別れ(その4)
ⅩⅡ 三人組の反応
探るように伺う魔法使い三人組を、私はあえて無視した。
確かに、タツヤとっては謙信の時代の方が幸せだろう。でも、タツヤは私の心も持って行ってしまった。
情けなくて、寂しくて、分かっていても、私の意見も聞かずに先生に報告したことが許せなかった。あの三人を一生許さない、と心に決めた。
三人を代表して、中島が来た。まるで決死隊だ、端正な顔に憂いを浮かべて、私の顔を覗き込んだ。
「綾乃。大丈夫か?シズが心配していた」
口をきかない私に、中島が辛そうに言った。
「仕方がなかったんだ。タツヤは発情していた。この時代にはメスの龍がいないから。だから、君に恋をしたんだ。小太郎子のこともあったし……」
「あの時代の方が、あいつにとって幸せなんだ。龍だって、いっぱいいた。君だってそう思うだろう?」
「それでも、君は僕達を恨むのか?」
「君は眠っていて知らないけど、喧嘩しながら、あいつ、僕達にひどいこと言ったんだ。終いにシズが泣き出して、僕もトオルも、ものすごく消耗した。しかも、あいつは君を抱いたまま戦ってたから、こっちは君に怪我させないようにって必死だったんだ」
「いい加減、いつもの君に戻って欲しい」
黙って目を上げると、中島の凛々しい顔が目の前にあった。
「数学、おおきに。宿題テストの目処、ついたわ」
それだけ言うと、家へ帰った。
その晩、静香が家へ来た。静香は、鋭い目をして言った。
「綾乃ちゃん。私達を恨むのは筋違いよ。あのまま放っておいたら、タツヤはあなたを殺したかもしれないんだから。自分の住みかへあなたを連れて行こうとしていたのよ」
「タツヤは馬鹿やない。私が水の中が駄目なの、知ってる」
「タツヤはあなたを龍と間違えてたわ」
「タツヤは私が魔女だって知ってた」
「タツヤはトオルにもカオルにもひどいこと言ったわ!」
「?」
「あの二人が私に軸足を置いて、あなたを滑り止めみたいに扱うのは許せないって言ったの。二人とも真っ青になって。だって、二人とも悪くないわ。私が決められないだけなんですもの。
それに、タツヤは、魔法使いが、あなたを魔法使いの宝だって言うけど、肝心の魔法使いは、あなたに魔法を使わない一般人と付き合うな、他のヤツ等に心を開くなって飼い殺しにしてるって、そう言ったのよ。
そんなことないでしょ?トオルが、俺達にどうしろって言うんだ!って叫んで。カオルも蒼白になって……。
私達だって、あなたのこと大好きだわ。それなのに、タツヤは、龍のくせに、あなたを自分のものにしようとしたの。あれ以上、タツヤをここに置いておけなかったの。安本先生に相談するしかなかったのよ!」
私は何も言わなかった。
「あなたが、どっちかを選んでくれたら、残った方を選べるのに……」
静香が絞り出すように言った。
「どっちもシズのことが好きなんや。邪魔したら悪い」
「私がどっちか選んだら……あなた、残った方を選んでくれる?」
「私、そんなことせえへん。だから、前の通りや。シズがどっちか選んだら、前の通り、残った方は別の魔女を選ぶだけや」
「あなたは……別の魔法使いを選ぶの?」
「私……魔法使い……嫌い、や……選ばん」
思いっ切り心のシャッターを下ろした。
宿題テストは、無事に終わった。何とかクリアできたのだ。タツヤもいないのだ。勉強でもするしかないじゃないか。
って、オカンが聞いたら、激怒しそうだ。まあ、留年さえしなければ、オカンも文句言わないだろう。
廊下で中島と出会ったので礼を言うと、辛そうに言った。
「綾乃。礼を言ってくれるのなら、僕達を許して欲しい。確かに、ああするしかなかったのは事実だけど、君に相談もしないで安本先生に報告したのはまずかった」
「済んだ話や」
「文化祭の準備がある。手品部に来て欲しい」
「文化祭終わったら、手品部、やめる」
「どうして?」
「初歩的なことはあらかた習ったから。後は一人でやるわ」
中島の顔が引きつった。
綾乃はタツヤと別れてしまいます。




