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吉岡綾乃は魔女をやめたい  作者: 椿 雅香
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龍(その6)

「この件における吉岡さんの獲得目標は何なの?」

安本先生に訊かれた。

今日、初めて、赤の火、黄の雷、橙の太陽の授業を受けて、かなり消耗した。その後、松村に物を一瞬で呼び寄せる魔法を習ったが、疲れて集中力が落ちたせいだろうか、上手く行かない。一時間頑張ってもできないので、先生からストップがかかったのだ。

先生は、松村を元の時代に送り返してから、私をダルマストーブの側に座らせて訊いたのだ。

「獲得目標って?」

「これだけは譲れないってこと。これだけはものにしたいってことよ」

「龍、やろか?」

「龍に会うことが目的なの?龍がいるってことを静香さん達三人に信じてもらうことが目的なの?どっちなのかしら?」

唖然とした。そこまで考えたことはなかった。

「……龍に会いたい。会って、小太郎に会わせてあげたい」

 そう言うと、先生はニコリと笑った。

「だったら、例え、あの三人があなたを信じてくれなくても、利用できるものは利用して、龍に小太郎を会わせる方法を考えることね」

「みんな信じてくれないでしょうか?」

「魔法使いって、自分の目で見たことしか信じないものなの。いえ、なまじ魔法が使えるだけに、自分の目で見たことでも信じないことが多いわ。

誰も信じてくれなくても、龍のために頑張れる?」

黙って頷いた。今日の先生には、有無を言わせない雰囲気がある。

「吉岡さんは、どうして、魔法憲章第一条に、世のため人のためってあるのか、その理由を考えたことがある?」

「……」

「魔法使いは孤独なの。なまじ霊力があるだけに他人を信じられなくなって、結局、自分しか信じなくなるの。そうして、自己防衛のために、不自然なことをしないとか、魔法を一般人に知られないとか、制約ばかりになって。そのうち、自分はどうして魔法使いに生まれたんだろうって悩むようになるのです。

でも、どんなに悩んでも、現実は変えられないでしょ?魔法使いであることは、否定できない事実なのだから。

そこで、魔法使いは何のために生きるべきか、真剣に考えた先人がいたの。その人が魔法憲章第一条を作った、と言われています。

魔法使いに生きる意味を教えたという意味で、第一条は、第二条、第三条に優先すると言われています。例え不自然でも、例え周りに魔法の存在を知られても、やらなければならないときには、やらなければならないのです。あなたが、『しゅけん』の命を助けたようなものです。この第一条があるから、魔法使いは魔力に流されずに、自分を律して行けるのです」

難しくて、よく分からなかった。でも、先生は私が『しゅけん』の命を助けたことを知っていて、それが正しいと認めてくれていた。

「今、あなたは龍を探しています。多分、あの三人は手伝ってくれるでしょう。

でもね、信じてくれるからじゃないの。あなたが一生懸命だからなの。信じてくれないからってそれを断ったら、龍を探すことができなくなるかも知れないでしょ?使える手段は全て使って、やれるだけのことをやらなければ……あなたが、あなたのためじゃなく、龍のために、龍を小太郎に会わせてあげたいのなら、使える手段を断るのは上手い手だとは言えないわね」

何となく、先生が言おうとしていることが分かった。

先生がふわりと笑って続けた。

「あなたは怒りっぽいわ。パーフェクトの魔法使いは怒っちゃいけないの。怒ると、周りが被害を受けるでしょ?下手すると、死人が出ます。腹が立っても、深呼吸して、獲得目標だけを考えなさい。獲得目標以外は譲歩してもいいのです。あなたは強いわ。譲歩しても、誰もあなたを悪く言いません。あなたの譲歩は、単にそれがあなたの獲得目標じゃなかったというだけのことなのです」

 そう言うと、先生は、ピンク色の飲み物を作ってくれた。口が曲がるほど酸っぱかったが、飲んだ後は、喉がすっとして体中の疲れがとれた。



 

安本先生は、綾乃に龍を探すのに三人組の力を借りるよう勧めます。

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