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紹介したくないタイプの父親

 私がカレイユとご家族にたいする偏見を解いてみせます――。

 そう宣言してからのナナリーの行動ははやかった。

「なにこれ?」

 自宅。木製のテーブルがぶち破られてしまうのではと危惧するほどの本、本、本、本、本。いくつか絵巻物ようなものも混ざっている。

 どれもこれも相当な年代物のようで、古い紙独特の懐かしい香りがする。

「歴史書です」

 自信満々の表情で手近な上製本を持ち上げてみせる。しかし、書庫の奥に眠っていたからだろう。持ち上げた瞬間に、ほこりが高らかに舞い上がり、ナナリーは咳き込む。

「ケホッ。ダメですね。しっかりお掃除しないと、あっという間にこのざまです」

「ちょっと待ってて」

 ぼくはキッチンより紙ナプキンをふたつ取り、ひとつをナナリーに手渡す。

「口もとを覆えば、多少はマシだと思う」

「わああ。ありがとうございます! 優しいんですね」

 先ほどまでの凛とした態度はどこへやら、ナナリーはまた年相応の少女の顔に戻り、大げさによろこぶ。

 その姿にぼくも少しほっとして、

「父親譲りで女の子には優しくってのがポリシーなんだ」

 と、柄にもない冗談をいってみた。

「お父さん? お会いしてみたいです!」

「やめといたほうがいいよ。ナナリーはまちがいなくきらいなタイプだとお――」

「だれがきらいだってえ」

「おうあ!」

「きゃああ」

 突然カットインした、野太い声にぼくもナナリーも驚きの声をあげてしまう。

 反射的に声のしたほうをみると、窓の外からだれかがこちらを――

「って、バカおやじじゃねえか!」

 わざとのっぺりした声にはしていたが、どおりで聞いたことがあると思った。

「えっ、カレイユのお父さま?」

「そうそう。ぼくがカレイユのお父さんだ。年相応のダンディな魅力を備えたちょいわるおやじ、略してナイス・ミドルだ」

 そういうと窓を開け、サッシに手をかけ、「よっこいしょ」といいながら入ってくる。ドアから入れ。もしくは、通報されろ。そして、連行されろ。そんでもって二度と帰ってくんな。

「よろしくね。カレイユの『新しい彼女』さん」

 はあ。こいつはまた。しかし、黙っているとなにをいわれるかわかったものではない。この場合、沈黙はすなわち死だ。断じて美徳などではない。

「ツッコミポイントはふたつ。以下に列挙する。ひとつ。ナナリーは『彼女』ではない。というか、王家の娘だ。尊い人だ。まともな大人なら顔くらい知っとけ。死ね。ふたつ。『新しい』という表現は著しい誤解を招く。そもそもこれまでぼくに彼女などいたことがないし、今回のような例外をのぞいて、女の子をこんな野蛮な男がいる家に連れてくることはない――つまり、デタラメいうなバカダメおやじ。死ね」

「手っ厳しいなあ。どれが育てたらこうなるのかな。父親の顔がみてみたいよ」

「いやあ、よほど自堕落で適当な最低なクソダメおやじに育てられたと思うよ。そうだ、そうにちがいない」

「恥ずかしいなあ。お客様のまえでそんなにほめるなよ」

 こやつの頭のなかには、「滅びろ」を「すべてのほこりある生命よ生きるよろこびを高らかに謳い上げろ」(略して「ほろびろ」)と変換してしまえるような超高性能前向き式変換装置でも組み込まれているのだろうか。

「その能天気わけてもらいたいよ」

 皮肉をぶつける。

「え、なんてなんて? 俺の男っぷりをわけてほしいって? それはできない相談だよ、息子くん。なんせ俺の心の内からは人間的魅力が横溢していてでな」

 まったく効いていなかった。否。聞いていなかった。

「なんもない。なにもかもぼくがわるかった。だから頼むから黙ってくれ。なんならついでに一族もろとも滅びてくれ。ぼくも連帯責任で焼き討ちしてもらっていいから」

「うん? いいね、迫害ジョークだね。ブラックだね、刺激的だね」

「あの――?」

 その声で我に返った。しまった。ここはいつもの我が家とは決定的で偉大なちがいがあったのだ。父の相手をしているあいだに、きれいさっぱり抜け落ちてしまっていた。

「「うん?」」父もまた忘れていたのだろう。ぼくとおなじくワンテンポ遅れて返事をする。

「自己紹介させてもらっていいですか?」





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