タツヤ(その2)
いよいよタツヤが本気になります。綾乃は……。
タツヤの微妙にエロい雰囲気に気が付いたのだろう。やって来た小西と中島の顔が引きつっていた。
「タツヤ!綾乃に手ぇ出すんじゃねえ!」
「そうだ。いくら仲が良くても、人間と龍だ。絶対に結ばれない。第一、龍って番と結ばれるんもんなんだろ?綾乃がおまえの番であるはずない!」
小西が吠え、中島も顔色を変えて詰め寄る。横で見ていると他人事みたいで、抗議のし方に二人の性格が出ていてで笑えた。
タツヤが悠然と言った。
「大きなお世話じゃ。龍は絶滅危惧種じゃ。番に固執しとったら、伴侶を見つけられん。第一志望に落ちたら、第二、第三志望で納得する大学受験のようなものじゃ。綾乃は、いうなら第二志望じゃ。伴侶とするに、何の問題もない」
「っていうか、そこは、問題があるって、こだわるところだろ?」
小西が叫くと、タツヤは皮肉っぽく笑った。
「それにな、お前達にはシズがおる。対して、綾乃はフリーじゃ。Now on saleなんじゃ」
このところ私は、大学受験の話をしたり、英語に興味を持つタツヤに手ほどきしたりしていた。『Now on sale(ただ今、売り出し中)』、『to my surprise(驚ろいたことに)』なんかが、お気に入りだ。しかも年の功だ。小西も中島も高々十六歳だが、タツヤは二百歳なのだ。かなうはずがない。私と静香は腹を抱えて笑った。
静香が面白がって、
「タツヤ、頭良いのね。英語も上手になって……大したものだわ」
と、タツヤの頬にキスしたものだから、男二人は、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「タツヤ、龍は龍同士一緒に遊んで来いよ」
「綾乃とシズは、俺達が引き受ける。手ぇ出すんじゃねえ!」
タツヤは私を降ろすと、ふふふと笑って飛んで行った。上空で三匹の龍がじゃれるのが見えた。静香がすっと透明の魔法をかけ、龍同士には見えるようにしたから、と微笑んだ。
タツヤとゆったりした時間を過ごした私には、この人の美しさが快くて、この人とともに魔法使いの一族の端に繋がっていることを嬉しく思った。
きっと、小西や中島たちもそう思っているのだろう。そんな感情が恋愛に発展したのかもしれない。
恋愛という意味では、この美しい人はライバルになる。でも、タツヤがいるのだ。龍と結婚できるなら、それも悪くない、と思った。
魔法使いの中島や小西が綾乃に恋愛感情を持っていないのに、龍のタツヤが本気になってきたみたいです。




