白と冷たさのスクランブルと、一握りの。
鼻が冷たくなると、空は雪雲だった。淡い細雪は落ちた途端にみぞれて、白線がクロスオーバーされたアスファルトを黒く濡らす。
スクランブル交差点。赤い信号。雪には誰もが他人事のフリをした。ちょっと見てすぐ、また足元に執着する。
、ほらだから青の幕開けに乗り遅れる。いつも前のひとの流れに身を任せるまま。飛び降りだった自殺にだって着いてきそうだ。
でも俺は優しいから。黒く気高い外車がウィンカーで急かしてきやしたって、後ろに付いてくる輩はせめてもで第一優先するさ。
まるでカルガモの親子。渡りきった皆を余さずチェックして、子を独り立ちを見守るとこまで。冬の都市に鳥はいない。信号機のカッコーは機械的なアナウンスでしかない。
……さて。どうしよっかな。なにも降らなくたって只でさえ冷えきって
るっていうのにな。気持ち氷点下の気候じゃあ、削がれるものひとつやふたつは仕方ないって看過されていいんじゃねえかな。
安全第一だ。冬のらしさと都会の冷たさとは、まあなんか、慣れればまた悪くないってことなんだよ。 きっと。
次の日の夜明け、独りの女性が黒い正装で訪れた。まだ昇りきれないあけぼのは、悲壮の面持ちをすこしばかりか和らげる。両手には花。白く淡い。もう溶けきった雪がかろうじて残留するかのような。
朝の交通整理。まだ早いながらも太陽は確かとした輝き。赤いカラーバーをひとしきり振り続けていた整理員は一息ついた。傍目に花が添えられていた。白い弔いが交錯するようにして、2本。贈り人の誠実な思いの現れのように、端正だった。
かつてここでおきた大事故。黒いハーレーと人身の事故。天涯孤独の女性を、助けようとして飛び込んだ青年ごと。
あの悲劇を二度と繰り返すまいとここら一帯の交通整理は厳重になった。
でも……、やっぱこの交差点に補助はいらないんじゃないかと。
数年前のそれ以降から、一切事故は起きていないんだから。そう思ったら、幻視の雪が鼻を掠めた。だから、ただただ笑い、笑った。もう一度鼻を掠めたから──今度は本物。いやだって、連日雪が降るなんて予想だにつかないじゃないか! 降り注ぐひとつを掴みとる。
冬のらしさと都市の冷たさに、一握りの暖かさが溶け渡った。