表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吉岡綾乃は魔女をやめたい  作者: 椿 雅香
23/43

上杉謙信

Ⅹ 上杉謙信


折角の夏休みなのに、魔法の授業は、毎日クラブ活動の時間にしっかりあって、私はいろんな色の魔法の勉強に精を出した。魔法の学校に夏休みなんかないのだ。

柔軟体操を毎日すると、持って生まれた柔軟性がどうであれ、それなりに体が柔らかくなる。楽器の練習だって毎日すると、素質はともかく、それなりに上達する。それと同じで、毎日魔法の練習をすると、資質はともなく、それなりに上手くなるらしい。

私は、素質としては、静香と同程度だと言われた。でも、他のみんなは、小学生の時から魔法の練習をしているのだ。昨日今日練習を始めた私が敵うはずもない。毎回、シッチャカメッチャカでドタバタ喜劇のようだ。

赤の火は火力の調節が難しい。先生に、「魚を焼いてみてください」と言われて、丸焦げにしてしまった。調理実習じゃあるまいし、鰺の塩焼きってどうよ。と思った。

橙の太陽と風では力を出しすぎて気温を四十度にしてしまった。一度なんか、竜巻が起こしてしまって、校舎の屋根を吹き飛ばしてしまった。

黄の雷では、火力発電所の側で「発電してみてごらん」と言われて、思い切りやったら発電所の容量を超えてしまい、発電機がダウンしてしまうというとんでもない事故になった。

緑の魔法を使おうとして魔法をかけたら、森が急に増殖して森が動いているように見えた。マクベスが見たら腰を抜かしただろう。質量保存の法則によって、アマゾンかどっかの森がこっちに移って来た、と、しっかり先生に怒られた。故意じゃないけど、不自然なことをしないという魔法憲章第二条に目一杯抵触してしまったのだ。

青の雨は、龍と仲良しなんだから大丈夫、と自信を持ってやったのに、雨が止まなくなってしまった。要は、力の制御が下手なのだ。終いに、校舎が浸水するというとんでもないことになって、居合わせた先生と生徒全員が必死で反対呪文を唱えてようやく雨が止んだ。後で、こってり絞られたのは言うまでもない。

藍の他人の心を読むのはできたりできなかったりする。これは、余り被害が及ばないので一安心。でも、一度、人の心を操る実験――対象者がドーナッツを食べたくなるようにしむける魔法――をしたら、ドーナッツを喉につまらせた対象者が救急車で運ばれるという事態になって、冷や汗が出た。 紫の時空旅行の魔法は、一番熱心に勉強した。だって、タツヤと一緒にいろんな時代に遊びに行きたいから。龍は現代では絶滅危惧種だが、もっと龍の多い時代にタツヤを連れて行って、あいつが望むならその時代に移住させたい、と思ったからだ。そうすれば、タツヤのお嫁さんを見つけることができる。これは、魔法憲章第二条に、それこそ目一杯抵触するので、小西や静香に頼むことはできない。

この魔法は難しくて、明治維新(1867年の王政復古の大号令)の頃に行くという実技で、関ヶ原の合戦(1600年)に行ってしまって――つまり、遡り過ぎたのだ――小早川秀秋の陣中の後方でウロウロしている私を捜すのに、先生方が大騒ぎになってしまった。とりあえず、小早川秀秋が参戦する前に救助してもらって事なきを得たが、彼がもたもたしないで参戦してたら無事では済まなかっただろう。そのため、次からは、迷子玉と呼ばれる玉――GPS機能のついた携帯電話のような働きをする玉で、これを持っているとどの時代のどこにいるのか分かるらしい――を持たされることになった。面白くなかったが、自分の力を操れないのも事実で、仕方がないと諦めた。

極論すれば、力の調節が下手なのだ。どの先生も、気の毒そうに、「そのうち、慣れるから……」と、慰めてくれたが、それがどうしたって感じだ。

静香達魔法使い三人組も慰めてくれたが、小西なんか、私のドジが近年ない見物だと、楽しんでいる節がある。

タツヤだけが私の気持ちを分かってくれて、大丈夫じゃ、お前は、まだ十六で、しかも魔法使いとしては初心者じゃ、と、やっぱり年の功の慰め方をしてくれた。

魔法のクラスの正式な勉強の他に、松村から初歩的かつ実用的な魔法を学んだ。

透明の魔法、水の中で息をする魔法、物を遠くから取り寄せる魔法(この魔法は、タツヤと遊んでいるとき、おばあちゃんが用意してくれたかき氷やたこ焼きなんかを取り寄せるのに使えてすごく便利だ)、小さな物を大きくする魔法、居合わせた人の記憶を消す魔法(これは、何か不都合があったときに役に立つと言われた)などだ。

この人は終戦前後に十五歳を迎えたらしいから、私の本来の時代に出会ったら八十ぐらいになっているはずだ。どんなおばあちゃんになっているのだろう。ちょっと興味が湧いた。

この人の教え方は極めて合理的で、魔法は、生きていくため、もしくは、自分がやりたいことをするための手段だ、と言う考え方が徹底していた。物資の少ない時代に、食べ物を確保したり、着る物を手に入れたりするのに、こっそり魔法を使っているらしい。

 私が龍と付き合ってると話すと、松村は羨ましそうに、自分も会いたい、と言った。気が付かなかった。松村は青の魔法を使うから龍とは相性が良いのだ。私は、彼女をタツヤに会わせてあげたいと思った。


綾乃は、松村と仲良くなれるでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ