噂話
ナナリーが家に来なくなって3日が過ぎた。なんとなく気まずくなってしまったのだろうか。このまま疎遠になってしまうのはイヤだ。
人間関係なんてのは、なんとなく顔を合わせずらい程度のちんけでちっぽけな理由で瓦解してしまうほど、脆弱なものだ。
謝りにいったほうがいいのだろうか。
思えば、ナナリーについてぼくはなにも知らないもいいところだ。それなのに、勝手に理解したつもりになって、了解した気になり、把握した振りをして。
出過ぎた真似だったと反省している。
ナナリーがあまりに素朴で親しみやすいから忘れてしまいがちだが、彼女は本来、ぼく程度が気安く口を利けるほどの立場の人間ではないのだ。
彼女は王女。貴き身分の人。
ぼくは平民以下。穢れた身分の人。
最高位と最下位。
だから、謝ることすらできない。
そんな鬱屈した思考でうじうじしていたときだ。
ニュースが入ってきた。
――氷の魔女が復活した。
「氷の魔女?」
「お前知らないのか?」
「は、知ってるわ。あれだろ――なんかほら、相当にヤバいんだろ?」
「やっぱり知らねえじゃねえか」
教会での説教が急遽、中止された。
講堂に集められた子どもたちが、そこここで噂話をかわしている。
後ろの座席のふたりの会話が耳に入ってくる。それを聞くともなしに聞く。
「お前は知ってるのかよ」
「ったりめえだろ。氷の魔女ってのは、『終わりの使者』だ」
「終わりのシシャ? なんじゃそりゃ」
「村の外れにある石盤をみたことあるか?」
「石盤? いいや、知らない」
「じゃあ、帰りに見に行こうぜ」
「なにが書いてある?」
「死んだ人の名前だって、父ちゃんがいってた」
「ほんとか、それ? なんで死んじまったんだ」
「バぁカ。察しがわるいな。氷の魔女の仕業だよ」
「だから、なんなんだよ。氷の魔女ってえのは」
「だから、氷の魔女は『終わりの使者』ってことだよ」
「なんの説明にもなってねえよ」
「とにかく、そいつのせいでたくさん人が死んだんだよ」
氷の魔女については、それくらいしかわかっていない。
――伝説か。
――噂話。
その程度にしか信じられていなかった。
かつて世界を四度滅ぼしかけた、といわれている。
まったく荒唐無稽だと思う。四度も滅ぼしかけたなら、どうして、いまぼくはこうやって毎日毎日、ただ飯を目当てに教会に通っているのだ。滅びてしまえこんな世界。
そういえば、今日は食事を振る舞われるだろうか。
ぼくの関心ごとは、世界の存亡より、今日の食事にありつけられるかにあった。




