3話 異能力:氷
2話を読んでくれてありがとう。
見直しやストーリー構成で迷って時間がかかってしまいました。
誤字脱字や間違った表現を見つけた場合は感想などで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
君の笑顔が見たくて。
君とまた一緒にいたくて。
俺はあの日から君を探し続けている。
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世界が残酷に見下す7月7日。
ルカはあの日から忽然と姿を消した。
警察にも相談したが、何も進展はなかった。
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12月25日。
世間はクリスマスだって言うのに、俺は何も祝う気持ちになれない。
粉雪が降り積もっていくようにルカへの想いが募っていた。
闇に舞うカラスが群れをなす午後20時25分。
俺はルカと最後に訪れた楽器屋さんへと足を運んでいた。
「・・・覚えていますか?7月7日にヘッドフォンを買った者です」
灰色の髪が片目を隠している店員さんの女性は、俺の顔を凝視してくる。
そして、何かを思い出したかのように笑った。
「ああ!覚えてますよ。えっと、確か初めて女性にプレゼントをあげるから緊張してるって話してくれた人ですよね。彼女と進展はありました?」
店員さんの女性はにこにこしながら俺を見つめる。
「・・・それが。プレゼントを渡した日から忽然と姿を消してしまったんです。もしかしたらヘッドフォンに何か原因があるかもしれないと思って」
店員さんは何か思い当たる節があるように黙り込んでしまった。
さっきまで見せていた明るい表情が暗い表情に豹変した。
「何か知ってるの?」
店員さんは首を横に振る。
「俺にとってルカはとても大切な存在なんだ。たった一人だけの友達なんだよ。どんな事でも良いから教えて欲しい。お願いだ」
気付けば、俺は無意識のうちに土下座していた。
ルカがいなくなった日から彼女のことを思い出さない日はなかった。
何一つ情報が掴めることが出来なかったけどようやく一つの手がかりを掴めそうな気がする。
「もう関わらないほうが良い。君も呪われるよ」
店員さんは小さな声で呟いた。
「呪われる?」
確か、ルカも呪われたみたいと言っていた。
「忘れたほうがいい。私はこの商売をしてきたから沢山のヘッドフォンと見てきた。その中で極稀に呪いのヘッドフォンがあるのよ。コードを繋がなくても歌が聴こえるヘッドフォンがね。そのヘッドフォンを買った人は必ず姿を消すの。だから関わらないほうが身の為よ」
呪い。
姿を消す。
ヘッドフォン。
全てルカに当てはまる。
やっと辿りついた。
これでルカに会える。
「俺は呪われたっていい。ルカは今も何処かで苦しんでいるかもしれない。助けてと叫んでいるかもしれない。孤独だった俺に初めて出来た友達なんです!!あの日プレゼントしたヘッドフォンと同じ物は置いてますか?」
俺の必死さが伝わったのか、店員さんの女性は立ち上がって案内してくれた。
「まったく・・・青春ね。残酷な話だけど姿が消えるってことは亡くなってるかもしれないわよ。それでもいいなら付いてきなさい」
シンプルなデザインのヘッドフォンや可愛らしいヘッドフォンなど多彩な種類のヘッドフォンが並んでいる。
店員さんが手に取ったのは、あの日プレゼントしたヘッドフォンとは全く違う物だった。
それも、ケースの中に入っている非売品と書かれたヘッドフォンだ。
「このヘッドフォンは呪われているのがわかっているから非売品にしてるの。このヘッドフォンを買ったお客さんはすぐ返品してきたの。コードが繋がっていないのに歌が聴こえてくるってクレームをつけてね。そのお客さんも行方不明になったわ」
そのヘッドフォンを付ければ、ルカの元へ行けるかも知れない。
たとえその場所が死の世界だったとしても俺は逢いたい。
ルカに逢いたい。
「お願いします。そのヘッドフォンをください」
店員さんはそっとヘッドフォンを頭に付けた。
「え!!どうして店員さんが付けるの!?」
店員さんは少しだけ笑みを浮かべる。
「だって、大切なお客さんだけ苦しめる訳にはいかないよ。私も一緒にルカちゃんを助けるわ。呪いのヘッドフォンを売っちゃった私にも責任があるもの」
そういった瞬間、店員さんの顔が青ざめる。
まるで生まれたばかりの小鹿の様に不安定に足が揺れる。
「・・・聴こえたわ。コードも繋がっていないのに歌が」
店員さんは虚ろ虚ろ俺にヘッドフォンを渡した。
ごくりと唾を飲み込んでしまう。
呪いなんて信じていない。
でも、怖い。
ここまで来て怖い。
でも・・・。
俺はヘッドフォンを頭に付けた。
ゆっくりと呪いの歌が流れてくる。
女性の歌声だ。
歌詞は上手く聴き取れない。
コードの接続部分がゆらゆらと宙を舞っている。
そして、俺はヘッドフォンを外した。
「俺も聴こえました。大丈夫ですか?」
座り込んで放心状態の店員さんの手を取って、体を起こす。
「君は平気みたいね」
「アニメとか見過ぎたせいですかね。非現実なこともすんなり受け入れられたみたいです」
店員さんの手はまるで氷のように酷く冷たかった。
室内の温度もだんだん下がっている気がする。
「少し寒くないですか?」
店員さんは平気な顔をしている。
風邪でも引いたのかな。
床をよく見ると、薄っすらと氷の膜が張り巡らされている。
暖房が付いているのに部屋が凍るなんて有り得ない。
何かが・・・おかしい。
「店員さん。このヘッドフォンをお客さんが返品していた時、何か変わったこととか言ってなかった?」
店員さんは少し眉間にしわを寄せて記憶を探っている。
「そういえば、少し先の未来が見えるようになったって言ってたわ。何かの冗談だと聞き流していたけど呪いの力なの?」
「かもしれない。この部屋の室温は確実に低下していってる。これも呪いの何かだと思う」
店員は凍った床で足が滑って、壁に手をついた。
そして、一瞬で辺り一面が凍りついてしまった。
「え!?」
「うそでしょ!!」
異能力。
人知を超えた不思議な力。
コード無しで聴こえる歌も非現実だけど、手が触れるだけで凍りついてしまうのは非現実過ぎる。
「とにかく、外に出よう」
俺は店員さんと一緒に店の外にでた。
もう後戻りはできない。
ルカを探しにいこう。
「白髪のお兄さんの名前を教えて欲しいな。これから協力し合う仲間になる訳だし」
「俺の名前はシロ。店員さんの名前は?」
「私の名前はメア。シロ、よろしくね」
・・・仲間。
俺はたった一人の友達さえ守れなかった。
俺のせいで行方不明にさせてしまった。
こんな俺に仲間なんて作る資格はないけど、ルカを助ける為に協力して欲しい。
さんも守って、ルカを必ず救い出してみせる。
「よろしくな」
俺とメアはルカを求めて夜の街へと消えていった。
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ヘッドフォンから依然、歌は流れる。
どこか寂しそうで、どこか愛らしい。
正直、呪いとは程遠い歌声だ。
この歌声の主は誰だろう?
ルカは今頃、その人の傍にいるのだろうか。
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凍り付いた店内を眺める5人。
「ルトくん。また新しい能力者が生まれたみたいだね。今度は氷の能力者だよ」
金髪の少女がため息交じりに告げる。
「見ればわかるよ。ルカ、この店を燃やせ」
長いコートを身にまとう黒髪の男が凍った床を少し歩いている。
「わかった」
クリスマスの夜に雪に覆われた白い街で一つの炎が舞った。
3話を読んでくれてありがとう。
物語は始まったばかりですがポイント評価をして頂けると今後の励みになります。
4話はメアが戦います。