王族の鬱屈
けっきょく、まともな調査にならなかった。ずっと、バカ親父がいたからだ。
「この国の歴史? そんなの知ってどうするのさ。過去を回顧するよりも、明日という未来をみようよ」
終始そんな調子で、ぼくたちの邪魔をしていた。いいこと風になんの意味もない言葉をはくのが父の得意技、というか趣味だ。
「明日という未来」ってなんだ。合唱曲の歌詞かなんかか。
「いいではないですか。またの機会ということで」
ナナリーの家までの帰路。途中まで送るためふたりで人気のない道を歩いていた。
ひとしきり愚痴をこぼしたぼくに、しかし、いちばんやる気になっていたはずのナナリーは、そう諭した。
「どうしようもない親父でごめんね。親父のことはきらいになっても、ぼくのことはきらいにならないでくれ」
「正直ですね」
ナナリーは笑う。彼女が楽しそうにしていたのが、せめてもの救いだ。
理由を問うと、
「ああいうタイプの方、周りにはいませんから」
と、少し寂しそうなようす。
なるほど。たしかにああいう放埓な人間は、王族にはいないだろうし、仕える人間としても不向きだろう。
なかなか見かけない人種ゆえ、ナナリーがめずらしがるのも無理もない。珍獣みたいなもんだ。
「なら、いつでもおいでよ! ああいう人間だから、家にはたまにしかいないけど、ナナリーなら大歓迎だよ」
だからか、思いつきが口をついてでた。父を気に入る理由はわからないけど、ナナリーがそれで我が家に遊びに来てくれるなら、願ってもない。
「ほんとですか? お邪魔しちゃいますよ」
冗談っぽくいうが、その言葉に潜む本心を、ぼくは察することができた。
「王宮」での暮らしは、よほど、窮屈なのだろう。
「ぜひぜひ! それまでに椅子をもうひとつ買っておくからさ」
だから、できるかぎり真剣みを帯びないように。気軽な感じで。冗談も織り交ぜながら。
父ほどうまくはできないけど。
ぼくはいった。
「――ありがとうございます」
ナナリーは、満開の笑顔の花を咲かせた。
アランたちに毅然と接しているときよりも、父の軽口に笑うときよりも、いい表情だった。
それをひとりじめたできたことが、うれしかった。
好意とは、こういう素朴な感情のことをいうのかもしれない。
だが、このときのぼくは、その正体に気づいてなかった。気づけていなかった。
ただ、ナナリーの反応をみて、こちらまで温かい気持ちになり――同時にほんの少し心の奥のほうがぽわんと泡立つのを意識しただけだった。




