6.追いかけっこ
「それ、お座敷様ね」
天内さんが帰ってから小夜子さんが帰ってくるまでの間、僕と和琴は引っ越し荷物の荷ほどきを後回しにして、おかっぱ頭の女の子を捕まえようとしていた。
「私一人で追いかけてもすぐ消えちゃうの」
「消える?」
「そう。体がどんどん透明になって、最後は消えちゃうの」
「怖いから追いかけるのやめようぜ、おい」
心霊やオカルトが苦手な僕は、無理矢理和琴に付き合わされた格好だ。
おかっぱ娘の出現条件は、僕と和琴が二人でいる事。
僕らが揃っていると、どこからともなく現れ、視界の端に映るのだ。
おかっぱ娘の外見は、綺麗な青一色の着物に橙の帯を着用、年齢は十歳くらい。そして切り揃えられたおかっぱ。
上品なお嬢さんという印象だ。
和琴は、あえておかっぱ娘を無視し、様子をうかがうために近づいて来たところを捕獲する、という作戦を立てた。
和琴が追いかけてこないことを不審に思ったのか、おかっぱ娘はこちらににじり寄って来た。
作戦成功だ。
「ゆう君、やるわよ」
「待ってくれ、恐怖のあまり膝が笑ってやがる」
「情けない事言わない」
次の瞬間、おかっぱ娘に和琴は飛びかかる。
が、身を翻され、和琴は床に叩き付けられた。
木造の床が、ギシッと嫌な音を立てる。
それを見ていたおかっぱ娘はケタケタと笑って駆け出した。
「逃がさないわー!」
和琴は猛然と走り出した。僕も慌ててそれを追いかける。
おかっぱ娘は綺麗な青い着物をはためかせながら、跳ねるように走っている。
それを追いかける僕達。
おかっぱ娘は手を伸ばせば届きそうな届かなそうな絶妙な距離を保ちながら逃げる。
僕が走り疲れて立ち止まると、彼女も立ち止まってこちらを振り返る。
そして、ちゃんと僕らが走り出したのを確認してから、彼女も再び笑顔で走り出す。
息切れしている僕に、情けない!と叱咤する和琴と大違いの優しさだ。
襖の敷居に思いっきり足の小指をぶつけて悶絶した時なんかは、心配そうな顔でこちらをずっと見ていた。
最初の内は姿が見えるだけで恐怖のあまり叫んでいた僕も、だんだん恐怖心が薄れ、果てはこの鬼ごっこを楽しんでいた。
「お座敷様、ですか?」
息も絶え絶えに、さっきまでの出来事を買い物帰りの小夜子さんに話した。
「そうお座敷様。この町の家には、一軒につき一柱のお座敷様がいらっしゃって、各家を御守くださるの」
一軒に一柱なんて、なんと大盤振舞いなんだろう。
そもそも神様の数え方って柱なのか。
「イメージ的には座敷童子かしらね」
座敷童子なら聞いた事はある。たしか妖怪の類だ。
座敷童子が住む家は栄え、その姿を見れば男なら立身出世、女なら玉の輿が叶うと言われている。
「じゃあ、僕はエリート街道まっしぐらで、和琴は玉の輿確定ってことですか?」
「私玉の輿?やったー」
「残念だけど、ここらのお座敷様は盛衰に関する事はなさらないの」
「そうなんだ」
和琴は心底残念そうに呟いた。
「お座敷様は直接家を護って下さるの」
直接家を?意味が良く分からない。
「それより僕達、おもっくそお座敷様を追いかけ回しちゃったんですけど大丈夫でしょうか?」
「それは大丈夫よ」
小夜子さんは即答した。
「悠和くんと和琴ちゃんが引っ越して来たから、一緒に遊びたかったんじゃないかしら」
神様というから、もっと傲岸不遜な性格をイメージしていた。
可愛らしい神様もいたものだ。




