掌編――便利屋登場
mixiに投稿した掌編をシリーズ化しています。
(別館ブログからの転載です)
空が青い。
予報通り一週間は晴れるはずだ。あたしは船を降りた。
晴れてはいるけど風は強い。時折砂をまきあげて吹く風。
足元のエアロックゲートを蹴飛ばすと、カメラアイが目を覚ました。
「あ・た・し。入れてよ」
きっとモニターの向こうであわててるに違いない二人組の顔を思い浮かべながら、ゲートが開くのを待つ。
きっかり十分待たされて、ゲートが開いた。
「遅かったじゃない。レディを待たせるなんてサイテーよ」
モニターに向かって言うと、モニター越しに相変わらずムサい格好のマシューが毒づいた。
『誰がレディーだ。レディーってのはなぁ……』
「薀蓄はいいから、早くあ・け・て」
『ったく。急かすな。それから砂はエアシャワーで落とせよ。持ち込まれちゃかなわん。荷物はそこのロボットに渡しとけ』
「やぁよ。われものなんだから」
エアシャワーを通って船内へ。通いなれた道だから迷いっこないわ。
リビングエリアに着くと、シドが待っていた。相変わらず素敵な銀の髭。抱きついてお髭にキスしたいぐらい。
「久しぶりだな、ミオ」
「二ヶ月ぶりね。ねぇ、他に言うことないの? きれいになったとか」
せっかくばっちりお化粧してきたのに。
「あほぬかせ、ツナギ姿で誰がレディーだ」
マシューがそう言いながらのそっと後ろから入ってきた。
「なによう、おろしたてのツナギなんだからぁ」
「砂嵐が治まってくれて助かったよ。あと一週間続いたら、水も尽きるところだった」
「いつもの荷物は搬入しといた。はい、伝票」
マシューに請求書の束を渡すと、中身のチェックを始めた。しばらくは静かになるわ。
「ねえ、あれ、受け取ってくれた?」
コーヒーの準備を始めたシドにいいながら、リビングエリアを眺め回して気がついた。あの鉢が置いてある。
「ああ、春の配達、確かに受け取ったよ。はい、熱いよ」
「ありがと。んじゃ、配達料はちゃんといただかないとね」
淹れたてのコーヒーを受け取る。ん~、いい香り。
「わかってるって。マシューお手製のシチューでいいか?」
「シドのコーヒーもつけてね」
「了解。ところでその荷物はなんだい?割れ物とか言っていたけど」
「ああ、これね」
担いできた箱を開けると、透明なケースに入ったそれをシドに渡した。中の鉢が透けて見えたみたいで、シドは顔をしかめた。
「まさか、プランターセット……?」
「ん。そろそろ前の鉢は枯れちゃっただろうと思って、森林浴セット。リビングエリアに緑がないのは寂しいでしょ?」
シドの手から箱を奪って、説明書どおりに苗を植える。水をやって数分で苗はぐんぐん成長をはじめた。黄緑色の若芽をつむと、とってもいいにおいが広がる。
「あーっ、お前なあ、とんでもないモン置いていきやがって、あとの掃除が大変だったんだぞっ」
と、マシュー。まったく、細かい男は嫌われるんだゾっと。
「掃除をしたのは掃除ロボでしょ? それに桜は散るのがふ、ふーりゅ? だっけ。なんだから、あたりまえでしょ」
「知るかっ! 今度のはジャングルになるとかいう奴じゃないだろうな」
「大丈夫、これ一本だけだし、星の実がなるから一石二鳥よ。ところで、次の砂嵐までオフなのよね」
あたしの台詞の意図を察してか、マシューはあからさまにいやそうな顔をした。
「だから、しばらくここに泊まるわね。よろしく」
「勝手に決めるなっ! 船長も何とか言ってくれよっ!」
「ああ、いいよ。これのお代、だろ?」
箱につけてたカードを手に、シドは快諾してくれた。うふ、だから好きよ。
今回の休みも楽しめそうだわ。
便利屋シェケルの看板娘登場回です。