達也くんとの別れ
Ⅶ 達也くんとの別れ
雨は続いている。天気予報によれば、大阪も雨が続いてるらしい。こんなに続くと、達也くんは困ってるだろう。テニス部だし。クラブが休みになって、仕方がないってゲーセンにでも行くんだろうか。
UFOキャッチャーで、ぬいぐるみ取ってくれたことがあったっけ。ピンクの可愛いウサギだ。あれ取るのに、あいつ、二千円も使ったんだ。
傘忘れて、あいつに借りたことがあったっけ。あん時、あいつ、二本持ってるからって嘘ついて、自分は濡れて帰ったんだ。良いヤツだったのに。
美加が達也くんに迫ったんだろうか。でも、美加は、そんなことする子じゃない。達也くんが美加に迫ったんだろうか。それも、あり得ない。二人して私の噂してて、何となく盛り上がってしまったんだろうか。
大好きな達也くんや仲良しの美加が離れていく。それも、二人がくっつくという最悪な形で。心を許せる恋人も一緒に泣いたり笑ったりした親友も同時に失くすなんて。
考えれば考えるほど分からなくなって、情けなくて涙が出そうになる。
龍は面白かったけど、日常生活に戻ると達也くんのことを思い出した。
何度かメールを送ったけど返事がないし、昨日メールしたら、アドレスが変わっていた。慌てて電話したら、電話番号も変わっていた。達也くんは優しいから、別れようって言えないんだ。きっと、そうだ。
魔法使いじゃなかったら、こんなところに来なくて良かったのに。あのまま大阪にいれば、こんなことにならなかったのに。きっと、今頃、達也くんとゲーセンでUFOキャッチャーと格闘していたのに。
部室の戸が開いて、小西が顔を出した。怪訝な顔で、私を見る。
「どうした?達也に会いたいのか?」
(人の心、勝手に読むんじゃねえ!)
「悪いねえ。でも、今のお前じゃ、カオルにでも、何考えてるか分かるぜ」
(人の気も知らんと!あんた達は子供の時から魔法使いやったから気にならへんかも知れんけど、私はちょっと前までごく平凡な一般人やったんや!)
「どこが平凡なんだ?人のほっぺた平手打ちするような女は、平凡とは言えない」
「あんたが、スケベやからやろ!文句言う前に余計なこと考えんかったらいいんや!」
「声、出るじゃねえか」
「当たり前や。出るに決まってる!気分が滅入ってるだけや!」
「今日は木曜だから、あっちの授業があるけど、その前に大阪行かないか?」
「?」
「連れてってやるよ」
「そんなこと、できるん?」
「ああ。来いよ」
小西が手を差し出した。思わず手を伸ばすと、小西は私の手を掴み、空いた方の手で杖を振った。
天井が急旋回する。
「気持ち悪い」
「お前な。いい加減慣れろ。じゃないと、どっかへ行ったり来たりする度、消耗する」
「そうやね」
「ほれ、目ぇ開けろ」
大阪の高校の真ん前だった。
「お前の心を読んだら一番行きたそうな場所だったんだけど……ここで良かったんだな?」
「うん」
信じらへん。大阪まで一瞬で来てしもた。
「こんなことできるんなら、もっと早よ連れて来てもろたら良かった。電車賃も要らんし……」
小西が天を仰いだ。
「お前なあ。何か反応が普通じゃないんだ」
不思議だった。雨が降っているのに、私達は濡れていない。体の色が薄くて景色が透けて見えるのだ。
(魔法、かけたん?)
(そう。ここでお前が見えたら、おかしいだろ?不自然なことはしない。魔法憲章第二条だ)
(でも、このままやったら、達也くんに会えへん)
(合図しろ。そん時だけ、魔法を解除する。多分、向こうは夢だと思う)
(ト、あんた、いいヤツやな)
(今頃、気が付いたのか?バ~カ)
授業が終わって、生徒が三々五々下校する。
達也くんの見慣れた傘が、美加の傘と並んで出て来た。雨を避けながら寄り添うように歩いている。
聞き耳立てなくても、心が読めるのだ。二人は楽しそうにおしゃべりしていた。
休みの日、二人してカラオケに行ったんだ。そうして、達也くんは可愛いアクセサリーを買って美加にプレゼントしたのだ。
そのまま二人の後を付けて、分かれ道で手を振り合うのを確認した。
(晴れてたらキスできたのに)
(キス、したかったわ)
頭の中ではっきりと二人の声が響いた。
達也くんが一人で歩き出したのを見計らって小西に合図すると、透明の魔法が解除された。小西が気の毒そうな顔をしているのが辛い。
「綾乃、か?」
達也くんが驚いて声をあげた。
「達也くん……美加と付き合ってるん?」
「ごめん。やっぱり、俺、彼女には側にいて欲しいんや。悪い。……ゴメン」
「だったら、もっと早う言うてくれたら良かったのに。電話番号もメアドも勝手に変えて……ひどい!」
「ゴメン……」
達也くんが俯いた瞬間、小西が透明の魔法をかけて、私の手をつかんだ。
へタレの達也くんを見ていると、小西がかっこよく見えてしまうというお話でした。




