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綺麗な恋

作者: 砂原樹

初投稿です。

感想など、お待ちしておりますが、多少の粗相は大目に見てやってください!

よろしくお願いします。


 見ているだけでいいんです。


 傍に居られるだけで、私は幸せです。


 初めて会ったとき、あなたが言ってくれた言葉。


 それは、なかなかクラスに馴染めなかった私にとって、とても嬉しいものでした。


 だから……これで十分なんです。これ以上は望みません。


 どうか、この恋を、綺麗なままで終わらせてください。





* * *





 3年生の秋。卒業までは、残り半年を切ってしまっています。

 冬に入りかけた秋の風は、昨日より冷たくて、思わず身を震わせました。


「大丈夫か?」


 声につられて横を仰ぎ見ると、彼が心配そうに私を見ています。

 心配をさせてしまったことを、申し訳なく思いつつも、その言葉に身体がぽかぽかしてくるのを、確かに感じました。


「はい、大丈夫です」


 秋の終わりに差し掛かる、放課後の廊下。今、私は彼に手伝って貰って、プリントを運んでいます。

 別段、委員長などではないのですが、私がもたもたと帰り支度をしていたために、教師の目に止まってしまったようなのです。

 彼には、本当に申し訳なく思います。


「あの……私を気にせずとも、先に帰って構いませんが……」


 本当は彼も含め、4人ほどで帰る予定でしたが、他の2人は早く帰らねばならぬようなので、先に帰ってもらいました。

 今からならまだ追いつきそうなので、言ってみたのですが、彼は渋い顔になります。


「一人だけおいて行けるわけないだろ。それに、こんな重いのを一人で持たせるのは危ない」


「ですが……何か、急いでませんか?」


 心なしか、彼は急いでいるように感じます。歩調も私に合わせてはくれていますが、最初よりも少し速いです。

 やはり、迷惑だったのでしょうか。


「そんな顔するなって。別にこのくらい、大したことじゃない。まあ、急いでるっちゃあ急いでいるが……」


 その言葉を聞いて彼を見ると、ちょうど目が合いました。

 その瞳が心配そうな色をはらんでいて、目が離せなくなります。


「……寒いんだろ?このままだと風邪引きそうだし、早く済ませてあったまろう」


 そう言われて、一瞬理解出来ませんでした。

 徐々に理解していくにつれ、頬に熱があがるのが自分でもわかります。


 ――ああ、本当にあなたは


「……ありがとう、ございます」


 とても、優しいですね。


 顔に集まってくる熱を悟られないように、私は顔を反らしました。




* * *





 教務室にプリントを届けて、その他にも言われたことを全て終わらせると、思ったより多くの時間が経過していました。

 それでも、日が落ちる前に帰らせてくれたことは、素直に嬉しく感じます。

 教室に荷物を取りに行って、再び廊下にでたとき、冷たい風が体に吹き抜けました。

 思わず身を震わせます。

 見ると、どうやら窓が開いているようです。

 誰が締め忘れたのか疑問に思いつつも、窓に近づいたのですが……



「…………え?」



 ふわり、と首もとに暖かなものを感じました。


 それは、触れてみると、ほんのり熱を持っていて。


 ――マフラー?


 その人肌のぬくもりは、今まで使用していた物だと、容易に想像出来ました。


 振り返って見ると、やはり彼がしていたマフラーがありません。

 ……何故なのでしょう。


「ほら、帰るぞ」


 差し出された手を取ると、やはり彼の手は温かかったのです。

 窓は、いつのまにか閉まっていました。




「あの……これ」


 首に巻かれたマフラーを差しながら尋ねれば、どこか拗ねたような声が答えました。


「だってお前、寒そうにしているのに、何も持ってきてないじゃないか」


「………すみません」


「いいって。……返すのは明日でいいから、風邪ひくなよ」


 そう言ったきり、彼は黙ってしまいました。


 けれど、落ちる沈黙は決して不快なものではありませんでした。



 ――彼は、いつでも、誰にでも優しいのです。


 臆病な私には、それがとても好ましく見え、同時にどこか不思議に感じるのです。


 私には、彼のように振る舞うことはできません。だから、余計に。


 ――どうしてあなたは、そんなにも優しくなれるのでしょうか。


 そう思いながら、私は何も言えませんでした。








 綺麗な綺麗な、恋がしたかった。


 物語のように、綺麗な恋が。


 でも、そんなもの、できるはずがないとわかったから。


 だから私は、いつのまにか恋愛に無頓着になっていました。




 3年生の、クラス替え。


 友達の少ない私は、新しいクラスに友達がいなくて、困っていました。


 誰かに声をかけたくて、それでも勇気が出せなくて。


 そんなとき、あなたは声をかけてくれました。


 「友達になろう」と、言ってくれました。


 それが、私はとても嬉しかったのです。




 いつ、どこでそうなったのかは分かりません。


 気付いた時には、私は彼を好きになっていました。


 だけど、現実は、単純ではないんです。


 物語のように、両想いになれることは、ほんの一握り。


 恋に恋するように、気まぐれで付き合うことも少なくないといいます。


 それになにより、彼に醜い感情を見せたくないから。




 それならば、いっそ。


 この恋を、綺麗なままで終わらせましょう。







「あと、半年ですね」


 冬に入りかけたこの季節。卒業まで、あなたと過ごせるのは、あと半年。


「……そうだな」


 実際には半年よりも少ない期間は、長いようで、やはり短いです。


「――約束、して欲しいんです」


「ん?」


 唐突に言い出した私に、彼は不思議そうに首をかしげました。


 ごめんなさい。だけど約束を――お願いを、きいてくれませんか。


 怪訝な顔を浮かべるあなたに、一つだけ。



「せめて……最後まで、友達でいていいですか?」



 4月のあの日から始まった関係。


 短い関係は、彼の他の友達を押し遣ってまで、仲良くしていていいのか、たまに不安になるのです。


 おそるおそる聞いた声は、微かに震えてしまいました。


 もし、否定されたらと思うと、怖くて。



「あたりまえだろ」



 夕日で赤く染まった顔が、笑顔になって当然のように言ってくれるのが、嬉しくて。


「ありがとうございます」


 今日で何度目かのお礼を言いながら、私も出来る限りの笑顔をつくりました。









 ただ、見ているだけで。


 ただ、傍に居られるだけで。


 それだけで、私は満足です。


 だから―――




 残された時間。


 最後まで、あなたを想い続けていてもいいですか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 切ないですねー。
2010/11/23 13:22 退会済み
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