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掌編――お届け物です

 風が吹いた。そんな気がした。

「船長、予報どおり来やがったぜ」

 地表の施設を確認に行ったマシューが砂を払いながら降りてきた。

「早めに退避して正解だったな」

 地下の施設にいても爆音のような音が聞こえてくるような気がする。

「今回は少し長めらしいな。備蓄は大丈夫か?」

「予報を見てミオが売りつけにきやがったからな。奴ぁ抜け目がねぇ」

 ミオ、とは星間行商人、とでも言えばいいだろうか。『欲しい物を欲しい時に欲しい場所まで』をモットーにあちこちを回る、フットワークの軽い奴だ。

「おまけっつーてプランターセットまで置いて行きやがったぜ」

 そういえば、とマシューは貨物室から一式を抱えて戻っててきた。

 セットをあけると、陶製の鉢と3粒の種、促成栽培用の肥料が入っていた。

 いまどき陶製の鉢なんぞお目にかかったことがない。どこぞの好事家にでも売りつけるつもりで取り寄せたのがだぶついたのだろう。

「外に出られなくて暇だろうってことでくれたんだろう」

「船長、それ、植えるのか?」

「まあ、暇だしな」

 野菜栽培用の土を横取りしてきて、説明書のとおりに植えつける。

「あんなに大量に取ったらあとでハグに怒られても知らないぞ」

 ハグは農園を管理しているロボットだ。

「怒られるのは慣れているさ」

 水を与え、液体肥料を差し込む。

「それにしても、何の種だろうな」

「さてな。鉢のでかさから考えると、それなりにでかくなるかも知れん」

 それなら、と部屋の真ん中に運んだ。

 多少大きくなっても、この部屋なら十分高さも広さもあるはずだ。


 翌日、マシューにたたき起こされた。

「船長、とんでもねぇことになってるぜ」

 素っ頓狂な声に飛び起き、部屋に入ると、視界を桃色が支配した。

「な……んだ、これは」

「俺にきかねぇでくれよ」

 昨日種を植えたばかりの鉢からは立派な幹が生え、空調でそよぐ梢には小さな花が群がるように咲いている。

「これは……桜だ」

 以前、地球で見た桜の話を、ミオは覚えていたのか。

「そうそう、メッセージカードがついてたぜ」

 昨日渡すの忘れてた、とくれたカードには、『春の配達料 晩飯一回』と書かれていた。

「あいつめ」

「へぇ~。なかなか粋なことするもんだな。あのミオがねえ」

 守銭奴ミオがねえ、とマシューはにやにやこちらを見る。

「茶化すなよ」

 舞いながら落ちてくる花びらにミオのあかんべをする顔が重なって、思わず口元がほころんだ。

便利屋シェケルシリーズで最初に生まれた掌編です。

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