起床から動き出すまで
眩しい。目を閉じているはずなのに、眼球まで光が届く。
近くに照明でもあるのだろうか。とても無視できない刺激だ。
仕方なく、私は薄く目を開けた。
周囲を窺えば、ベッドの側に置かれたデスクライトが私の顔を照らしている。光源はこれだったか。
堪らずライトをオフにする。
ベッドから離れた背中を、再びマットレスへと投げ出した。よく知る弾力、自室のベッドだ。
明かりを消しても窓の外が明るい。もう日が昇っているのだろう。
おかしい、最後に確認した時刻は午前一時だったのに。部屋の外は真っ暗だった。
急いでデジタルの目覚まし時計で日時を確認する。すると、時計には午前十時と表示されていた。
どうやら、私は気付かないうちに眠ってしまっていたみたいだ。
幸いにも休日だし、急いで身なりを整える必要はない。けれども、何かを忘れている気がする。
付けっぱなしになっていた暖房の音を聞きながら、しばし頭の中を探ってみる。
そこで、スマートフォンの存在を思い出した。
飛び起きて周囲を見回せば、ベッドからほど近い床の上に、私のスマホが転がっている。入眠前に手から滑り落ちたと思われるそれは、通知を知らせるLEDランプをチカチカと点滅させていた。
私はスマホを拾い上げ、電源のボタンに指を掛ける。端末には、SNSに届いたメッセージが映し出された。
そうだった。私は友人とやり取りをしていたのだ。
返事を待つ軽いノリのメッセージを見て、少し申し訳ない気持ちになる。
一方通行の言葉がなんだか寂しい。
フォローするべきなんだろうけど、もう起きているだろうか?
遅刻もいいところだが、軽いノリを返す。
こちらのメッセージは、すぐに確認されたみたいだ。返信も間を置かずやってきた。
カズ(仮):寝られたみたいだな。
ともすれば、皮肉とも捉えられかねないが、そういう間柄ではない。普通に気遣われたと判断する。
最近私の生活リズムを気にしているようだったし、安心したのだろう。
昨晩の件を詫びつつ、それなりに眠れた旨を説明する。デスクライトのせいで微妙に気怠さが残っているのだが、その辺は述べるべきではないだろう。
友人は子に話し掛ける母親のような口調で、私を労わる。その文面から、相手がノリノリで母親を演じているように感じられた。
なんだろう、朝でもテンションが高い方なのだろうか。
スロースターターの私は、馴染のない、友人の朝のテンションに少々戸惑う。しかし、特に指摘はせず、ぼんやりと朝のやり取りを続けた。
会話も終盤に差し掛かった頃、友人が今進めている作業の進捗を訪ねてくる。
私は芳しくない旨を正直に伝えた。
それを確認しても、第三者であるところの友人は特に私を責めようとはしない。
それどころか、「生きているならそれでいい」と励まされてしまった。隣には『(顔文字省略』とある。
母親ごっこの続きだろうか。素面でこんなセリフを吐く友人ではない。
真に受けすぎるのはよくなさそうだ。「知人に死なれたら寝覚めが悪い」くらいの軽いニュアンスで捉えることにした。
けれども、言われた身としての気分は、それほど悪いものではない。
無条件で存在を肯定されるだなんて、一体いつぶり体験だろうか。久しくなかったことだと思う。
私は言葉を受けて、出かけるらしい友人を機嫌良く送り出した。
メッセージが確認されたことを確かめ、私もスマートフォンを脇に置く。ぬくぬくとした寝床を離れ、着替えを求めてクローゼットへ歩き出した。
少し寒いが動けないほどじゃない。悪くない滑り出しだ。
私は友人の軽口に感謝しつつ、自らの上着に指を掛けた。
フィクションってことで。
お付き合いありがとうございました。




