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ときどき不思議なことを言う友達

作者: つのめぐみ
掲載日:2026/05/25

ときどき不思議なことを言う友達がいた。


ずれているというのか、そもそも見ているところが違うというのか。あなたに愚痴をこぼすと毎回もやもやした気持ちが残った。それでも私があなたに相談し続けるのは後からになって納得することが多かったり、私が今まで持ち合わせてこなかった新しい視点に気づかせてくれたりするからだった。


私はあなたに教えを乞うた。私の宗教はあなたに対する一神教だった。だから私は何をしても赦されたし、あなたが何をすることも許されるべきだった。


私はまだあなたを信仰しているのだろうか。


私があなたに最後の相談をしてからもう十年が経った。責めることも愛すこともできずに十年が経ってしまった。


私はあなたという神様を存在させるべきだったのでしょうか。


私はあなたを人間にすべきではなかったのでしょうか。


私はあなたを愛すべきだったのでしょうか。




10年前の4月、大学院生になった。


卒業した大学とは違う学校を選んだ。そこは地図的には隣の県で近く見えたけど、相次ぐ乗り継ぎを要求されることが嫌で、私は実家を飛び出した。


ワンルームマンションは学校の目と鼻の先にあって、階も五階。しかも角部屋。入試終わりに遅れて部屋の争奪戦に出陣した割には幸運な結果だった。


家賃はちょっと学生の財布にとってはお高めだったけど、これまでの実家暮らしを生かした貯蓄と大学院生なら多少高時給なアルバイトにありつけるだろうという慢心が、この部屋に誘われた理由だった。


唯一の隣人は50代くらいの小柄なおばさんだった。どうやら税理士をやっているようで、チャイムのところに「税理士事務所」と文字を貼りつけていた。私はこのときこのマンションが事務所利用しても良いところなのだと知った。


私はおばさんに通算三度エレベーターで遭遇したことがあった。私はあいさつをしようと思ったのだけれど、毎回先に「けっ」と言われるので会釈だけで済ましていた。


この頃のあなたはそのまま地元に残って就職していた。




6月、梅雨が続いていた。大学院には慣れ始めたけど、毎週次々と追加されるレポートの山に体を慣らせているというような時期だった。


私は雨に弱かった。毎日降り続ける雨が、私の自律神経を乱し始めていた。けれど他の大学から来た新参者としての心意気が私を学校に向かわせていた。


それでもある日はきつかった。

 

午前3時、偏頭痛に耐えながら私はパソコンと格闘していた。私は図書館で「サルトル」や「大江健三郎」と名のつく本を片っ端から借りてきて机の上に積み上げていた。もう二週間は借りていたのにすべてに目を通すことはできなかった。


長針と短針が「4」で重なり合う頃、一応のレジュメができあがった。資料発表のある授業は四限、教室には快速飛ばせば十分ではつくから、今から寝ても十分に睡眠が取れると思った。


Every Little Thingの「Time goes by」を聴いている夢を見た。ベースにはきっと除湿機を使っているのだろう。


目を開けた。夢で聴いていたはずのあの音楽がまだ聴こえていた。隣からだった。


隣のおばさんは毎日朝5時に起きていた。


おばさんはベランダの掃き出し窓をガラガラと響かせて開けて「おはようございます!」と誰に向かってか挨拶をする。それから何を言っているかよくわからないが呪文のようなものを唱えると、今度は「えいえいおー!」と叫ぶのだ。


それが終わると6時過ぎまで美空ひばりの「川の流れのように」とかスピッツの「空も飛べるはず」とか層を広めに取った歌謡ショーが開かれる。ラジオ体操が第一第二と続いて聞いたことがない体操もしている。これがいわゆる幻のラジオ体操第三ってやつなのだろうか。おばさんにとって仏壇のリンは打楽器のようで、太鼓の達人みたいに連打している。


私は当初この「早朝おばさん祭りルーティン」を大して気にしていなかった。なにせ大学院生にとってその時間は基本熟睡中だし、仮に起きていてもそれは何かしらのレポートやレジュメ作りに追われていることが原因で、そもそも気にする余裕がないからだった。


目覚めた私は顔まで布団で覆い、耳を押さえた。しばらく包まっていればまた寝られるはずだった。頭が痛かった。脳内がおばさんのコンサートホールと化していた。


私はその日結局眠れずに学校に行った。




私はいつ寝始めても、どんなに疲れを感じていても毎朝一度5時に目覚めた。


おばさんの動く音、おばさんの声がどんどん大きく聞こえるようになった。しまいには些細な物音がすぐにおばさんの挙動に結びついて聞こえるようになった。


鏡は私の青い目元を映した。お風呂場で見たときはもっと黒っぽく見えた。コンシーラーは役に立たなかった。

 

直接話し合いをしに行った方がいいだろうか。そんなことを考えるたびにおばさんが「けっ」と吐く姿が目に浮かんできた。




内カメラとにらめっこをしているとき、あなたからメッセージが来た。


「来月から転勤になるんだ。そっちの近くに住むかも。お部屋探さなきゃ」


そこで自身の盲目さを悔やんだ。最初から話せばよかったのだ。メッセージのやり取りはほとんど毎日続いていたのにどうして気づかなかったのだろう。


「お部屋探し手伝うからさ、私の相談また乗ってくれない? 今週の日曜とかどう?」


返信したのと既読がつくのは同時だった。「いいよ!」と書かれたひよこのスタンプだけが返ってきた。




日曜日は雨だった。


私は入学前以来に実家の最寄りに降り立った。すぐに目が合うのは水が染みて一層濃く茶色がかった木目調のカフェだった。


入店を示すカランコロンと鳴る鈴は小さいけどモダンな教会の鐘にそっくりだった。


あなたがどこに居るかはすぐにわかった。入って左手に続くカウンター席の果て、四人テーブルの窓側をあなたは特等席にしていた。


大学生時代は相談事があるといつもそこで話をした。大学の帰りに一緒に立ち寄ることも多かったけど、今日みたいに待ち合わせの日は毎回あなたの方が先に来てそこに座っていた。


「ごめん、待たせた?」


あなたは声を聞いて窓を射抜いていた丸い瞳を私に向けた。


「ううん」


あなたの両手はコーヒーカップを包んでいた。


「すいませーん。アイスコーヒー、同じやつを」


英国紳士風な髭を生やしたマスターの「かしこまりました」は相変わらずしっとりとした声だった。


「転勤だって? うちの近くに住みたいって」


「うん、あなたに会いやすいところがいいな」


あなたの話し方は相変わらずふんわりとした空気を纏っていた。


「それより、先にあなたの話を聞きたい。今日は一体どんなお悩みなんだろうね」


私は運ばれてきたコーヒーに口づけをした後、腹にたまった苦々しさを吐いた。




私の話を一通り聞いた友人は、コーヒーのおかわりを頼んだ後に続けて言った。


「その人、お金持ちになるといいね。すっごく大成して、すっごく幸せになってほしい」


そうだ。あなたのもやもやするこの返しが聞きたかったのだ。


はじめの頃は、いわゆる不思議ちゃんだとか天然だとか、そんな風にオブラートにあなたを捉えても、納得いかない気持ちと怒りが先行していた。でもその度にあなたは諭すように言葉を紡いでくれるのだ。だからこのときの私の顔は告白者の不安な色よりも、祈禱者の神妙な心持ちの方が色濃く出ていたと思う。


コーヒーがあなたの手許に供えられた。


「お金持ちになって幸せになったらさ、その人はきっと引っ越しをするよね。今よりももっといい部屋に。それでその人が今住んでいる部屋が空いたら今度はわたしがそこに住んで、あなたの新しいお隣さんになれるんだけどなー」


あなたは突然立ち上がって、私の頬を両手で包んだ。


「でも、時間が無いのね」


私はあなたに青くなった目元を見られるのが恥ずかしくて顔を背けた。


「管理会社に相談する? それとも警察を呼ぶ? ううん、どっちも結局時間がかかると思うし、その間お隣さんとぎくしゃくするのも嫌だなーって。じゃあ、いっそのことこっちも毎日お祭り開いちゃうとか!」


あなたの笑顔は無邪気だった。


「けど、違うかな。今回の件って相手は意図してやっているわけじゃないだろうし、あなたがやり返すのってなんか同じ土俵に立っちゃったみたいでよくないよね。だからあなたが直接行動をするのも、我慢して想像だけで相手を責めるのもどっちにとってもよくない気がするんだよね。だったらさ、代わりに相手の幸せを願ってごらんよ。さっきわたしが言ったみたいにさ、お金持ちになって、幸せになって、もっといい部屋に引っ越して欲しいーってさ。この想像って、相手もあなたも幸せになった結末じゃない? そうやって思っているとさ、きっとあなたの都合のいいように周りや自然が動いてくれて、いつの間にか解決しちゃいました! なんてことになっているものなんだよ。汝隣人を愛せよってね。うん? なんかちょっと使い方違うかも」


このときのあなたの笑顔はモナ・リザの微笑のようだった。


その日は不動産サイトを見ながらおしゃべりをした後、日が暮れる前に解散した。


部屋に着いたとき、おばさんのところから「信じ合える喜びも~」と歌声が聞こえてきた。実は歌謡祭は半日毎だったりするのだろうか。


「隣人愛ね」


私は友人の微笑を思い浮かべて笑うと思いっきりドアを蹴飛ばしてそのまま逃げた。




梅雨が明けた。


私の端末が震えたのはあなたからメッセージが来た合図だった。


「土曜空いてる?」


「うん」


「日曜は?」


「まあ、一応」


「そっちの部屋にお泊りしに行ってもいい?」


私は「中上健次」で散らかっている机の上を見た。


「いいけど、狭いし散らかってるよ? あと例のおばさんも絶好調だけど」


「いいのいいの、むしろだから行くんだよ」

 



あなたが来た。あなたが私の住処に入り込むのは初めてだった。


大学時代から知り合って学外で交流することは多くあっても、互いの実家や部屋を訪れたことはこれまで無かった。


「暑い? エアコン入れよっか」


あなたは「うん、おねがい」と言った割には涼しげで額や首筋に汗も見えなかった。


あなたは私が指さしたベッドのうえに荷物を置いてそのまま座ると部屋中に視線を旋回させていた。


「本すっごいね。やっぱり文学で院に行く人は違うなあ」


ベッドの置いてある壁の向かい合わせにあたる壁側は私の身長を超える本棚が三つ並び、端っこにパソコンを置いた作業机を以って一面を形成していた。


右はマンガ、真ん中は文庫、一番作業中に手の届きやすい左の棚には評論書の類が作家の五十音順に並んでいた。


「何か読みたいのがあれば貸すよ」


あなたは「ええーそうだなあ」と言って、本棚の前まで行き、タイトル一つ一つを眺めていった。


あなたは大学時代どんな本を読んでいただろうか。同じ文学部でゼミも一緒だったのに、私にはあなたの読んでいた本のタイトルが何一つ思い出せなかった。


このときあなたが「じゃあこれ」と言って差し出した本もマンガだったのか小説だったのかすら今は覚えていない。


結局私はその本をあなたに貸したまま返してもらっていない。けれど、本棚に巻が抜けたものはないから、きっと続き物ではなかったのだろうと思う。


あなたと私は朝まで起きた。あなたが「おばさんのルーティンをこの耳で聞きたい」と言ったからだ。


いつも通りに始まった窓と呪文の解放を聞いて「わーお」と大げさなリアクションを見せたあなた。歌謡ショーが始まると一緒に歌ったあなた。曲に合わせてラジオ体操をするあなた。リンの連打には「これは響くねー」と言ったあなた。すべてのあなたが隣人を愛して見せた。


「はあ、おもしろかった」


あなたは言った。


「けど確かに毎日は大変かな。調子悪かったり眠れない日だったりしたら特にね」


私と目が合うとあなたは突然両手で私を包み込んだ。


「ねえ、どうにかしたい?」


私は黙ったまま頷いた。あなたは私の耳元に囁いた。


「じゃあ、どうにかしてあげる」


あなたに話すこと、それだけでよかった。


あなたの言うことがたとえすぐ納得のいくものでなかったとしても、結果があなたの正しさを物語ってくれた。特に人間関係の悩みは本当に不思議な力がはたらいているように解決した。


大学時代にあなたに話した嫌な先生も、貧乏ゆすりが癖のあの学生も、みんなあなたに話して以降は自然と私の周りから消えていなくなった。




今回の件もそうだった。


あなたが帰った翌日は、窓も歌も体操もリンも聞こえなくなった。


私はメッセージを送った。


「ねえ、どうやったの? 今日はまったく隣のおばさんの音聞こえないんだけど」


あなたからの返信はなかった。


翌々日も音は聞こえなかった。


「ねえ、今日もおばさん大丈夫だったよ。」


「今日も音なかった! それより返事ないけど大丈夫?」


「音はなし! ねえ、なんかあった?」


あなたに電話をかけようとしたとき、部屋のドアが叩かれた。


「すいませーん、警察ですがー」


ドアスコープには二つの黒スーツが映っていた。


「ああ、突然すいません。○○署の者ですが」


私は「はい」と答えながらシャツの第一ボタンを閉めた。


「お隣の××さん、ご存じですよね? 詳しいことはあまり言えないんですが、少し事件に巻き込まれた可能性がありまして、住人の方に話を聞いて回ってるんです。些細なことでも構いませんので、何か気になったこととか、ありませんか?」


私はほとんど会ったことがないからわからないという旨を伝えてドアを閉めようとした。けれどドアは大きい左手につかまれた。


「本当に何も知りませんか? トラブルとか噂の類程度でも結構ですから」


きっとあの音のことを他の住人から聞いたのだろう。


私は「知りません」と言って、今度こそドアを閉めた。




あなたと連絡が取れなくなってから一か月が経った。


私はあなたを探したかった。けれど実家も分からないし、親族でないからと警察に捜索願も出せなかった。


おばさんの部屋のポストは無理に押し込まれたチラシで溢れていた。




10年が経った。


私は大学院で博士課程まで修了したあと、地元に戻って自身が卒業した大学で非常勤講師をしていた。


私は担当科目を三つ受け持っていたけど、どれも受講者数の少ない授業だった。それでもすべての授業に出席してくれる学生が一人だけいた。


その学生は優秀なレポートを書いた。


私が講義で強調した部分をしっかり踏まえてレポートを書いた。ほぼすべての回で授業後に質問をしてきた。そこで私が答えたことやアドバイスしたことはすべてレポートに反映されていた。


「先生、今日のお話も大変興味深かったです。主人公が不条理な状態から逃走せずに自己を見つけ出そうという姿勢、ここに現れる実存主義は人間の自由を考えることにつながることには非常に納得がいったんですけど、でも作品内の主人公って、筆者というもはや神の位置にも相当するような存在に規定されていると考えることもできませんか? この世界ももし作られた世界だとしたら、私たちは自由に生きているように見えて本当は神と呼ばれる存在に規定されているんじゃないでしょうか?」


私は学生の目に映る自分のことを考えた。


私のこれまでの選択は私を作り上げたのだろうか。それともやはり私は神に選択させられていたのだろうか。



「あなた自身は神の存在の有無についてどう考えていますか」


学生は少し時間を置いて答えた。


「いわゆる神と呼ばれる存在が実際にいるかどうかは分かりません。けど、誰かにとってのその人自身が作り上げた神のような存在はいるんじゃないでしょうか」


「どうしてそう思うの?」


学生はカバンから一冊の本を取り出した。


「最近この本を読んで、なんかわかるなあって思ったんです」


私は学生の両手から本を受け取った。


「それ、去年出版されたものなんですけど、ある死刑囚が獄中で書いた手記を元にしたエッセイなんです。内容に学生時代に仲良くしていた友人との日々を綴ったものがあって。最初はすごいなーくらいのものがだんだん尊敬に変わってきて、ついには愛や信仰心を抱いていったって話があるんです」


本の裏表紙には「大学図書館」と記載されていた。表紙にある著者名は聞いたことがない。おそらく仮名かペンネームなんだろう。


「ちょうど今日返すつもりだったので、興味があればぜひ読んで欲しいです!」




私は家に帰ると着替えもせずにその借りてきた本を開いた。


「今から書く内容は、学生時代の思い出でもあり、反省でもあります。わたしはよく変なことを言っちゃうみたいで、周りの人からは変な視線を向けられてきました。そんな私に唯一いろんなことを話してくれる友人がいたんです。友人はわたしの言うことにやっぱり変な表情を浮かべましたが、それでも何度も何度も話しかけてくれるのです。友人はまじめで頑張り屋さんだったから小さいことでもすぐに気にして悩みも簡単にたまっちゃう性質なんです。それでもわたしと話した次の日にはまた前を向いているような人で、わたしはこの人ってすごいなあと思っていました。話をすればするほど、友人はわたしの目標であり、尊敬する人になっていきました。でもそんな人にあなたのおかげで悩みが解決したって言ってもらえるんです。それってとっても幸せなことだと思いませんか? だからわたしはこの人にすべて捧げたくなったんです。この人の前に立ちはだかる壁はどんな手を使ってもわたしが取り除いてやろうって思ったんです。そんなことをしなくても友人は自分でその壁を乗り越えたんでしょうけど。でも気づいたらわたしは友人を愛していたんです。どうしようもなく愛していたんです。そしてわたしは友人を神のように信仰してもいたんです。だからあの人の言うことは絶対なんです。わたしは友人のためだと理由をつけて正当化してこれまで三人を殺めてしまいました。今では取り返しのつかないことをしたと思っています。けど友人は決して悪くないんです。友人は赦されるべきなんです。そもそもわたしのしてしまったことを友人はきっと今も知らないかもしれません。でもそれならそれでそのまま知らない方がいいと思うんです。だって今の私には直接友人に自分の過ちを懺悔することすらできませんから。執行前に入る教誨室では自らの宗教に合わせて祭壇を選べるそうです。きっとわたしは無宗教にしてくださいと言うと思います。わたしは最期まであなたを思い浮かべてしまうだろうから」

 

私はそこまで読んで本を閉じた。


表紙に印字された著者名はやはり知らない名だった。




本を両手に抱えたまま家を飛び出した。


大学まで走りながら、10年前の記憶を遡っていった。


一緒に帰ったとき、あなたとどこで別れたか。カフェに寄った後あなたとどこで別れたか。あなたはどの方向に歩いていき、あなたはどこで立ち止まったか。そもそもあなたが住んでいたのは一軒家だったか、それとも集合住宅だったか。


あなたはどうやって夕陽に溶け込んでいったのだろう。


朝の光が差し込んできたとき、私は私自身が今どこにいるのか分からなかった。四方にはちゃんと家があるのに、窓を開ける音も、歌を歌う声も、ラジオ体操も、リンの音も聞こえなかった。


私には元来た道を戻ることすら叶わなかった。


自宅に戻ってきたとき、うちのドアは教会の窓のようなデザインをしているなと思った。

私は思いっきりドアを蹴飛ばした。


あのときは見なかったドアの傷がしっかり残ってしまったのを見て、私は不思議と笑いが込み上げてきた。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


実は最後の手記、つまり物語のオチには複数の解釈ができるようになっています。

以下それが気になる方のためにおおまかに三つの読解をご紹介しますね。


①「主人公の友人が死刑囚」

一番こういう風に読めるように書いたつもりではあります。

「私」を想う「あなた」(友人)が、隣のおばさんをあやめてしまい、逮捕されたという読みです。


②「隣のおばさんが死刑囚」

おばさんは事件に巻き込まれたという言い方しかされていません。

「私」の友人がおばさんのところへ話し合いに行くもそこでトラブってしまい、おばさんが罪を犯してしまったという読みです。


⑶「死刑囚はまったく関係のない他人」

小説ではよくみる「私」が勝手に重ね合わせて手記を読んでしまっただけという読みです。

この場合、友人が失踪したのは別の原因があるのですが、それは一体……。


他にも解釈は色々できますので、みなさまが他にこう考えたなどがあれば、ぜひ教えてくださいね。

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