従者、力説す
秋も深まり、学園の周囲に映えた木々から葉が落ちる季節になった。
まだ本格的な冬は来ていない、がそろそろ雪が降りだす頃かもしれない。
そんな中、なぜか火気厳禁のはずの図書室で焦げた何とも言えない匂いが充満していた。
「……また、失敗したの?」
呆れた声で、呆れた顔で、そうセリスに聞く。
当のセリスはと言うと、真っ黒になった服をきて、髪の毛の一部がこげ、顔中煤だらけと言う酷い格好だった。
「うぅ……」
「まあまあ、ほら、これで顔を拭きなよ」
「あ、ありがと、オルハ」
お湯に浸し、濡れたタオルを持って来たオルハは、優しくセリスに手渡す。
それに反射的に動いたのは近くにいたショーマだった。
「ちょっと待った! セリスちゃんっ、だったら俺様が拭いてやるからこんながきんちょの渡した物なんて使うな! どんな菌がついているやらわからねぇ!」
「ショーマ、失礼でしょ。ごめん、オルハ……」
頭に鉄拳。喰らったオルハはふらふらと床に倒れた。
最近馴れて来た。
学園に来てからどうしたのだろう。
「いや、気にしてないよ」
そう言ってオルハはショーマをつっついいた。
「まったく、どうして魔術だけはこう下手なの? まったく、魔術師に向いてないわ、貴方」
キツイ事を言ったフレイアは、そういってさっさと図書室から出て行ってしまった。
「……うぅ」
それに、セリスは際限なく落ち込むことしか出来ない。
そう、今日も実技の授業で術式演唱後、大爆発させてしっぱいしたのだ。
こうして焦げるのも五回目だ。
それにオルハは元気付けようとするが、何も言えない。
なんだかんだで仲良くなったオルハとセリスはこうして時々図書館に来るのだが、今日は落ち込むセリスを慰めるためにここに居たりしていた。
「私、魔術師の才能ないのかな……」
「そんなこと全然まったくもってありえないからっ! セリスちゃんがどれだけすごいのか俺様解ってるしっ、だからそんなあんな胸だけでかいやつの話なんて気にしちゃダメだよっ、セリスちゃん!」
「む、胸だけ……って」
思わず、自分の胸を見てしまう。
まるで樹の幹のような、それ。
対するフレイアのあの出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいた姿。
「……」
「セ、セリス、ちゃん?」
落ち込む。
「ショーマ、胸の話とかっ、今関係ないだろ! 確かに、って思ったけど……」
「ひ、酷いっ」
なんて最悪なんだこの二人。
なんだか泣きたくなってきた。
確かにまだまだだけど、今も背は伸びてるし成長期だから、まだ大きくなる余地はあるっ。
でも、下を見て、また落ち込んでしまう。
「オルハ様、失礼します」
「どうした、アルク?」
「叩きます」
「え?」
ぱちんと、音がした。
軽そうに見えて、かなりいたそうな物を見てしまう。
それを行ったのは無表情のアルク。
そして、彼はショーマに向き直り、回し蹴りを見舞った。
「げふっ、って、テメェ、なにしやがるっ!」
「黙って聞いていれば……女性をなんだと思っていらっしゃるんですか、おふた方はっ!」
「……はぁ?」
ショーマは訳が分からない顔でアルクを見ていた。
口はぽかんとあいている。
「いいですか、女性に対して、身体的な発言を言うのは不届き千番! しかも、それをマイナスの意味で使うなどと……男の風上にも置けませんね。救いようのない、アホですっ!!」
「は?」
何を言ってんだ、この人間は。
そんな事を考えているのがまるわかりの顔だった。
「二度とこのような事が無いようにっ!」
なんだか、力説をしている。
周りで聞いていた学生がぽかんとしていたが、次第に女子組から拍手や歓声が上がっていた。
アルクは物静かな人だと思っていたのに、なんだかびっくりだ。
ちょっとだけ、いや、かなり印象が変わることとなった。
後で聞いたところ、女性を尊重するのは当然のこと。紳士たるもの云々略と、ながながと聞かされることとなる。