龍(その2)
翌日、静香が私の所へ来て、鋭い目つきで言った。
「綾乃ちゃん。一人で勝手なことしないの。心配したんだから」
私は何も言えずに項垂れた。中島も小西も静香を争っているのだ。邪魔したくなかった。
「あの二人のことは、気にしなくていいから」
不覚だった。静香に心を読まれてしまった。読まれたくなんかないのに。
(私が、あなたの心を読んだことが不満?)
(私のことは放っておいて!トもカもあんたのことが好きなんや!)
(あなた、トやカが好きなの?)
カチンと来た。
(私が好きなのは、龍や!トもカも要らん!私だけの龍が欲しいんや!)
絶滅危惧種同士、仲良く月夜の空を飛ぶのだ。
放課後、小西が、とってつけたような笑いを浮かべて現れた。
「シズに叱られた。綾乃から目を離すなって」
「シズに叱られたから、私のお守りに来たん?別にいいやない。放っておいて」
小西の顔が歪んだ。
二人の異様な雰囲気に気が付いた今井が、私の肘をつついた。
「ちょっとぉ、小西くんに悪いよ」
「大丈夫。もともと、シズに頼まれたから、付き合ってくれてるだけやし」
(お前、基本的な魔法も使えないのに……。シズが心配してる)
(大丈夫。基本的な魔法は、誰かに教えてもらう。自分で何とかする)
小西が暗い目をして帰って行った。
「昨日、君がいなくなってから、トオルは小太郎の池へ行って君を捜したんだ。あいつは小太郎に乗って池の周囲をくまなく捜した。それこそ暗くなるまで。
綾乃、一体、君はどこにいたんだ?
シズが心配して怒ったんだ。君から目を離したトオルが悪いって。そうして、君のおばあちゃんに君を捜してくれって頼んだんだ」
「そう。おばあちゃんから連絡あった?」
「ああ。君を見つけたから心配するなって、シズの携帯に電話があった」
「だったら、いいやない」
「いいことない。君は、自分が何してるか分かってるのか?」
「分かってる」
「だったら、もう、心配かけるな」
「駄目、私、龍を探すん。龍が見つかるまで、やる」
「そんなに達也が良かったのか?」
「?」
「君がそんなに固執するほどの男に見えなかった」
「……カ、会ったこともないくせに」
「いや、トオルがシズと僕の心に投影してくれたんだ。シズもあいつを見て、どうして君がこだわるのか不思議だと言ってた」
「……そんなこと……できるんや」
ここでは、何でもありなのだ。大阪まで一瞬で飛ぶことも、小西が見た達也くんを中島や静香に見せることもできるのだ。
「……達也くんって言うより、魔法使いじゃなかった頃が懐かしいんや。友達もいたし……」
「僕達じゃ、駄目なのか?僕やトオルやシズじゃ、君の友達になれないのか?」
「駄目。あんた達は三人組や。私の入り込む余地はないんや」
「僕達は、そんな風に思ってない」
「友達ができたら、あんた達とも付き合えると思う」
「龍……か?」
「……うん」
「無茶だ。トオルも言ってただろ?龍は用心深いんだ。君が探しても、出て来るはずがない」
「でも、友達探してる龍かているかもしれへん」
「いるはずがない。龍は誇り高い生き物だ。小太郎は、たまたま、小さい時に親とはぐれて衰弱していたのをトオルが見つけただけだ。あんな偶然は二度とない」
中島の鋭い視線を感じながら負けずに睨み返した。いい男だなあ。本当に男前だ。中島にしても、小西にしても、静香に固執しなかったらきっとモテモテだろう。
そんなことより、もっと大事なことがある。中島に教えてもらわなければ……。軽く息を吐いて、話題を変えた。
「カオル、教えて欲しい魔法がある」
「?」
「『しゅけん』を捜した時、あんたが使った、杖に道訊く魔法」
「杖が要る。君、持ってないだろう?」
「大丈夫。昨日、おばあちゃんにもらったんや」
私が杖を見せると、中島が唖然とした。
「綾乃。言っただろう?パーフェクトの魔法使いは杖なんか要らないって。シズだって使わない」
「分かってる。でもね、スイミングスクールだって、最初は、ビート板とか使うやろ。始めのうちは使って、そうして、慣れたら使うのを止めたらいいんや」
中島があんぐりと口を開けた。
綾乃ちゃんは、自分だけの龍を探します。




