文化祭(その3)
やっとのことで打合せ通りの魔法をこなし、出番を終えて控え室に戻ると、静香が小西に哀願するのが聞こえた。
「トオル。佐藤さんが来てる。何とかならない?あの人の妄想って、すごいの。普通の魔法じゃ止めきれないわ」
「あっちは四色だから、俺よりパワーが強いんだ。やるなら、シズ、お前が自分でかけるしかない」
「この魔法は、自分じゃかけにくいの。他の人にやってもらわないと」
「シズ。落ち着いて。大丈夫。今まで、トオルは上手にやって来たじゃないか」
中島もなだめた。
「駄目!あの人、去年だって、ものすごかったんだから。このままだったら、私……」
静香が泣きそうになる。まるで、舞台に出ると変質者に襲われるかのように悲嘆にくれている。
おずおずと申し出た。
「パワーが足りないのなら、私のをあげようか?」
「そんな魔法、できるのか?」
中島が唖然とした。
「知らない。でも、松村さんのときと似たようなもんやろ?」
そう言うと、小西の体に手をかざして祈った。静香が救われますように。このとんでもない状況で、静香が平静でいられますように。
小西の体が軽く痙攣した。
呆然とする三人に言った。
「ト、やってみて」
小西が杖を振るのと、静香がホッとするのが、同時だった。
「信じられない。綾乃ちゃん。どうやったの?」
体調が戻ると、その原因が気になるらしい。
「分からない。私の力がトに移って、シズが楽になればいいなって思っただけ」
ふわりと笑うと、中島が固い表情で呟いた。
「トオルの霊力が増えてる。でも、綾乃。君のも減ってないんだ。これって……」
舞台が終わると、とんでもないことが待っていた。我こそは、というのだろうか?二色以上の魔法使いが楽屋へ押し掛けたのだ。
例年、静香が矢面に立っていた、と後で聞いた。でも、今年は、パーフェクトが二人いるのだ。容貌さえ辛抱すれば(?)、私は静香よりパワーがあると、噂が立ったらしい。
いろんな男――明らかに三十代の男までいた――がやって来て、私に握手を求めた。その意識の中に嫌らしい妄想があるのを認めて――面と向かって妄想したので、私に見せつける形になったのだ――ひっぱたいてやった。唖然として私を見る魔法使い達に、平然と啖呵を切った。
(私に藍の力があることを知ってて目の前で妄想にふけるのは、立派なセクハラや!とっとと、帰り!)
ただし、これは、心の中へ思考を注入したのだ。だから、魔法を使わない生徒から見たら、ひどく凶暴に見えただろう。
最初の八人ほどをひっぱたいたら、手が痛くなった。次からは、軽い電気ショック――人間スタンガンだ――にしようか、と考えていたら、魔法使いの男達にも、私が凶暴な魔女だと分かったのだろう。少なくとも、私の前で妄想しなくなった。
それでいい。目の前でないなら、何考えられても仕方がない。目の前で妄想を見せつけるのだけは許せへん。
綾乃ちゃん、だんだん人外になってきます。




