10.初登校2
「そっかそっか、引っ越し初日で神様を見ちゃったのか」
前を歩く若水先生が笑いながら言った。
木造の三階立ての校舎。私立白神高校。
使い込まれている事が容易に想像できる床は、良く言えば趣がある。
悪く言えばボロい。
今は職員室のある一階から、僕の転入する三階の一年一組に向かっている。
「確かにあんなん初めて見たら寝られないよなぁ」
「あれって本当に神様なんですか?」
「何を基準として本当かと言われると答えづらいけど、この町では神様だよ」
確かに。
本当に神様とはなんだろうか。自分で言ってて謎だ。
だが若水先生の言い方からして、きっとこの町には神様の定義が存在するのだろう。
「そもそも、この町の神様の定義って何なんですか?」
「日が沈んでから出歩ける者は全て神様なんだってさ。この町に古くから伝わる言い伝えだよ」
「出歩ける者?」
「そう。出歩ける者」
出歩ける、という言い方が気になる。
まるで夜出歩くためには、必要な条件や能力があるような言い方だ。
「正直なところ、先生も詳しくは知らないんだけどね」
なんとも頼りない答えだ。
「それにしても折笠くんは神様に興味津々だね」
若水先生に言われ、思いもよらず熱くなっていた自分に気がつく。
なんであんな不気味な者について、こんなに必死に知ろうとしているのだろう。
できればこれ以上、神様に関わらないように生活したいのに。
「すみません、色々聞いてしまって」
「別に謝らなくていいさ。興味を持つってのはとても大切な事だからね」
興味、なのだろうか。
「興味というか、これから住んでいく場所の習慣を知る事は大事だと思います」
「折笠くんはしっかりしてるねえ」
「いえそんな事は」
「そうだ。クラスに神様に詳しい子がいるから、気になるなら聞いてみるといいさ」
神様に詳しい人。
なんだか胡散臭すぎる称号だ。
「まあでも、こういう古いしきたりってのは、若いうちは窮屈に感じるかもしれないね」
若水先生は呟くように言った。
「先生だってまだ若いじゃないですか」
「折笠くん、君は実に良い事を言うね!そのうちジュースでも奢ってあげよう!」
あからさまに機嫌が良くなる若水先生。
大人って、若いと言われるとそんなに嬉しいものなのか。
木製の階段は踏むたびに大きく軋む。
上るたび踏み抜かないか不安になる。
「じゃーん、今日からここが君の教室だよ」
若水先生は仰々しく教室を指して言った。
あれやこれやと話しているうちに三階まで階段を上り切った。
そして階段のすぐそばに一年一組はあった。
「みんな気楽な子達だから、そんなに緊張しなくていいよ」
「緊張してるように見えますか?」
「うん。顔青ざめてるもの」
さすが先生。
階段を上り終えたあたりから、顔が青ざめていくのを自覚していた。
僕は大人数の前で発表したりするのが大の苦手だ。
「大丈夫です」
覚悟を決め、若水先生に言う。
「じゃあ開けるよ」
がらがらと教室の引き戸を開け、教室に入っていく若水先生。
僕も後を追って教室に入る。
見渡すと、がらんとした室内だった。
横一列に並んだ五つの机と椅子。
着席した四人の男女。
四人?
一クラスに四人?




