9.初登校1
竹のブラインドからわずかに差し込んでくる朝日が顔に当たる。
結局昨晩は一睡も出来なかった。
頭がぼんやりする。
あんなものを見てしまったら普通寝られるはずがない。
正直、外に出たくない。
あんな巨大生命体が闊歩していた場所に人が出て行っても安全なのだろうか。
そもそもアレは生命体なのだろうか。
「もしもーし、聞いてるかい?」
目の前に立っている見知らぬ人が話しかけてくる。
あれ?今まで寝室に居たはずなのに。
まずい。眠気のせいで寝室から今までの記憶が無い。
「すみません、一瞬寝てました」
「転入早々寝不足かい?」
辺りを見回す。
いくつかのスチールデスクが置いてある。
こじんまりした職員室、か……ここは。
こじんまりしていても職員室のあの独特な緊張感がある。
「改めまして、一年一組担任の若水司です」
笑顔で挨拶してくれる若水先生。
かなり若い先生だ。二十代中盤だろうか。
端正な顔立ちに、肩あたりできっちり切り揃えられた髪。
それにミスマッチな黒のゆったりしたセットアップジャージ。
「折笠悠和です。よろしくお願いします」
「はい、よろしくね」
若水先生は微笑む。
この町は笑顔の素敵な人が多い。
「今日はSHRの時に、クラスのみんなに自己紹介してもらいます」
「はい」
自己紹介か。緊張する。
「まあ、あんまり緊張しなくていいさ。気楽にね」
優しい人だ。
「じゃあそろそろ時間だし、行こうか」
「はい」
歩き出した若水先生の後を追い、僕も歩き始める。
「失礼しました」
誰もいない職員室に礼をする。
「礼儀正しいね、折笠くん」
「そんなことありませんよ。そんな事より先生」
「ん?どうした?」
ずっと気になっていた事が一つだけあった。
「先生、その服装は……?」
真っ黒なジャージの背中部分に金色の龍が刺繍されているのだ。
「これね。どう?」
したり顔の若水先生。
「どう、って何がですか?」
「いやあ、都会から転入してくるっていうからオシャレしたんだけどね」
したり顔のまま背中の刺繍を見せつけてくる先生。
「先生、時代遅れのヤンキーみたいです」
「あちゃー」
若水先生は額に手の平を当て、やってしまったみたいな表情をしている。
「ダサいかな?このジャージ」
暗い顔をしている若水先生。
出来るだけ、やんわり否定しよう。
「先生はもっとカッチリした服装のほうが似合うと思います」
「そうか、カッチリか。明日からカッチリしようかな」
なんだか掴みどころのない先生だ。
そもそもこんな服、どこで売っているんだろうか。




