文化祭(その6)
静香が脱力して言った。
「綾乃ちゃん。あり得ないわ。あなた、霊力が増してるの」
ガックリと肩を落とす私を、三人が慰めてくれた。でも、顔が笑っている。そんなに面白がらなくてもいいやない。
松村にあげても、中島や小西にあげても、私の霊力は減らなかった。
どうやら、私の霊力は私を気に入っていて、取り憑いているつもりらしい。そういえば、『しゅけん』に大量に奪われた時だって、二週間ほどで回復してしまったっけ。
半年間、この力をなくしたいと悩んだ。でも、力が私を離さないのだ。
仕方がない。諦めて、魔女として生きて行くしかないみたいだ。
でも、この年で人生を決められてしまうなんて面白くない。もっといろんな可能性を探ってみたかった。もっといろんなことをやってみたかった。将来の職業が魔女に限定されるなんて、全然っ面白くない。
あ、魔女って副業っていうか、本業を持つことができるんだった。
前に安本先生が魔法使いの使命と抵触しない限り本業を自由に選んでもいいって言っていた。ただ、恋愛や結婚の対象が魔法使いに限定されるだけだ。
って、恋愛対象や結婚相手を魔法使いに限定するなら、もっといい男をたくさん用意しろってんだ。
魔法使いの男って、パーフェクトに屈託があるっていうか、野心があるっていうか、とにかく普通じゃない。生殖行為の対象としてしか見ていないのだ。
力が上の魔女を妻にすると、優秀な子孫を残せるって言うけど、私は子供を産むための道具じゃない。そんなことだけのために生まれ来たって言うなら、私の人生に何の意味があるっていうのだろう。
ここで、ハタと気が付いた。
魔女として生きて行くしかないとしても、他の魔法使いと同じことはしたくない。うん。それだけは絶対嫌なのだ。だったら、独自路線を行くとして、これから私はどうしたいのだろう?どうすればいいだろう?
しばらく悩んでひらめいた。そう、いうなら悟りを開いたのだ。
つまり、魔法憲章第一条だ。この力を世のため人のため役立てればいいのだ。それを私の生きる意味っていうか目的にすればいいのだ。
じゃあ、具体的に何をすればいいのだろう?世界平和とか核兵器の廃絶とか大きなことはできないし、何か私にでもできそうなことから始めよう。
う~~~ん。何か手頃な小さな目標って……。
そうだ。私が今暮らしている、このちっぽけな町が衰退して行くのを何とかしよう。
大阪からこっちに来て、町に余りにも活気がないのに驚いた。昼間、町を歩く人はほとんどいない。商店街だって、あちこちシャッターが下りてて櫛の歯が欠けたみたいだ。
郊外型の大規模なショッピングセンターは他県資本で、車を使わないと行けない場所にある。昔からあったお店がどんどん廃業して、そこら中が駐車場になっている。
学校は子供が減り、昔は一学年に何クラスもあったのに、今ではせいぜい一クラスか二クラスしかない。この子達が大人になると、そのまた子供が減るのだろう。
そうして町が消滅するのだ。
この町だからこそ、無茶苦茶な魔法教育ができるのだ。この町が消えて亡くなったら、魔法教育もできなくなる。魔法使い以前に、町自体が絶滅危惧種っていうか、滅亡の危機にあるのだ。
そうだ。町が活力を失ったせいで増えている一人暮らしのお年寄り、つまり、都会へ出た子供に取り残された老人を支えてあげよう。この町で暮らしている独りぼっちの孤独なお年寄りを助けるのだ。そのぐらいならできるかもしれない。
そうだ。人口が減ったせいで経営に行き詰まったお店を救おう。お年寄りのように車を使えない人達は昔ながらのお店にしか買い物に行けない。それなのに、そういうお店がどんどん減って、客には不便だし、地域は空洞化している。悪循環だ。
この力を使って、この町を存続させるためにできることをしよう。それが、この力に魅入られた私のやるべきことなのかもしれない。
視線を感じて目を上げると、三人組が感動していた。
さっきから私の心を読んでいたらしい。ったく、魔法使いにプライバシーはないんか?小西が中島に中継したんだろう。心を読めない中島まで感動に震えている。
「君は……大した人だ」
「綾乃ちゃん。あなたってすごいわ。私達、今までどうして気が付かなかったのかしら」
「シズ達はズッとここで育って、この状況が当然だと思って来たからや」




