タイムマシンのある世界
「私、絶対に行かないからね!」
ばんっ、と夕飯の並ぶテーブル叩き、私は家を飛び出した。
なんで、なんで、今なんだ。しばらく走って、息が切れる。
家の前の通りは薄暗く、街灯が点々と道を照らしている。人通りも交通量も少なく、秋の虫たちが静かに鳴いていた。
部屋着のまま飛び出してしまったため、私は肌寒さにぶるっと体を震わせる。辺りの家からは夕飯の美味しそうな匂いが漂ってきて、それが恨めしかった。
悔しくてやり切れなくて、涙が止まらなかった。
お父さんは、いかにも私のためを思っているかのように言うが、結局は自分の意見をを突き通す。お母さんはそれに黙って同意するのみ。
いつもそうだ。小学校の時の転校も、高校受験をする学校選びも、全部勝手に決まっていく、私がいくら反論したところで、こうやって家を飛び出したところで、結果は変わらないだろう。
でも、どうしてこのタイミングなんだ。
必死に勉強して、せっかくお父さんの望む高校に入ったのに。入学して半年しか経っていないのに。どうして今、飛ばなくてはいけないの。
3年後の未来は、別世界だ。
友達も先生も、少し気になる人も、3年後には卒業している。
大人にとってのたった3年でも、私にとっては全くの別世界なのだ。
風が吹き、足元に新聞紙が飛んできた。見出しが目に入り、目眩がした。
『世界初!タイムマシン、往復型民間機がついに完成。一般向けに利用抽選開始』
秋の夜空は果てしなく、私はどこを目指すわけでもなく走り出した。全速力で、時間が許す限り。