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オレンジ婆さん

 朝起きる。8割がた眠っている意識をムリくり稼働させて、でかける準備をする。朝方まで遊び歩く父が起きているはずもなく、高らか鼾。

 それを見て、ひとつため息。ふたつめは舌打ち。父はもちろん起きない。

 家を出る。お人よしの神父が、つい最近、二足歩行を覚えたがきちょんから、ぼくたちくらいの年代の子どもを集めて、ありがたいお説教。ありがた迷惑。

 正直、いつの時代のどこの誰だかわからない神さまのお話などまともに聞く気になどならない。

 ならば、なぜ毎日毎日、通うのか――飯がふるまわれるからだ。

 神さまからの施し――という大業な名の質素な昼食。

「神さまに感謝していただきましょう」

 定型句をいつものトーンで述べる神父。そんなに毎日ありがたがっていると神さまもうっとおしいだろう。

 だから、僕は感謝しない。神さまが感謝オーバーフローに陥らないようにだ。

 飯を食ったら帰る。アランたちが、「貧乏人はがっつくから早食いだな」と煽ってくるが、気にしない。とっとと帰る。

「遅いよ、ぼんくら」

 おかしいな。ぼくは誰かと待ち合わせをした記憶はない。そもそも、いきなり汚い言葉で野次ってくるような人とは、待ち合わせの約束自体しないはずだ。

「レディをいつまで待たせる気だい。この間に50個はじゃがいもの皮がむけるよ」

 基本的に直帰する。だが、今日は”例外の日”のようだ。教会を出てすぐ聞こえた、野卑で粗野な声。

「今日は当番じゃないだろ?」

「ひとり飛んじまったんだよ。最近のガキはどうしてこうも根性がないかね」

 だみ声を轟かせて嘆いてみせるが、こうも次から次へと人が辞めるのなら、問題は雇用主のほうにあると思うのがふつうだが、当の主は思い至らないらしい。

「いろんな経験を積みたいんだろ」

「2日、3日働いたくらいじゃ何にもわかりゃしないよ」

 オレンジ婆さん。村で数少ない食堂を女手ひとつで切り回すゴッド・マザー。およそ性別の設定を神さまが間違えたとしか思えないほど、ぶっとい腕。動かしていないときは決まって両腕を組んでいる。いつもの覇王スタイルなので、子どもたちは極力彼女を刺激しないよう遠巻きに通り抜ける。オレンジ婆さんの周りには結界でも張り巡らされているのではないかと誤認するほど。いや、ほんとに張っていても納得する。

「とにかく急ぎな。夜のオープンまでやることはいくらでもあるよ」

 状況的にはオレンジ婆さんがぼくに手伝いを頼みに来たはずなの、ちっともそう見えないのはなぜだろう。

 ほかに選択肢はなかったのかと我がことながら思うが、ぼくは彼女のもとで手伝いをしている。わずかな駄賃とまかないを目当てに。

 ナナリーを待たせてしまうことになりそうだ。


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