表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吉岡綾乃は魔女をやめたい  作者: 椿 雅香
27/43

別れ(その2)

夏休みも残り少なくなった。

えらいことだ。宿題を完全に忘れていたのだ。調べてみると、とんでもないことに、数学が大量にあった。もっとも、夏休みの終わり近くまで一顧だにしなかった私も悪いのだが……。

私は天を仰いだ。そして、緑池の畔で宿題とジタバタ格闘した。

中島が来て手伝ってくれた。小西と静香は、小太郎達をタツヤに会わせない方がいいだろうと言うことで、来なかった。

「助かった……」

ひたすらノートを写す私を横目で見ながら、中島は、タツヤととりとめのない話をしていた。この二人(?)、結構気が合うみたいだ。

中島が自分とタツヤに透明の魔法を掛けて、タツヤの背に乗って飛んだ。いいなあ。中島は宿題が終わったから、タツヤと遊べるのだ。私は、自分が遊び倒したせいだと言うことも忘れて、中島を羨んだ。

数学は、ノートの書き写しだけで、五時間も掛かった。結局、この日は遊べなかった。でも、とりあえず宿題が終わったから、良しとするか。と無理矢理納得すると、中島が、「宿題テストがあるから、これ、理解してないとヤバイぞ」と言うので、頭を抱えた。

これ以上、どうしろって言うんだ?今からこの膨大な数学を理解するのは不可能だ。分かるところだけ出題されることを祈ろう。

中島がニコリと笑って言った。

「教えてやろうか?」

「頼める?」

と、すがるように見た。

「ああ。友達なんだ」

透き通るように笑った。ものすごくありがたくて、中島が神さまに見えた。

次の日、中島が最初のページから教えてくれた。一つ一つ噛んで含めるように教えてくれる。助かった。思わず時間が経つのを忘れた。

お腹がすいたので、気が付いた。もう三時回っていた。朝の九時からお世話になってるのに。

問題越しに中島を見て、その容貌の素晴らしさに圧倒された。

静香と一緒にいたかっただろうに。私のために、悪いことした。タツヤがあんな異常な行動を取らなければ、中島も小西や静香と一緒にいられたのに……。中島の紳士然とした優しさに、胸が痛む。

中島も小西も静香が好きなのだ。タツヤが小太郎子を好きになっても、遠慮してもらわないといけないのと同じだ。

あんまり一緒にいてもらうのも悪いので、適当に引き上げてもらった。

小太郎の池へテレポテーションで送るけど、あんまり上手じゃないから、麓になったり、どっかその辺りだったりしても許してね。そう言うと、爽やかな笑顔が返って来た。

「綾乃。もう、そんな魔法覚えたのか?大したものだ」

中島を飛ばすと、タツヤが不思議そうな顔をした。

「綾乃は、カオルのことは好いておらんのか?」

「好きだよ」

「じゃあ、折角なのに、どうして帰したんじゃ?」

「あいつがシズを好きやから。悪いやろ?」

「人間の遠慮か?」

「そうとも言える」

タツヤが気の毒そうに私を見た。龍に同情されるなんて。でも、タツヤの暖かさが心地よくて、その大きな体に寄り掛かった。

「魔法使いは嫌い」

そう言うと、タツヤは愛おしそうに私を見つめた。

ふと、タツヤの気配が変わったのに気が付いた。タツヤが人の形になっている。

「珍しい。どうしたん?」

「綾乃。ワシはお前が好きじゃ」

そう言うと、すっぽりと包み込むように抱きしめてくれた。

何となくタツヤの目がいつもと違っている。見つめられると力が抜けた。 

「綾乃!何してるんだ?」

遠くで小西の声が聞こえた。

いつの間に来たんだろう?テレポテーションでもしたんだろうか?

「タツヤ、龍が人間の女に手ぇ出すんじゃねえ!このスケベが!」

小西が、タツヤの後に回って、思い切り蹴飛ばした。

つんのめったタツヤは、一呼吸して龍の姿に戻る。

「お前にそんなこと言う資格はない。静香を争っておるくせに。静香が駄目じゃったら、綾乃に言い寄るつもりか?」

タツヤは、私を抱いたまま、平然と言った。

「綾乃は、魔法使いの、宝だ!」

痛いところを突かれたのだろう。小西の声が震えた。

「魔法使いの宝……か」タツヤが、ふふふと笑った。「綾乃はワシの宝じゃ。お前達にはやらん」

 私を抱えたまま上空に舞い上がったタツヤが、きっぱりと言い切った。

「トオル。ワシは、綾乃がプラトンの言う半身じゃと見極めたんじゃ」

「ほざけ!綾乃は龍なんかの半身じゃない。魔法使いの半身なんだ!」

ここで、小西が気付いて叫んだ。

「何で、お前がプラトンなんか知ってるんだ?」

おいおい、気がつくのが遅いって。

「綾乃は魔法使いは嫌いじゃと言うておった」

「そんなに……魔法使いが嫌いか?」

小西が驚愕して私を見、一瞬で私の心を読んで合点した。

「そうか、『しゅけん』を見捨てたからか。お前の先祖だ。あの時見捨てたら、お前は生まれて来なかった。確かにそうだ。でも、シズが手伝っただろ?」

「トオル。この件については、お前にもカオルにも発言権がないんじゃ」

タツヤが悠然と飛びながらたたみかける。ときどき目が妖しく光って、意識が遠くなる。

「タツヤ……トが……可哀想や。あんまり……無茶言わんの」

どうしたんだろう?眠くて眠くて、目を開けていられない。

「あんたが、人なら……私、あんたが良かったんやけど……龍と人じゃ、無理や」

やっとの思いで言うと、タツヤの声が遠くで聞こえた。

「伏姫は犬の八房と夫婦になったんじゃ。犬より龍の方が霊力が高い。綾乃は龍王の妃とする」



タツヤが暴走してしまいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ