四色の魔法使い
ⅩⅤ 四色の魔法使い
魔法使いの男達を振りきってクラスの焼きそば屋へ行くと、結構盛況で一時前だというのに、ほとんど売り切れていた。そこで、魔法のクラスで見た佐藤に会う。兄だという人と一緒だ。
佐藤兄は人を見下すようなところがあって、とってつけたような自己紹介した。お近づきになる栄誉を喜ぶべきだ、とでも言いたいのだろう。
「はじめまして、吉岡さん。さっきの手品、良かったよ。一度ゆっくり話をしたかったんだ。僕は、慎二の兄の佐藤真一。君より二つ年上だ。よろしく」
あんたは話したかったかも知れんけど、こっちは魔法使いの男になんか興味はないんや。
「慎二の言う通り、面白い人だ。まあ、そうカリカリしないで」
そう言って、焼きそばを三人前注文した。最後の三食だそうだ。今日は完売だ。責任者の長野貞子が喜ぶだろう。
「まだ、食べてないんだろ?」
佐藤が優しげに席を勧める。嫌味なヤツ。フェミニストを気取っても、傲慢さが透けて見える。
「忙しかったもんで」
憮然として椅子に座った。こんなキザな魔法使い(ヤツ)と付き合いたくない。
佐藤真一は、弟を振り返りもしないで私を見た。明らかな値踏みだ。静香と私の優秀な方を妻にしたい、と考えているのが見え見えで、自分がエリートだという意識に凝り固まっている。
静香が嫌っている『佐藤さん』って、こいつかもしれない。
(慎二は二色だけど、僕は、赤、橙、黄、それに藍の四色を使う。僕達の世代の男では、一番優れているんだ)
(そう)
魔法の話は興味がない。でも、こいつも心を読むのだ。気を付けよう。
(何の話なら興味があるの?龍?)
運ばれてきた焼きそばを突き返して、席を立った。
(古傷をえぐるようなこと、せんといて!)
佐藤真一が挑戦的な目をした。じゃじゃ馬を手なずけるのも一興だ。そう思っているのが分かる。嫌らしい妄想――四色の魔法使いだからだろうか。普通じゃないリアルさだ――が始まった。
(あんた、私を嬲るつもり?)
こっちが呆然とするのさえ面白がっているようだ。
さっき楽屋で何人も平手打ちされたの、見てなかったのだろうか?考える間もなく手が出た。心が読めるのだ。考えてからだったら、かわされていただろう。
真一の左の頬に、しっかりと手形が残った。
隣でクラスメートの慎二が唖然としていた。こいつとは口をきいたこともないが、同じクラスにいるのは確かだ。
(セクハラするんじゃねえ!)
今まで、こんな仕打ちをされたことなかったのだろう。左手で頬を押さえ、目を白黒させる真一に心の中で怒鳴りつけた。
(魔法使い風情が、偉そうに!私は龍王の妃や!大体、魔法使い社会が合コンまがいなことするから、あんた等がおかしくなるんや!
あんたは魔法の能力があるって言うけど、その能力を使って何がしたいん?単にエッチする相手を捜すことしか考えてないやない!)
耳に聞こえない捨て台詞を残して、部室へ戻った。途中、生徒会経営の売店でペットボトルのお茶を一本買い、それを掴んで廊下を駆け抜けた。
焼きそば屋の今井たちは唖然としていた。いいんだ。後で、虫の居所が悪かったとでも言っておこう。
嫌らしい男が出てきました。こいつが、一番の悪役でしょう。




