさりと言った。手元の動きが馴れているあたり、よくダラスを鞭で縛るのかもしれない。

「当たり前だろう? 僕はあくまでダラスを止めに来たんだからね。ついでにダンジョンの異常が治れば言うことはなかったけど……やはり根本を叩かないとダメらしい」

 ライラはダンジョン操作権限を使おうと思念を集中していたが、案の定、操作は拒否されたようだ。

 ダラスを外に連れて行くこともできないので、ライラはここで居残りということなのだろう。

第一階層と第二階層も今は一方通行。パステルに頼ることもできない。

 ここからはアシェリィが主役だった。

「なあに、マギア王立学院の学生なら、この程度のピンチ……切り抜けられると、僕は信じている」

 ライラは横顔で微笑んで見せる。根拠のない信頼だったが、それが彼女のカリスマとなって溢れているのだろう。

 ならば、アシェリィは彼女の後輩として応えねばなるまい。

「もちろん! ……あ、そうだ会長」

「ん?」

「さっきの、なんたってリュートは……の続きは?」

 その疑問に、ライラは思い出したように「ああ」と呟いた。

「なんたって、彼は――《オーラシー》の魔術師だからね」

「はあ……?」

 やはり意味が分からない、という顔をするアシェリィ。苦笑するライラの顔が少しだけイラついた。

「ふふ、そのうち本人に訊いてみるといい」

 会長はそれっきり、壁際に寄りかかって休息を始めた。もう動くつもりはないらしい。考えてみれば、狂っていたとはいえ学院会副会長であるダラスの相手をしていたのだ。それなりに消耗もしよう。

「むー、まいっか! じゃあ、私は二人を助けてくるから!」

「ああ、行っておいで」

 持ち前の元気と明るさは、アシェリィに深く思考させることを止めさせた。

 陽気に腕を振って駆け出した少女に、ライラもまた手を振って応える。

「……無事に帰って来るんだよ。三人ともね」

 かすかに微笑んだライラは、魔装具の手入れをして精神統一をし始めるのだった。


 アシェリィは短剣を手に駆け出す。

 目指すのは第二階層試練の関門。

「二人とも、今行くから!」

 目の前にスケルトンが三体現れるが、アシェリィは億したりしなかった。

「カカッ」

「邪魔っ!」

 走りながらの詠唱でフレアシュートを放つ。

 爆炎が舞い散り、真ん中のスケルトンが灰と変わった。以前とは比べ物にならない胆力だ。

 小柄なのを生かして、アシェリィは中央を試みる。スケルトンの大振りな剣が制服を掠めるが、甚大な被害もなくすり抜けに成功。

「カカカッ」

「バーカ、あんたたちなんかに捕まるか!」

 骨戦士の怒りの声が木霊するが、アシェリィが止まることはなかった。

「絶対に助けるんだから……!」

 少女は、立派に戦士として成長を遂げていた。


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