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プロローグ

(第一次調査団隊員 グレゴリー・マシューの証言)


【調査の様子】

 ああ、とんでもない形相だったぜ。だれが『氷の女王』なんて立派な称号を与えたんだか。

 調査隊は、あいつのせいで全滅さ――俺ひとり残してな。

 あいつと目が合うと、死んじまうんだ。なんでかはわからねえ。想像できるか? 気づいたときには、隣にいたやつが氷漬けになっちまっているときの恐怖を。チビるぜ。まあ、小便もあっという間にかき氷だがな。

……ふざけるな?なにいってやがる。あんなふざけた光景みせられたら、こっちもふざけるかーー狂うしか選択肢がねえだろが。

とにかく、ああやって、近づくやつをみんな片っ端から氷像にしてるんだろうな――うん? そういえば、ほかの氷漬けをみなかったな。

 どういうことだだって? 考えてもみろよ。これまで、何度か調査隊やらハンターがあいつを退治・捕獲しようとしたんだろ? けど、みんながみんな生きて戻ってこなかったわけだ。

 そいつらはどこにいっちまったんだ。そら途中で寒さにやられてぽっくりいっちまった腑抜けた野郎どももいただろうよ。けれど、さすがに村の男の全員が、そんな雑魚ばかりだったわけはねえだろ? むしろ、死地に自ら志願して赴いているくらいだ。腕っぷしや体力には、多少の自信があるはずだろ。となると、何人かはあいつのもとにたどり着いてるはずだ。なのになぜ――。

(証言者なにかに思いついたような表情を浮かべるか、首を振って「んなわけねえ、んなことあっていいはずがねえ」とつぶやく。以降、この話題には触れず。証言者は、調査対象が人間を捕食したと推測した模様)


【調査対象について】

 まさに化け物だ。動きやしねえよ。バカみたいにでかい口を開いたまま、固まってやがるぜ。それで目ん玉だけたまにギョロギョロと動くんだ。気味がわるいぜ。

 しかも、あれで世界中を氷づけにしちまうんだからな。恐ろしいぜ。

 ああ、そう言えば、ひとつ変なことに気づいたんだ。

 ――笑うなよ? 死にかけておかしくなってたわけじゃねえからな? そんなに予防線張らなくても大丈夫だ? 

 バカ言え。俺が昔、あれだけ笑うなよ笑うなよと念押しした相談をお前は笑い飛ばしやがったじゃねえか。

 覚えてねえだと! バカ野郎、俺が必死に考えたアンジュさんへのラブレターを読んで、腹抱えて笑いやがったのはどこのどいつだ! 

 ええっと、なんのはなしだったけ? そうだ。氷の女王だ。そりゃよ、ラブレターよりか何倍もロマンチックだったぜ。

 氷の女王はな――涙を流してやがったんだ。ああ!? 噓じゃねえよ! 印象的だったからよく覚えてる。

 あいつの涙は凍りついてた。だから目ん玉が動こうが、涙が落ちることはねえんだ。けれど、妙に印象に残る光景でな。

 ――いつ泣いたんだろうな。どれだけ湧き出てもこぼせない涙ってのは、それはそれできつそうだな。

 ありゃ……キレイだったな。



(あるいは、だれかへのラブレター)


 いま私は最後の手紙を書いています。お父さん、お母さんにも書きたかったのだけど、手がかじかんで、ぼおっとしてきて、もうダメみたい。だから、あなたにだけ書くことにしたんだ。あんまり長くは書けないけどね。

 私、嬉しかった。あなたと出会えて。あなたと話せて。あなたと遊べて。なにより、あなたがふつうに接してくれて。

 あれは、恋だったのかな。え、ちがう? けど、そういうことにしておいて。じゃないと、私、恋愛をしないまま死ぬことになっちゃうから。そんなの悲しいじゃない。女の子なのに、恋ひとつできないなんて。

 でも、ほんとうに嬉しかったんだよ。まさか、そうやってふつうに恋することができる日が来るなんて思わなかったから。そんなこと、とっくの昔に諦めてたから。

 だから、泣きたくなるほど嬉しかった。あのときあなたが、必死で止めようとしてくれて。胸のなかがぽかぽかしたよ。だから、大丈夫。私はじぶんのお勤めを果たすことができる。あなたのおかげ。そう言うと、また怒られそうだね。そんなことで感謝されたくないかな? 

 あなたは、許してくれないんだろうね。ううん、いいの。しかたがないよ。

 あえていいわけをしておくと、運命ってやつのせいじゃないかな。君はきらいだったね。運命とか、宿命とか。だれかに生き方を決められることが。

 でも、そういうことにしておかないと、やりきれないよ。受け入れられないよ。

 ごめんね。そろそろ眠たくなってきちゃった。お別れの時間かな。なんだかとりとめのない内容になっちゃった。おかしいな。書くこと決めておいたはずなのに。

 じゃあ、最後に大事なことをいっておくね。これだけは忘れて欲しくないし、忘れたくないから。

 あなたのことが好きでした。あなたの笑顔が好きでした。

 いいこと書いて、泣かせてやろうと思ったけど、ムリみたい。ありきたりな言葉しか浮かばないから。だけど、これだけは言わせて。

 世界で1番あなたが大好きです。

 けど、ちょっとだけ悲しい。これがあなたに読まれることはないから。

 バイバイ。あなたとの全部、楽しかったよ。

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